16 決戦VS竜王(1) [DQ1]

16 決戦VS竜王(1)


 地底に聳え立つ竜王の宮殿は、異様なほど静まり返っていた。
 時々、水の音がするだけだ。
 息を殺して廊下をまっすぐ進んだアルスは、様子を窺いながら道を曲がり慎重に奥へ奥へと進んだ。
 さらに奥へ進んで、やっと一息ついたとき、アルスは殺気を感じてはっと見上げた。
「ああっ?」
 恐怖に顔が強張った。最初は天井の壁が落下してきたのかと思った。だが、それは拳だった。曲がり角の陰から、アルスめがけて巨大な拳が目の前に迫って殴りかかろうとしていた。強烈な拳が素早く飛んできた。
「うわっ!」
 間一髪、アルスが横っ飛びに飛んでさらにバック宙すると、すさまじい地響きをたてながら小山のような拳が床にめり込んで、地割れが走った。曲がり角の陰から飛び出した相手が容赦なく拳を浴びせた。石の魔物、大男のストーンマンだった。今では竜王の城の番人として竜王の城の警護をしているのだ。
 ストーンマンはアルスの体よりも大きい拳を振りかざした。
 アルスは兜の庇を下ろしストーンマンの股の下にもぐると、拳がうなりを上げて空を斬った。
 ストーンマンは表情1つ変えず拳を振り回してくる。まともに攻撃を食らったら、いくらロトの鎧の力があっても命はないだろう。だが、負ける気はこれっぽちもなかった。ロトの剣を構えたアルスの姿にはまったく隙がなかった。アルスの全身にみなぎる殺気を嗅ぎ取ったストーンマンは一瞬ひるんだ。アルスは素早く呪文を唱えた!
「ラリホー!」
 ラリホーの紫の泡の波動がストーンマンの顔面に命中し、魔物は眠ってしまった!
「ええいっ!どけーっ!」
 アルスが猛然とジャンプして斬りかかると、ロトの剣がオレンジの閃光を放って・・・・・・1度大きく、宙を斬り裂いた。
 その1撃でストーンマンは目を覚まし、無表情だったストーンマンが苦しそうにもがきだし、まるで狂ったように暴れた。
 と、ストーンマンの足が壁にめり込み、壁が崩れて大きな穴が開いた。運よく別の通路に繋がった。
「それっ!」
 アルスはその穴に飛び込むと、ストーンマンも後を追ってその穴に首を突っ込んだ。だが、体が大きすぎて首から下が引っかかった!ストーンマンは強引にその穴を抜けようとし、力任せにもがいた。と、地響きと土煙を上げて天井の岩盤が崩れ落ち、一瞬にしてストーンマンがその下に埋まってしまった。
 ずっと宮殿の中は大理石で出来ている。アルスが飛び込んだ穴の中の部屋は、地上にある1階の宮殿と同じように巨大な円柱に、ドラゴンのレリーフが施してあった。
 ロトの剣は長いときが立ち、かつてのような純粋な魔族を倒すほどの力は残っていなかったが、その切れ味は変わっていなかった。アルスは改めてロトの剣のすごさを知った。
 アルスはロトの剣の柄を握りかえると奥へと、右足を引きずりながら向かった。奥に、さらに向かうと、悪の匂いも強くなった。
 やがてアルスは地底湖に架かった大理石の小さな橋に出た。湖の堀は、宮殿の中まで引き込まれている。橋を渡ると、奥にもう1つ湖に架かった大理石の小さな橋があった。
 アルスはその橋も渡り、さらに奥に進んで角を右に曲がり、「あっ!?」息をのんでロトの剣を構えた。
 そこは豪華な竜王の本物の謁見の間だった。
 その正面で、玉座に座った恐ろしい顔の魔物が、アルスを睨みつけていた。
 口元にはかすかな笑みを浮かべ、片手でドラゴンの頭の形に彫られた杖をもてあそんでいた。アルスと同じくらいの大きさの人型の魔物だ。だが、眼だけは異様に鋭くて冷たい。竜王だった。
 気勢をそがれ、アルスは唖然として竜王を見ていた。仮にも竜王という名前の魔物である。てっきり体の大きなドラゴンなんだろうと勝手に思っていたから、こんなに小さい、しかも一見人間のような魔物だったとは想像もしていなかった。だが、それもほんの一瞬だった。この竜王のために、こんな奴のために、何10万もの人の命が奪われたのか・・・・・・と思うと、胸が張り裂けそうになった。
「お前が竜王かっ!」
 アルスは竜王を見た。
 その目には限りない決意が籠められていた。
「ロトの血を引く者か!?」
 竜王は、喉を鳴らしながら、体に似合わぬおどろおどろした声を発した。
「そうだ!勇者ロトの血を引く者アルスだ!お前を倒しに来た!お前が闇に閉ざした光の玉を取り戻しになっ!」
「良くぞ来た、アルスよ!それにしても、海峡を渡りこの城まで来たのか?見上げた奴。わしが王の中の王、竜王である。はっはっは!」
 竜王は、そういうと喉を鳴らしながら声高に笑った。
「お前ごときに、このわしが倒せるというのか!?はっはっは!お前は知っているのか、もとはといえば・・・・・・」
 竜王は言った。
「光の玉はわしの先祖のものだったのだぞ!」
「なにいいいいっ!?」
「わしはただそれを奪い返しただけだっ!もともと我らの持ち物だったものを、子孫のわしが取り戻して何が悪い!」
 もともと神々の一族である竜神の子孫として生まれた竜王の一族は、人間を保護する神の1人として、天空に君臨するはずだった。
 だが、竜王の父親が誕生したとき母である竜の女王はすでにこの世にはなく、竜王の父親は天上界で、エルフやドワーフ、言葉を話す動物たちにより、育てられた。
 ある日、まだ若い竜王の父親は、地上界に興味を持ち、内緒で地上界に降りある場所に向かった。だがそこは、かつて勇者ロトが魔王を倒したときに、光の玉によって邪悪な力が封印された場所だった。彼にそれを跳ね除ける力はなく、その後、彼とその一族はそれ以来邪竜として生きるようになった。その後、竜王の代になり、竜王はアレフガルドの地を征服し、光の玉を奪い返そうとした。こうして5年前、竜王は配下の魔物を率いてアレフガルドを侵略したというのだ・・・・・・。
「早い話が・・・・・・!」
 竜王は恐ろしい眼でアルスを睨み付けた。
「創造神によって創られたこの世界の外にある新世界は、本来わしの祖母である竜の女王の世界になるはずだったのだ!だが、あのにっくき精霊神ルビスがこの世界を我が物とし、祖母は失意のうちにこの世を去ったのだっ!」
 竜王は杖を握りしめ怒りに震えた。
 その眼は精霊神ルビスへの激しい憎悪に満ちていた。
「しかも奴は、アレフガルドという世界まで創造し、祖母が命と引き換えにこの世に残した、たった1つの光の玉までロトに命令して盗ませたっ!」
「うそだっ!」
 アルスは大声で叫んだ。
「お前はその邪悪な力にだまされているんだ!アレフガルドの伝説によれば、悪や魔物がはびこっているアレフガルドを平和にするために精霊神ルビスがやってきたんだ!光の玉だってロトが盗んだんじゃない!神様から授かったんだ!」
「黙れいっ!」
 低いが恐ろしい声だった。
「人間共が勝手に作った伝説など、コッチは聞く耳を持たぬわっ!わしは待っておった。そなたのような若者が現れることを。のぅ、ロトの血を引く者よ、ものは相談だが・・・・・・」
 竜王はじっとアルスを見た。
「どうだ、わしの味方になる気はないか!?」
「味方っ!?」
 突然の申し出に、アルスは驚いた。
「わしは明日の朝に、新たな戦闘を始める!今度こそ世界征服の戦闘をなっ!」
「何っ!?」
「もしわしの味方になれば、アレフガルドの半分をアルスにやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?それならば、わしらの友情の証としてその剣をもらうぞ!」
「バカなことを言うなっ!」
「どうした?世界の半分を欲しくはないのか?悪い話ではあるまい」
 そうやって2度も尋ねてくれば少し迷いたくもなる。だが、アルスは思った。別に世界の半分などいらない。ここに来たのは何のためなのか。何のために戦ってきたのか。アルスは言った。
「誰がそんな手にのるかっ!」
「では、どうしてもこのわしを倒すというのだな!命は惜しくはないのか?」
「やかましいっ!」
 アルスは兜の庇を下ろしロトの剣を構えた!
「アレフガルドから平和を奪い、多くの命を奪ったにっくき竜王め!覚悟しろっ!」
 アルスは猛然と竜王に向かって突進した。もう足の痛みなど忘れていた。
 大きくジャンプして、「ええいっ!」アルスは思いっきり竜王の頭上にロトの剣を振り下ろした。
 玉座が真っ二つに割れた。だが、竜王の姿が忽然と消えていた。
「あっ!?」
「はっはっは!愚か者め!思い知るがよいっ!」
 背後から竜王の恐ろしい大きなあざ笑う声がした。
 振り向くと、後ろに竜王が悠然と立っていた。
 アルスは再びロトの剣をかざして突進した。
「はっはっは!」
 竜王はこともなげにアルスの剣先をかわすと、恐ろしい眼でアルスを睨みつけて杖を突き出した。
「べギラマ!」
 その杖の先から発した強烈な炎がアルスを直撃した。
「うわあっ!」
 アルスは壁まで吹っ飛び、大理石に背中から激突してそのまま床に崩れ落ちた。
 全身に激痛が走り、骨がきしみ、思うように動けなかった。
 ジャンプした竜王が杖をかざして殴るようにして攻撃してきた。
 アルスは立ち上がり横っ飛びしながら避けると、杖が肩をかすめた。
 アルスは、身を翻してジャンプしロトの剣を振り下ろした。
 それは着地した竜王がちょうど振り向いたところだった。
「やーっ!」
 ロトの剣が命中した。
「うっ・・・・・・!」
 竜王は額を押さえながら膝をついた。
 アルスはさっそくロトの剣を振りかざすと、竜王の体めがけて振り下ろし、「滅びろ竜王―っ!」ロトの剣がオレンジの閃光を発して宙を切り裂いた。また、ロトの剣が炸裂した。
「うっ!」
 竜王は全身を震わせながら、そのまま床に崩れ落ちた。
「やった!」
 喜び勇んでアルスは思わず叫んでガッツポーズしてしまった。
 だが、ストーンマンの体に1撃で大ダメージを与えたロトの剣なのに、竜王の体は血すら出ていなかった。と、突然、「ふっふっふ」竜王は顔を上げて不敵な笑いを浮かべた。
「あっ!?」
「はっはっは!」
 立ち上がると肩を揺らして声高に笑った。
「はっはっは!」
 なおも笑い続けた。そして、杖を振りかざすと、杖から強烈な緑の光が竜王の体を包み込んだ。
 アルスは知らなかったのだが。それは代々竜神の一族に伝わるドラゴンの杖だった。ドラゴンの杖には本来の竜神の力が封印されているといわれている。
 と、竜王の姿が次第に薄れていく・・・・・・。そして見る見るうちにどんどん巨大化した。
 巨大化しながら、笑い声だけは竜王のままだった。竜王の声は正体にふさわしい声になった。
 頭の2本の黒い先が鋭い2本の角になった。眼がさらに鋭くなった。口が大きく裂けた。手の甲が鋭く伸びた。背中に翼が生え、鋭い背びれが生えた。
「ああっ!?」
 アルスは息をのんで愕然となった。
 なんと!竜王が一瞬のうちにアルスよりも20倍もある、天を突くような巨大なドラゴンに変身し、正体を現したっ!
(続く)

※次回は17日更新です。
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ともちん

竜王との闘い、これからが本番ですね!
ドキドキしながら続きを待ちます。

・・・竜王の誘いを断るほうも、誘いに乗るほうも
両方でゲームしましたが、誘いに乗った後の方が
良く覚えているんですね、なぜか・・・(^-^;)
by ともちん (2012-07-16 05:42) 

あばれスピア

ともちんさん
いよいよ大詰めです。
私は誘いを断るほうしかやったことないですが、乗るほうも知ってますよー。
あの展開は有名ですよね。
by あばれスピア (2012-07-17 00:08) 

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