5 ロマリア(3) [DQ3-1]

5 ロマリア(3)

 カザーブの村は、ロマリア地方から北の低い山々に囲まれた、小さな盆地にあった。入り口にあたる場所は西側で、夜でも広く開かれ続けていた。アルスたちが西の入り口にやってきたのは、ロマリアの城下町を発ってから2日目の昼過ぎのことだった。ロマリアで1度装備を整え、カンダタのアジトを確かめるために、カザーブをめざして北へ進んできた。3人とも武器は鉄の槍、防具は鎖帷子と青銅の盾だった。アルスの鎖帷子はショルダーガードから紫のマントを伸ばしていた。カザーブは、10か月前まではカザーブ地方の交易の中継地点として賑わった宿場だった。かつて素手でクマを倒したことがある偉大な武道家が教会の墓で眠っていると有名だったが、今では訪れる旅人もほとんどなく、ひっそりと静まり返っていた。
 昨日の夜からなにも口に入れていなかったアルスたちは、かつて運がよければ相手を一撃で倒すことができるという毒針を販売していたらしい東の道具屋の向かい側の、食堂をかねた南東にある古い宿屋の前で足を止めた。カザーブの宿屋や酒場を探したところ、営業していたのはここと北東の酒場だけだった。ここまでの道中は、決して思い通りには運んでいなかった。昨日、3人は夜に休憩しているところを、ポイズントードやコウモリ男の群れに襲われた。その名の通り、ポイズントードは攻撃と同時に毒攻撃をしてくる魔物だ。
「ギラ!」
 アルスの呪文でポイズントードを牽制し、ミゼラとエルトの槍が相手に突き刺さり、敵は青白い光に包まれて消えた。だがアルスはポイズントードの攻撃で毒に侵されてしまった。エルトが覚えたばかりのキアリーを使おうとしたとき、コウモリ男たちが呪文を唱えた。
「マホトーン!」
 その呪文の効果で、アルスもエルトも呪文を封じられてしまった。特にコウモリ男はマホトーンの呪文を使い、おまけにこの魔物は空を飛び回るためか守備力まで高かったためなかなか致命傷を与えられない手強い相手だった。苦戦しつつも3人は何とか直接攻撃して魔物の群れを倒し、呪文の封印は解除された。
「キアリー!」
 だがアルスが受けた毒はエルトが呪文を使って消えたものの、この時の戦いでアルスは右腕に、エルトは左腿に手傷を負っていた。
「ホイミ!」
「ホイミ!」
 エルトやアルスがそれぞれ呪文を使って多少は回復したものの、傷ついた2人の足取りは重く、もともと1日で到着するはずがカザーブに着くまでに予定より5時間遅れていた。
「ここまで旅してわかったことは、1番の大敵はモンスターよりも時間ってやつね」
 夜にロマリアで買いこんだ食料も尽きてしまったとき、ミゼラがぶっきらぼうに言った。
「今回みたいにモンスターとの戦いで怪我をするだけじゃないわ。わたれると思ってた川が氾濫してたり、越せると思ってた峠ががけ崩れで通れなくなることだってあるかもしれない。だから、食料や薬草はいつも多めに用意していた方がいいわね」
 到着予定から考えて、1日程度の食料を準備したのはアルスだった。アルスは自分の考え方が甘かったのを反省した。カザーブに入る3時間前からはアルスたちは、ミゼラが30分かかってやっと見つけて捕まえた鹿の肉で飢えをしのいできた。
「あいにくですけど、大した料理はできないんですよ」
 宿屋の食堂で、40代半ばの宿屋の主人は水の入った素焼きのコップを3人の前に置いた。アルスたちはカンダタのアジトについて尋ねたが、「さあ・・・・・・。カンダタのアジトですかあ・・・・・・。シャンパーニの塔って噂は聞いたことありますけど、本当かどうかはねえ・・・・・・」主人の首を傾げながらの答えにアルスたちは、またか・・・・・・といった表情で顔を見合わせた。
「私は、カンダタを追ってここまで来た。なんでもどこかの塔に逃げ込んだらしいんだが」
 途中でもカンダタに騙されて追いかけている荒くれに話を聞いたが、その反応は同じようなものだった。想像以上に、カンダタの居場所がシャンパーニの塔だということは、普通の人々にはあくまでも噂程度の認識のようで、本当かどうかはわからないようだった。ちょうどその時、入り口から腰の曲がった白髪の老人が入ってきた。高齢だが、足取りはしっかりしていた。
「わしはカザーブの村長じゃ。よそからお客がみえるのも珍しくなりましたからのう・・・・・・」
 名乗った村長は、言い訳がましく言った。どうやら村人たちから聞いて、正体を調べに来たらしいことがすぐにわかった。そこでアルスたちは聞かれる前に名乗り、旅の目的を告げた。
「カンダタのアジトについて、何か知りませんか?」
 アルスはカンダタのことを尋ねたが、「おそらく、どこへ行ってもカンダタのアジトのことは誰も知りますまい」やはり同じ答えが帰ってきただけだった。すると、ちょうど主人がアルスたちが注文した品を運んできた。
 カザーブでは、それとは別の噂も聞けた。眠りの村がある、という突然には信じられない話だ。カザーブから北に行くと、ノアニールがある。その村はエルフを怒らせたために、村中眠らされたという。そのノアニールの西の森の中に、エルフたちが隠れ住んでいるらしい。
「眠り続けている?」
 その話を聞いて、アルスたちは驚いて顔を見合わせた。
「あの村は村人全部がずっと眠り続けておるんじゃ・・・・・・。ノアニールのずっと西に、エルフの隠れ里がありましてな・・・・・・。エルフたちはもともと人間嫌いで、ホビットやおとなしい魔物以外とは接触を避けておったんじゃが、どういうわけかは知らんがエルフの娘とノアニールの若者が恋仲になりましてな、娘がエルフの隠れ里に伝わる秘宝夢見るルビーを持って、その若者と駆け落ちしてしまったんじゃよ。きっと若者にそそのかされて夢見るルビーを持ちだしたに違いない・・・・・・そうエルフは思いこんだ・・・・・・と、まあカザーブではこう伝えられておるんじゃよ」
 村長はそう教えてくれた。
「いじらしい話だな。きっとその娘さん、みんなを困らせようとしてやっただけだろう。そうすれば、きっと結婚を許してくれると思ったんだよ」
 エルトが言った。
 それからしばらくして、オレンジのマントをなびかせて疾走する人物が、カザーブの入り口にたどり着いた。一見、育ち盛りの少年のように見えた。だが、よく見ればまだ若い娘だった。娘は、アルスたちを追ってロマリアからずっと走ってきていた・・・・・・。
 ・・・・・・そして、アルスたちがカザーブにたどり着いてから3時間後の昼過ぎ。日はまだ高かった。
 娘は、カザーブに1軒しかない宿屋でやっとアルスたちに追いついた。
 アルスたちが、その宿屋の酒場をかねた食堂で遅めの昼食をとっていると、足音が宿屋の前で止まり、やがて呪文が使えることを示すオレンジのマントを伸ばした美しい娘が、大きな黒と黄緑のとんがった帽子を手に颯爽と入ってきた。
 伸びやかに成長した肢体。豊かで艶やかなくせのあるセミロングの栗色の髪。黒色の切れ長の輝きのある瞳。気品のある鼻梁。形のいい、それでいて意志の強そうな目・・・・・・歳のころは17、8歳ぐらいの、堂々として存在感のある美貌の娘だった。白のジュエルズ・アミュレットのピアスを身に着け黄緑のローブを紫の帯でしばり、黒のグローブの上からオレンジのグローブをはめ、オレンジのソックスと黒のブーツをはいていた。手には杖を持っていた。
 このあたりでは見慣れない、しかもとび切りの美しい娘の登場に、地元の客たちは思わず見惚れた。が、すぐさま冷かしの声を飛ばした。それに対して、娘は動じることもなく、目ざとく奥の席のアルスたちを見つけると、大股で歩きながら近づいていった。と、近くにいた若い男が酒臭い息で卑猥な言葉を吐きながらいきなり娘の腕をつかんで抱き寄せようとした。
 だが、娘は素早く手を払いながら何かブツブツいい杖を掲げると、早い話が攻撃呪文を唱えた。
「メラ(こっそり)」
 ボッ!
「ドワッ!」
 いきなり小さな火の玉が男の全身をおおった。手加減して唱えたので小さな火の玉は一瞬にして消えたが、威嚇するには十分だった。男は青くなって震え、そそくさと自分の席に戻ってしまった。
「わたしたちになんか用?」
 娘がアルスたちの前に来ると、ミゼラが尋ねた。
 娘はじっとアルスたちを見つめた。澄んだコントラストのはっきりした黒の眸に見つめられて、アルスとエルトは思わずドキドキした。すると、娘は親しげに大人っぽく微笑んだ。どこか神秘的で華やかな笑顔だった。その顔には安堵感があった。
 娘は、アルスたちがカンダタを追って旅立ったという話を聞き、どんな人たちなのか一刻も早く見たいと思っていた。そして、アルスたちを見て、この人たちなら・・・・・・と安心した。
「私はローザ。ロマリアから来たの」
「ロマリアから?一人で?」
 思わずアルスが聞くと、「これからカンダタのアジトへ行くところなの」ローザはアルスたちの反応を楽しむかのようにいたずらっぽく笑うのだった。
 アルスたちは声をハモらせ驚いた。
『なにいいっ!』
(続く)

※続きは26日夜~深夜に更新です。
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ともちん

こっそりメラにウケてしまいました。
仲間の入れ替わりを感じます…
ともあれ、続きを楽しみにしてますね。
by ともちん (2014-08-08 00:52) 

あばれスピア

ともちんさん
もともと今回のメラみたいな展開がやりたかったんですよ(笑)。
こういった場面これからもうまく入れられたらいいんですが。
仕事やらなにやらでちょっと遅くなりますが、お待ちください。
by あばれスピア (2014-08-08 22:44) 

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