4 ラーの鏡(1) [DQ2上]

4 ラーの鏡(1)

 冬の日が上るのは遅い。
 出発したときはまだ暗かったのだが、歩いているうちに、ようやく明るくなってきた。
 ムーンブルクを出発したアルスとカインは、1時間後、鬱蒼とした森を歩き続けていた。
 アルスとカインはラーの鏡を手に入れてからナナを探すことにした。その最中2人はナナのことについていろいろ考えながら進んだ。
 休憩のために適当な場所を探そうとしたときだった。
 急に目の前の森が開け、小さな沼地に囲まれて、小さな岩場が姿を現した。
 東の空には、ようやく太陽が顔を出し始めていた。
「あれだっ!」
 アルスが言い2人は、喜び勇んで岩場に駆け寄った。小さな沼地は1歩踏み出すたびに、やわらかな沼地に踝まで沈む。
 岩場に近づくと、すぐに、小さな入口を見つけた。
 アルスたちは、慎重に中に入った。
「ギラ!」
 突然、闇の中で閃光が走った。気がついたときは、その閃光が小さな炎の波となって、音を立てながらすぐ目の前に迫っていた。
「あっ!」
 反射的にアルスが横っ飛びでかわすと、「うわー!よけるなんて聞いてないよ、このバカヤローっ・・・・・・!」すぐ後ろにいたカインが小さな炎の波を浴びて悲鳴を上げながら吹っ飛んだ!1瞬の出来事だった。
「誰だっ!」
 アルスは、ゴーグルをおろして鋼鉄の剣を抜いて叫んだ。と、「ふっふっふ」不気味な笑い声と共に、真っ白な仮面を着け、白いローブに緑のマントをまとった魔術師がおもむろに奥の岩陰から現れた。
 ローブの胸には、蝙蝠が飛翔する黒の紋章がある。邪教徒の紋章だ。
 ハーゴンを崇め、悪魔神官の指示のもとに世界中で布教活動をしている下部組織の魔術師だ。
「ギラ!」
 魔術師は胸の前で印を結んで呪文を唱えると、手から放たれた小さな炎の波が、音を上げながら、再びアルスを襲った。
 間一髪、アルスがジャンプしてかわすと、「ちっ!」舌打ちしながら魔術師は、素早くアルスの着地点を読み取り、狙いを定めて呪文を唱えようとした。
 だが、次の瞬間、「ぐおおっ!」突然、強い衝撃と共に魔術師が悲鳴を上げた。
 倒れたまま素早く放った、ゴーグルをおろしたカインの会心の鉄のやりの突きの一撃が炸裂したのだ。
「ヤァーッ!」
 さっそくアルスが急降下しながら、思いっきり鋼鉄の剣を振り下ろした。
 骨を斬るようなすさまじい音が岩場に響き渡った。
 とたんに、魔術師の動きが止まった。
「覚えてろっ!」
 魔術師はそう捨て台詞を残して逃げ出した!
 2人がさらに奥へ進むと、すぐ小さな神殿の前に出た。
 その中央の祭壇に、まるで皿のような円形の鏡が1つ祀ってあった。
「これだ!」
 アルスは、おもむろに手に取った。
 鏡はちょうど両手を並べたぐらいの大きさで、ずしりと重かった。
 翠の外枠には、青い石のジュエルズアミュレットが8つ、魔力を高めるために鏡の周囲にはめ込まれ、美しい文様が、黄金の内枠にはまたさらに魔力を高める古代の楔形文字が彫られていた。その中央に、灰色の丸い大きな鏡が1つはめ込まれている。ラーの鏡だ。
 アルスは、ためしに自分の顔を写してみた。だが、普通の鏡と同じように自分の顔が写るだけだった。
 アルスとカインはムーンペタに戻ることにした。2人はナナのことを考えていた。ムーンブルクが壊滅してもう19日になるが、犬にされたのならそんなに遠くにはいってないはずだ。犬とはいえ、まさか自分のピンチをローレシアまで移動して伝えるのは無理だろう。そこで、ムーンペタにいる子犬が1番怪しいと感じたのだ。あんなに2人に人懐こく甘えてきたのは、自分が王女だと伝えるためなのではないか。ムーンペタに戻ったアルスとカインは、すぐに子犬を見つけた。すでに夕暮れ時ということもあり、周囲に人の姿はあまり見当たらない。子犬を座らせると、・・・・・・どうかナナ王女でありますように、2人はそう祈りながら、そっと子犬に鏡を写した。アルスはラーの鏡を覗き込んだ。なんと、鏡は美しい王女の姿を写し出したっ!
 そのとたん灰色の鏡の表面が、鈍い色を放って、大きく歪み始めた。
 と、突然、鏡がまばゆい七色の光を放ち、『うっ!』アルスとカインは、声をハモらせて思わず目を閉じた。
 まばゆい光は、子犬の全身を包んだ。
 やがて、ラーの鏡は遥か昔から続いた役目を終えて粉々に砕け散った。鏡が砕け散り、姫にかけられた呪いが解ける!光が消えると、アルスとカインは目を開け、『ナナ王女・・・・・・!』顔を輝かせて、声をハモらせ叫んだ。
 ムーンブルクの紋章の入った赤紫のフードをかぶり赤い袖口と裾の白のワンピースな服をまとった、鏡に写った人物とまったく同じ少女が座っていた。
 澄んだ大きな赤い輝きのあるコントラストがはっきりした瞳。まるで雪のような真っ白な肌。整った、高貴な品のある顔立ち。腰まで伸びた、くせのあるしなやかなつやのある美しい金、いや白金髪の長い髪・・・・・・少女のあどけなさが、いくらか残っているが、眩しいほど美しかった。
 手には、壊れたひのきの杖を持っていた。 
(続く)

※次回は13日更新です。
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ともちん

犬に変えられてしまった王女が
人間に戻るところと、ナナの容姿の描写が素敵ですね。
お仕事が大変かと思いますが、次回も楽しみにしています。
でも、あまり根をつめないでください。
by ともちん (2012-07-05 00:43) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
ようやく王女登場です。
大変ですが、なんとかやってます。
お気遣いありがとうございます。
by あばれスピア (2012-07-05 23:00) 

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