5 風のマント(1) [DQ2上]

5 風のマント(1)

 東の海上から、容赦なく冷たい風が吹きつけてくる。
 海に沿って南に進んでから4時間後、砂漠のような砂丘を越えると、勇者の子孫たちは進路を西に変え、森へと進んだ。
 10時間ほど前、ムーンペタの街を、勇者の子孫たちは出発した。
 そのムーンペタの武具屋と道具屋では、それぞれの店の主人たちが、自警団を結成して、まだ残っていた。アルスとカインもムーンブルクにいくときに新しい武具を買うために以前利用していた。
 勇者の子孫たちがムーンペタの店に入ると、王女の姿を見た武具屋と道具屋の主人たちは、歓びの声を上げ、涙を流しながらその無事を喜んだ。
 最初道具屋の主人は、警戒してナナのことを信じようとしなかったが、ムーンブルク城に何度か招かれたことのある武具屋の主人が、ナナの顔をよく知っていたのだ。
 そして、勇者の子孫たちから、ムーンブルク壊滅後のいきさつや旅の目的を聞いた武具屋の主人は、『王女は生きている』という報告を生き残ったフォルグ王遠縁の魔法使いに知らせるために、店の店員を屋敷へと向かわせると、道具屋の主人が護身用のためにと、聖なるナイフを、ナナのために提供してくれた。
 もちろん、武具屋の主人は、ムーンペタの重要な職業の者以外の者には決して『王女生存』のことを話してはならないようにと魔法使いへの親書に書いておいた。また、他の人々にも、決して口外してはならぬと命じた。ハーゴン配下の魔物の群れにそのことを知られたらまずい、という配慮からだ。
 森の中は風が少し和らいだが、橋を渡り山や森をさらに越え、橋を3つ渡って3つの森を抜けて砂漠に入ると再び風が強くなった。
 一緒に旅を始め、勇者の子孫たちの行動はこんな感じだ。
 カインは、いつもマイペースだ。アルスやナナがそれぞれ作戦をたてていようが行動を急いでいようが、自分のペースで変わった行動をしたり話したりする。なんだか、何を考えているんだかわからないところがある。そのため2人に、特にアルスによく突っ込まれる。
 だが、役に立たないかと思えば、何気に鋭い一言をついていたり何かの答えにつながるような行動をしていることがよくあった。どこか憎めない、実はムードメーカーな感じだ。
 ナナに関してはまだわからないところがある。今のナナは、必要なこと以外、ほとんど口をきこうとしなかった。
 いつも、思いつめたような哀しい顔をしていて、うわさに聞く、吸い込まれるような眩しい笑顔を1度も見せなかった。それだけ、ナナの悲しみは深い。
 そして、アルスは勇者の子孫たちのリーダーとして行動していた。だが、どこか熱血なところがあり、思い込んだら1直線、うまくいけばいいが、外れると悲惨な目にあうこともあり、それを2人に突っ込まれることがあった。
 そういえば、カインは確かにのんきもので打たれ強く見えるけど、実はああ見えて心は繊細みたいだな。
 アルスは、以前戦闘で、ナナの行動がカインよりも勇気があったことに・・・・・・カインがショックを受けていたことを思い出した。
 ナナを元の姿に戻した翌日、ムーンペタを旅立って1時間後の森の中でのこと。以前ムーンブルク城で出現したあのキングコブラが、現れた。毒を受ける前に倒したいところだ。
 カインはさっそくいつものようにゴーグルをおろすと、印を結んでギラを唱えはじめた。
 だが、それより早く、聖なるナイフを構えたナナが、渾身の力を籠めてナイフを振り下ろした。ナイフの刃が、うなりを上げて空を斬った。
 聖なるナイフの、鋭い刃先がキングコブラを襲った。
 すぐに、キングコブラの固い表皮が少し裂けた。
 意外な攻撃だった。
 ナナの物理攻撃では、たいしたダメージは与えられない。
 だが、以前と比べて人数が増えたため、こちらの手数が増えて余裕が出来た。その1発で、キングコブラはすでに弱っていた。
「ギラ!」
 そこへ、内心驚きながらもカインは容赦せず、ギラを唱えた。
 小さな炎の波が消えると、巨体を傷つけられ燃やされたキングコブラは、無残な姿をさらけ出して青白い光に包まれて消えていった。
 ナナは、額に汗を浮かべ、小さな肩で苦しそうに息をしながら、その様子を見つめていた。
 アルスとカインは、唖然としてナナの勇気を見ていた。始めて戦ったときのカインよりも、度胸がある。カインは、明らかにショックを受けていた。
 だが、そんなことにいつまでもこだわるようなカインではないということは、アルスが1番よく知っている。
 なんだかんだで同い年同士、そして勇者の子孫同士仲良くやっていけそうなパーティーだった。
 砂漠をさらに進むと、風はさらに強くなった。
 地鳴りのようなすさまじいうなりを上げ、黄色い砂塵を巻き上げて、竜巻のような烈風が容赦なく襲い掛かってきた。空まで黄土色に染まり、目を開けているのさえやっとだった。
 砂漠を抜けると今度は大草原に入った。
 見渡す限りの、一面の枯れ草が、荒れた海のように、激しく波打っている。
 そして、大草原に入って2時間後の夕方。
 夕日の中に悠然と聳え立っている風の塔が見えてきた。
 巨大な8階建ての石造りの四角い塔は、かすかに傾いて見えた。
 近づくと、想像していたよりもずっと荒れ果てていた。何100万という気の遠くなるような石を積み重ねて造られた塔だが、石壁が、風と砂塵にさらされている。
 塔の中に入ると、そこも廃墟同然に荒れ果てたままだった。
 床を吹き抜ける砂塵。石壁と石柱。それしかなかった。
 勇者の子孫たちは、塔に入ると、慎重に奥へと進んだ。
 外側の北東に、上に上がる長い階段があった。階段の1つ1つの段の角は、まるで削られたように丸く磨り減っている。ナナの話だとこの塔は完成して167年がたっているという。その長い間に、数え切れないくらい多くの人々がのぼりおりした後だ。
 その階段をあがって2階についたときだった。突然、前方の暗がりから、相手が呪文を唱えて猛然と襲い掛かってきた。
「また会ったなあっ!ギラ!」
 以前ラーの鏡を探しているときに戦ったあの魔術師だった。どうやら以前戦ったときの傷は回復しているようで、「今度こそお前たちを倒してやる」と意気込んでいた。だが、3人になったことで戦いは楽になっていた。
 勇者の子孫たちは、3方に飛んで相手の小さな炎の波を交わすと、さっそくカインがゴーグルをおろして鉄のやりを突き刺した。
 骨がきしむような強烈な衝撃が、魔術師を襲った。
 魔術師は、「ぐおおおっ」と悲鳴を上げて苦しそうに暴れた。
 立て続けに、聖なるナイフを構えていたナナが攻撃すると、「ぐおおおっ!」魔術師がまたも悲鳴を上げて、激しく全身を痙攣させた。
 そして、ゴーグルをおろして鋼鉄の剣を構えたアルスが疾風のように突進した。
 3度目に魔術師が「ぎゃああああっ」と悲鳴を上げたとき、アルスの鋼鉄の剣が体を突き刺していた。アルスは、鋼鉄の剣を抜くと、今度は肩口から思いっきり斬り裂いた。
 魔術師は恐ろしい形相で睨みつけ、最後の力を振り絞って頭上で印を結ぼうとした。
 だが、そこまでだった。やがて、魔術師は全身を激しく痙攣させながら、よろけて5メートル下がると、階段から足を踏み外し、真っ逆さまに長い階段を転げ落ちて行った。そして、青白い光に包まれて消えた。元は人間かもしれないが、今の魔術師はれっきとした魔物のようだ。
 3人は、さらに3階に上がって、4階へ続く階段へ向かった。
 すると、カインは突然誰かの気配を感じ、「なんか後ろから僕ら以外の誰かがついてきてる気がするよ」とこわごわいい「そんなはずあるわけ・・・・・・」とアルスが言いながら3人で振り向くと、『うわあっ!』声をハモらせて真っ青になって飛び退いた。
 いつの間にかそこに、カインがアルスと出会う前に戦ったことのある青いローブを身につけそのフードをかぶった幽霊が、空中に浮かび上がっていた。
 ムーンブルク城襲撃の少し前から、ハーゴンの影響によって無数の魔物の群れが平和だったときに比べて凶暴化したが、襲撃後、その殆どが新しい獲物や住処を求めて西へ東へとぞろぞろ散っていった。おそらくこの魔物の幽霊やさっきの魔術師はその1部で、いつの間にか流れてきて、この風の塔に住み着き例えば魔術師は布教活動のアジトにしていたのかもしれない。
「ええいっ!」
 カインが、必死に恐怖をこらえながら、鉄のやりを突き出した。
 強烈な衝撃が、幽霊を襲った。
 続いて、ナナも必死に恐怖をこらえて聖なるナイフを振り下ろした。
 ナイフの攻撃に、幽霊のローブの端が、少し切り裂かれた。
 さっそくアルスが鋼鉄の剣で斬りかかり、攻撃を受けた幽霊は、瀕死状態になった。
 勇者の子孫たちは、この先も戦うこともできた。だが、「こんなところで相手してたらからだが持たないよっ・・・・・・!」ここに来るまでの消耗を考えてカインが叫び、勇者の子孫たちはたまらずその場から逃げ出した!4階への階段を駆け上がる!
 幽霊は、空中を浮かびながら勇者の子孫たちを追いかけた。
 だが、1直線に進んでいって、4階への階段の石壁にぶつかると、ばらばらになって崩れ落ち、青白い光に包まれて消えた。
 勇者の子孫たちは必死に逃げた。4階から、さらに5階へと逃げた。さっきから外周の、狭い通路を進んでいるようだ。
 足を踏み外さないようにその通路のほぼ中心、塔の南西側の角まで行って、やっと一息ついた。そして、あたりがすっかり暗くなっているのに、気づいた時だった。
 突然、不気味な足音が接近してきた。
 見ると、名前のとおりラリホーを唱えてくるアリの魔物ラリホーアントが襲撃してきた。相手の大きさは大なめくじと同じぐらいだ。
「こっちだ!」
 アルスが叫んで退き、1番近い石壁と石柱の角まで逃げて壁を背にした。
 壁を背にすれば、後ろからの攻撃を気にしなくてすむからだ。
 ナナは、聖なるナイフを身構えて、素早くナイフを振り下ろした。
 とたんに、ラリホーアントの動きが止まり、音をたてて、からだが少しひび割れた。
 さっそくアルスが鋼鉄の剣で斬りかかり、「マホトーン!」カインも呪文を唱えて援護した。
 だが、ナナやアルスの攻撃それぞれ1発だけでは倒しきれず、マホトーンの魔力の光を浴びて呪文が封じられてしまったラリホーアントは、体勢を立て直すと、再び襲い掛かった。
 ナナは再び聖なるナイフで攻撃した。
 だが、斬っても斬っても、その生命力はなかなか衰えなかった。
「ギラ!」
 カインが呪文を唱え、ラリホーアントは小さな炎の波に包まれた。だが、今日ムーンペタを出発したときと比べ、カインの魔力は消耗し、その効果は薄くなっていた。
 それでもなんとかラリホーアントを焼き倒した。ラリホーアントが青白い光に包まれて消える中、カインはぐったりとして床に倒れてしまった。また、ナナとアルスも両腕がしびれて、ここに来るまでの疲れもあって聖なるナイフや鋼鉄の剣と鋼鉄の盾を持つのさえやっとの状態だった。
 そして、1分半後・・・・・・5階から今度は下に下る階段を次々と進み、やっと勇者の子孫たちは目的の階段にたどり着いた。
 2階に降りると、勇者の子孫たちは、息を殺して、奥へと進んだ。
 石壁に囲まれた部屋で、赤いマントをまとい白い鎧を身に着けた小柄で痩せた男が、ただ1人で待っていた。この塔に棲む戦士だった。
 戦士の顔は皺だらけで、頬はげっそりと落ちている。手も指も骨だらけだ。
 戦士は、「待っていたぞ・・・・・・」と、しわがれた声で言いながら、勇者の子孫たちを見た。
「勇者の子孫たちよ・・・・・・」
 戦士は、親しみを籠めてそういった。
(続く)

※次回は16日更新です。
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コメント 2

ともちん

3人での戦闘シーンは初ですね。
これからどんどん連携攻撃も上手になってくるんでしょうね(^^)
それぞれの個性も出てきて、そこも楽しみのひとつになりました。
by ともちん (2012-08-12 03:15) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
戦闘シーンは大変ですが、3人の成長がこれからどうなるのか書いていけたらいいです。
今3人の個性をなんとか出すのに苦労しているところですが、がんばります。
by あばれスピア (2012-08-12 22:59) 

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