16 決戦VS竜王(2) [DQ1]
16 決戦VS竜王(2)
「がおぉぉぉ!」
竜王=ドラゴンは宮殿の外まで轟くような声で吠えると、火炎の息を吐き、炎が渦を巻きながら目にもとまらぬ速さで飛んできた。
「うわっ!」
アルスはジャンプしてかろうじてかわしたが、着地して、「うっ!」右足に激痛が走った。
ドラゴンは再び火炎の息を吐いた。
燃え盛る火炎はアルスの体をかすめて後方の玉座に命中し、玉座は燃えながら粉々に砕け散った。
「・・・・・・!」
アルスはドラゴンの炎の威力に底知れぬ恐怖を感じていた。
普通のドラゴンの2倍、いや3倍の威力がある。破壊力、火力、速度・・・・・・すべてが桁違いだからだ。
薄笑いを浮かべ弄ぶように、さらにドラゴンは火炎の息を吐いた。
アルスは足の痛みに耐えながら、逃げ回った。だが、逃げるのが精一杯で反撃するきっかけさえつかめなかった。一定の距離から中に踏み込めない!
水鏡の盾を構えて間合いを測ろうとしたとき、不意打ちをくらった。いきなり、顔面に痛烈な衝撃を受け、「うわっ!」吹っ飛んだ。顔の骨が歪んだかと思ったほどだ。
アルスが燃え盛る火炎に気を取られている隙に、ドラゴンは自分の巨大な口で噛み付いて顔面を攻撃し投げ飛ばしたのだ。
アルスは大理石の壁に叩きつけられて床に転がり落ちた。叩きつけられたとき、全身の骨がきしむ音がした。頬は大きく晴れあがっていた。
アルスは必死に起き上がろうとしたが、めまいがして再び床に沈んだ。
顔の攻撃を受けたときに軽い脳震盪を起こしたのだ。何度か頭を振り、めまいもおさまってやっと身を起こしたときだった。火炎の息をもろに浴び、「うわっ!」アルスは火達磨になって熱風に吹き飛ばされた。
それは激痛を遥かに超えた衝撃だった。胸が苦しくて息をするのもやっとだった。意識が朦朧とし、目がかすんだ。ロトの鎧の力がなければ確実に即死だっただろう。
アルスは力を振り絞ってやっと立ち上がった。と、また巨大な顔が襲い掛かってきて、今度は両足に噛み付いて投げ飛ばされた。アルスは反対側の壁まで吹っ飛んだ。
なんとか立ち上がろうとしたが、膝が折れてまた倒れてしまった。
足の神経が麻痺して、動けない!
ドラゴンは残忍な笑みを浮かべながら、火炎の息を吐き続けた。
「うわっ!」
アルスはごろごろ前方に転がった。転がりながら燃え盛る火炎をかわした。
だが、あっという間に部屋の隅に追い詰められていた。
ドラゴンの眼がさらに鋭くなった。そして、火炎の息を浴びせた。
アルスはかろうじて横っ飛びで避けると、熱風を潜り抜けてドラゴンの懐に飛び込み、足にジャンプで斬りかかった。だが、あっけなく跳ね返された。
今度はさらにありったけの力でジャンプし、ロトの剣を振り下ろした。ロトの剣はドラゴンの肩口に当たった。だが、むなしく金属音が響いただけだった。アルスは愕然とした。
「どうなってんだこいつの体はっ!」
ドラゴンは肩を揺すりながら笑った。
アルスはまた斬りかかろうとして、「うわあっ!」顔面に激しい衝撃を受けて吹っ飛んだ。またもドラゴンが顔をあげて噛み付き投げ飛ばした!
アルスは仰向けに倒れて一瞬気を失いかけた。顔面にざっくりと竜王の鋭い牙の痕が残った。
アルスは起き上がろうとして、やっと顔を上げて、「あっ!?」真っ青になった。
頭のすぐ後方で、真っ青な地底湖が水の音をたてていた。投げ飛ばされて竜王の間から飛んできたらしい。見ると手を伸ばせば何とか届きそうなところに、いつの間にか腰のポーチから転がり出たのか、助けた礼にローラからもらったコンパスが落ちていた。
「うっ・・・・・・!」
アルスは拾おうとして懸命に手を伸ばした。だが、体が思うように動かない。
すると、残忍な笑みを浮かべてアルスを見下ろしていたドラゴンが、それに気がつき、無残にもそのコンパスを踏み潰した!
「ああっ・・・・・・!?」
と思った次の瞬間、アルスは再び火炎の息を浴びた。
「うっ!」
と、気が遠くなった。意識が薄れた。
その後もドラゴンは容赦なくアルスに火炎の息を浴びせた。
そのたびにアルスの体は衝撃を受けて、床を跳ねた。
アルスの目の前がだんだんかすんで、やがて真っ白な世界になった。
と、父の顔が、ラルス16世の顔が、ラダトームの街の人たちの顔が、雨の祠の賢者の顔が、旅の途中でであった人々の顔が・・・・・・懐かしい人々の顔が走馬灯のように浮かんでは消えていった。
「アルス様!」
すると最後に、ある叫び声が聞こえてきた。ローラの声だった。
「がんばってください!最後まであきらめないでください!」
そして、ローラの美しい顔が浮かんだ。
「そうだ!負けてなんかいられるかっ!」
アルスは、ローラに答えるように、薄れていく意識の中で叫んだ。ローラはその美しい顔で微笑んだ。
すると、ローラの顔が不思議なまばゆい光に包まれて光り輝いた。そのとき意識が戻ってきた。うっすらと目を開いてぎょっとなった。目の前に恐ろしいドラゴンの顔があった。
ドラゴンは、気を失いかけたアルスの首をつかんで、とどめをさそうとしていたところだった。鋭利な爪がアルスの肌に食い込んで、血がだらだら流れていた。実際は、爪が食い込んだ痛みで、アルスの意識が戻ったのである。
「・・・・・・ここまでだ・・・・・・、遊びはおしまいだ・・・・・・!」
ドラゴンは眼光鋭く睨みつけ、喉を鳴らしながらおどろおどろした声で言った。
「これでなっ・・・・・・!」
だが、ドラゴンが指に力を入れようとしたのと同時だった。アルスが力を振り絞って、「負けてたまるかーっ!」渾身の力を籠めてドラゴンの左眼めがけロトの剣を突き刺した。
ロトの剣は、鍔の先まで眼に突き刺さった。
「がおぉぉぉっ!」
不意をつかれたドラゴンは思わずのけぞって、アルスを床に叩きつけると、左眼を押さえて身悶えた。そして、再びアルスに火炎の息を吐いて襲い掛かってきた。
だが、燃え盛る火炎はアルスをかすめて床に炸裂した。間一髪、アルスがドラゴンの懐に飛び込んでいた。
ドラゴンは憎憎しげにアルスを見下ろした。ここまで接近されれば、自分の体が邪魔して火炎の息を浴びせることが出来ない!
ドラゴンは顔をかざして、アルスに噛み付こうとした。
アルスは右に左に飛んで必死にかわし、ドラゴンの大きな口が、何度もむなしく空を斬った。そして、顔が何度目かの空を斬ったとき、「やーっ!」アルスは高々とジャンプした。
突然顔の前に現れたアルスを見て、ドラゴンはぎょっとなった。
次の瞬間、アルスは渾身の力を籠めて、ドラゴンの体めがけてロトの剣を突き刺した。
「ぐおぉぉぉっ!」
ドラゴンの叫びが、地下のこの階全体に響き渡った。
運よくアルスのそばに竜王の前足があった。アルスはその上に両足を置くと、素早く呪文を唱えた。
炎に燃ゆる精霊たちよ
創造神の力を借り
盟約の言葉に拠り
我が手に集いて力となれ
「べギラマ!」
再び渾身の力を籠めて、刺さったロトの剣めがけて炎を発した。
ドラゴンの顔に衝撃が走り、右眼が見開いた。
アルスはさらに強く激しくべギラマの炎をロトの剣に注ぎ込み続けた!
「ぎゃあぁぁぁ!」
ドラゴンの最期の悲鳴が宮殿に轟いた。
アルスはロトの剣を抜こうとした。だが、どうしても抜けなかった。
ドラゴンは天を仰いで5歩よろけ、アルスは振り落とされた。
床に落ちたアルスは魂が抜けたような顔でその場に座り込んだ。体力も気力も、すべての力を使いきった。
そして、ドラゴンもまた天を仰いだまま動かなくなった。と、大木が倒れるように硬直したままゆっくりと倒れた。倒れながらドラゴンはアルスを振り向いて残った右眼で鋭く睨み付けた。
そのとき、アルスには1瞬ドラゴンの動きが止まったように見えた。
ドラゴンの眼は恐ろしさよりも、驚きと無念さに満ちていた。どこか哀しい眼をしていた。
ドラゴンは何か言おうとしてかすかに喉を鳴らした。
だが、それまでだった。竜王=ドラゴンの体が急に大きく傾くと、ロトの剣が体に突き刺さったまま、真っ青な底の深い地底湖に落ちて、沈んで消えた。
アルスは呆然として見ていた。そして、いくらか体力が回復してくると、「やった・・・・・・!竜王を倒した・・・・・・!ついに・・・・・・!」苦しそうに声を出してつぶやいた。
「そうだ!光の玉だ!」
アルスはやっと立ち上がると、右足を引きずりながらふらふらと竜王の間に向かった。
立っているのさえ、やっとの状態だった。顔は醜く晴れあがっていた。全身に痛みが走った。
玉座の後ろの棚に、立派な装飾をした小さな宝箱があった。
「あれだ!」
アルスは宝箱を開けてその中を見た。朱の絹の布に包まれた丸いものが1つ入っていた。
「あった!」
目を輝かせて取り出した。両手にすっぽり入るほどの、占い師がよく使うような水晶球ぐらいの大きさだ。
絹の布を取ると、美しい光の玉が現れた。
「光の玉か・・・・・・!これが・・・・・・!」
アルスはじっと光の玉を見つめた。胸の奥から熱いものが込みあげてきた。
アルスは光の玉を竜王の手から取り戻した!すると、アルスの意思と関係なく、手が勝手に光の玉を使わせた。アルスは、光の玉をかざした。
ローラ!
アルスは心の中で叫んだ。何よりまずはローラに会いたい。
光の玉をかざすとまばゆいばかりの光が辺りにあふれ出す・・・・・・。
ゆっくりと地下じゅうがまばゆいばかりの光に包まれていくとき、アルスは光の玉に映し出された不思議な光景を見ていた。誰かが光の玉を使うと、見たことのない真っ黒な怪物がその光を浴びて苦しそうに暴れだした。場所はどこかの地下のようだ。そして怪物を倒そうと3人の仲間たちも現れた。その後怪物は何かの光によって倒された。すると場面は突然変わり、さっきより一回り狭い地下に1羽の巨大な鳥が飛んできた。翼を広げた美しい姿は、ロトのしるしの紋章にそっくりだった・・・・・・。
この光景が何を意味するのか、今のアルスに理解できるはずもなかった。
やがてゆっくりと光が消えると、あたりに邪悪な魔物の気配は、どこにもなかった。
世界に平和が戻ったのだ!
あとがき
竜王との戦いです。
とうとうここまで来たって感じです。
竜王と光の玉と竜の女王のあの関係は、知っている人は知っている公式設定ってことで活用させてもらいました。
こないだ発売された冒険の歴史書にもそれっぽいことが示唆されてたと思うので。
戦いは、今回ばかりはある意味お決まりの走馬灯でやりました。
次回からはこうはいかない・・・はずなので、変えてやっていけたらと思います。
残すところあとわずか。
もう少しお付き合いください。
※次回は8月内に更新予定です。
バイトなどの都合により変更の可能性があります。
2012-07-17 23:34
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コメント(2)
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手に汗を握って読みました。
読み終わって、ぐったりとなりました。まさに激闘でしたね。
とうとうここまで・・・読んでいる私も感慨深いですが
書いてらっしゃるあばれスピアさんには、もっと違う何かを
感じられているようですね。あと一息、頑張ってください。
by ともちん (2012-07-18 23:46)
ともちんさん
こんばんは。
今まで妄想の中でのことだったことを、文章で完結させること自体がはじめてなので、私もどうなるかどきどきです。
by あばれスピア (2012-07-19 23:26)