5 ロマリア(4) [DQ3-1]

5 ロマリア(4)



「この村のはるか西にある、シャンパーニの塔にね」
 アルスは早速聞き返した。
「シャンパーニの塔!?やっぱりそこがカンダタのアジトなのか!?」
 ロマリアの城下町からずっと聞いていたシャンパーニの塔。それは、北大陸の西にある古い遺跡で、凡そ67年ほど前に、ナジミの塔とともに魔王の出現に備えて建築された4つの塔の中の1つだ。
「間違いないわ。昔からずっと変わっていなければだけどね」
「なんでそんなことを知ってるんだ?」
 アルスが尋ねた。
「カンダタに盗まれたルビーのペンダントを取り戻したいから」
「ルビーのペンダント?」
「話を聞かせてもらいましょうか」
 ミゼラが横の席を勧めた。
「・・・・・・苦手なんだけどなあ、身の上話」
「仲間になりたいんでしょ?一人じゃ戦えないから」
 そういいながらもミゼラの口の端は笑っている。別に悪意があるわけではない。
 ローザは豊かな髪をかきあげて微笑んだ・・・・・・。
「・・・・・・くやしいけど、図星よ」
 ・・・・・・17年前のある朝のこと。
 城下町の城壁の門前に捨てられていた生まれたばかりの赤ん坊を、ちょうど旅から帰ってきた老人が見つけた。かわいらしい女の赤ん坊だった。産着には、曰ありげな美しいルビーのペンダントがはさんであった。気の毒に思った老人は、赤ん坊にローザと名付、同じロマリアに住む姉の老魔導士に預けて育てさせた。老人はロマリアのスパイで、自分の家を留守にすることが多かった。
 ローザは、ルビーのペンダントをおもちゃ代わりにして育ち、片時もルビーのペンダントを離そうとしなかった。
 もしかしたら、ローザの体を流れている血とルビーのペンダントには、一般人には測り知れない特別なものが存在しているに違いない。それが出生の秘密に深くかかわっているはずだ・・・・・・老人はずっとそう思っていた。
 ローザが5歳のとき、魔導士の家のある裏通り一帯がカンダタ率いる盗賊団に襲われ、ルビーのペンダントを盗まれてしまった。当時のローザの衝撃は尋常ではなかった。それにルビーのペンダントは、ローザとローザの親をつなぐ唯一の手がかりだ。ルビーのペンダントがないと、永遠に彼女たちの糸が切れてしまう・・・・・・そう考えた老人は、何とかペンダントを取り戻そうと決意し、自分の任務のかたわらカンダタを追跡するようになった。
 だが、ローザが7歳のときだった。老人がついにカンダタのアジトの情報を手に入れ、城下町へ帰る途中のこと。老人はバラモスの出現とともに出没するようになった魔物の群れに襲撃され、瀕死の状態で城下町に運ばれてきたという。そして、カンダタがシャンパーニの塔をアジトにしている・・・・・・とローザに言残して息を引取った。
 その後もロマリア王の命令で何度か討伐隊が派遣されたが、カンダタを捕まえることは出来なかった。そこで、ロマリアの兵士には任せておけないと判断したローザは、自力でペンダントを取り戻す決意をし、10か月前から老魔導士に呪文を教わるようになった。
 そうして、凡そ1か月前ローザは17歳の誕生日を迎えた。だが、育ててくれた老魔導士を一人残して旅立つことを躊躇っていた。また、一人でカンダタに立ち向かっていくことに不安もあった。
 ところが昨日のことだ。近所の宿屋・・・・・・つまりアルスたちが泊まった宿屋の主人から、アルスたちがカンダタのアジトを探して旅立ったという話を聞くと、もう居ても立ってもいられなくなった。すると、ローザの気持ちを察した老魔導士が、愛用の杖を授けて、遠慮なく旅立つよう勧めてくれた・・・・・・。
 翌日の早朝、アルスたちは装備を整えると、ローザと一緒にシャンパーニの塔に向かって西へ進んだ。エルトは木の帽子をかぶり、ミゼラはカザーブでもらった毛皮のフードを装備した。アルスとミゼラは鉄の鎧、アルスとミゼラとエルトは鱗の盾を使うことにした。アルスの鉄の鎧のショルダーガードからは、紫のマントが伸びていた。
 ローザはロマンチストで、アルスに負けないくらいお調子者で命知らずなところもある、エルトと同様頭のよい切れ者の娘だった。また、ロマリアから一人でカザーブの村まで来ただけあって、ローザの呪文の知識には目を見張るものがあった。
 カザーブを発って2時間後の昼、川原で休憩していたアルスたちに、突然荒々しく吠えたてながら、アンデッドの動物の魔物の大群が襲いかかってきた。鋭い歯でかみつきながら襲ってくるアニマルゾンビだった。アルスたちは素早く槍をつかんで斬りかかった。相手の動きは割と鈍く、大したことなさそうだった。そのときだった、敵の呪文が唱えられたのは。
「ボミオス!」
 敵の呪文が遠吠えのように響いた瞬間、アルスたちの全身を魔力の蜘蛛の糸のようなものが絡みつき、動きが鈍くなってしまった!
「何だこりゃ、体が!」
 相手の呪文に戸惑いながらアルスが叫んだ。
「元通り動けるようにしなきゃ。エルト、ピオリムを使って!」
「動けるように?そうか!・・・・・・ピオリム!」
 ローザの言葉に、エルトはすぐに答え、呪文を唱えた。ボミオスと正反対の、素早く動けるようにする呪文だ。エルトのピオリムで、魔力の蜘蛛の糸はすぐにすべて切れた。
 元通りの動きを取り戻したアルスたちは、アニマルゾンビめがけて攻撃を殺到させ、直接攻撃を受けたアニマルゾンビたちは瞬時にして息絶え青白い光に包まれて消えた。
「すげぇ・・・・・・」
 アルスはかわいらしい少女がすぐに判断したあまりの呪文の知識に、しばらく呆然としていた。
「いやあ、すごいぜローザ!そうだ、俺たちにもっとそんな感じの役に立つ呪文教えてくれないか!?アルスの勇者としての修行にもなるし」
 エルトがアルスと自分を指差しながらいうと、とたんにミゼラが嫌な顔をした。なにも知らないローザが微笑みながらうなずくと、「おまえも習うか?」エルトはわざとミゼラをからかった。
 ミゼラにいわせれば、戦士にとって呪文は邪道だ。ミゼラがむっとして横を向いたが、文句は言わなかった。休憩する間は以前と同様に剣術の稽古を続けていたし、確実にアルスとエルトの腕は上がっていた。
 こうして、次の休憩から剣術の稽古のほかに呪文の修練が日課の1つに加わることになった。
 ローザはアルスとエルトには主に魔法使い系の呪文を教えた。魔法使い系の呪文を今のエルトには使えなかったが、将来的に賢者になった時に備えて、その知識を教わることにした。
「ダメじゃないアルス!もっと集中してといったでしょ!後早口もしっかりとね。そんなんじゃ呪文を唱える前に、先にモンスターにやられるわよ!」
 ローザの教え方は、スパルタといってもいいぐらい厳しかった。いつものローザからは想像もできないほど真剣で、情け容赦なく叱咤してきた。そんなローザもまた、そのようにして老魔導士に教え込まれていた。旅に出る前は、それこそ朝から晩まで血反吐が出るくらい練習していた。ローザによると、高名な老魔導士の教え方はすごく厳しい教え方だったという。呪文は極度に魔力を消耗させる。いつも剣術の稽古のあとに呪文の修練があるが、エルトやローザによる僧侶や魔法使いの呪文の修練が終わると、アルスはぐったりとしてしばらく動けないほどだった。
 そして、カザーブを発ってから15時間後の夕方。なだらかな峠を越えて、「すごい!」ミゼラは思わず声をあげた。目の前に茜色に染まった広大な草原が広がっていた。その草原が風に揺れるさまは、まるで海かと見間違えるばかりの風景だった。そのかなたにシャンパーニの塔がそそり立ち、西の地平線に大きな夕日が沈もうとしていた。ロマリアを発ってから、すでに3日になろうとしていた。アルスたちは、足音を響かせ、一気に峠を駆けおりていった。
 が・・・・・・やがてふたたび峠に静寂が戻ると、一陣の風が吹き抜け、砂塵が舞った。そのあとに、紫の鱗に5つの首を持った巨大な竜が忽然と姿を現した。
 5つの首は、氷のような冷たい眸でじっとアルスたちを追っていた。その中の1つの中央の首は額から左頬にかけて大きな刀傷のあとがあった。そして、眸・・・・・・いや目は、無残にもざっくりと抉り取られていた。竜の魔物の名はキングヒドラ。バラモスと同等の地位を持つ、相手の情報を探るスパイである。

あとがき
ロマリア(とカザーブ)での出来事です。
仲間関係は別れと出会いですね。
これからもよく登場する仲間がコロコロ変わる予定です。
長くなりそうなので、今回はカンダタの情報などを手に入れる・・・ところまでにしました。
次回はカンダタ戦。
今書いてますが、ただいま内容増量中です。
噂では今DQ10にカンダタが登場する配信クエストが配信されるようになったとか。
そういった意味でもちょっとはタイムリーな話になりそうですね(別に意識してないんですが)。
※次回は9月1日更新予定です。
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ともちん

いよいよカンダタとの戦いですね。
次回も楽しみにしています。
by ともちん (2014-08-31 01:04) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
カンダタ戦ただいま絶賛制作中であります。
間に合うか不安ですが頑張ります。
by あばれスピア (2014-09-01 00:30) 

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