8 イシス(2) [DQ3-1]

8 イシス(2)



「どうなってるの全く!?」
 ミゼラが忌々しげにピラミッドの壁を蹴飛ばした。
 すでにこの中に入ってからかなりの時間が経過していた。1階はなにも考えずに進むと床に功名に隠された落とし穴に落ちてしまい、呪文が全く効かない地下に落とされてしまう。そうでなくても床も壁も、そして天井も巨石を組んで築かれたピラミッドの内部は恐ろしく入り組んだ迷路になっていた。いかにも何かありそうな通路の先は行き止まりになっており、何気ない石室の影に階段が造られていたりする。まるで内部は古代の建築家がアルスたち侵入者を防ぐべく困らせるためにさまざまな仕掛けを施して築いたような建造物だった。
「わかったわ!」
 シークスの後ろで、後衛を務め最後尾を歩いていたローザが叫んだ。
「上よ、天井を見ればいいのよ」
「どういうこと、それは?」
 シークスの前を行くミゼラが怪訝な表情で尋ねると、ローザは半ば得意気に手にした杖をかざしてみせた。
「このピラミッドも大昔はもっと人の出入りが多かったのよ。だから・・・・・・」
 ローザが気づいたのは天井に付着した煤だった。本来の道筋、つまり階段に通じていたり重要な部屋へつながっている通路の天井はそれだけついている煤の量が多くほかの場所より色が黒い。
「・・・・・・なるほどね。墓荒らしだか昔の王家の連中だか知らないけど、なかの様子をよくわかってる人間は無駄な場所を通るわけないもんね」
 ミゼラが関心すると、4人は天井についた何百、何千年も前の松明の煤を頼りに歩き始めた。ある通路には立派な像が置かれている。このピラミッドに眠っている国王だろうか・・・・・・。
 途中アルスたちの前に魔物が変装した姿、正体不明のあやしい影が現れた。だが、シークスは落ち着いてアルスたちを制すると、自分と同じぐらいの身長のあやしい影にチェーンクロスで立ち向かっていった!
 短い気合いとともにシークスの長身が高々と宙に舞った。同時にあやしい影の体もジャンプした。
 アルスはすぐには自分の目が信じられなかった。助走もなしで、シークスはあやしい影の3倍もの高さまで飛び上がった!
 また、あやしい影も盗賊の並外れたジャンプ力に動転していた。全身を震わせながら奇声を発して広がり、盗賊を飲みこもうとしたが、灰色の身体がシークスに触れることはなかった。と、次の瞬間、「ギャーッ!」すさまじい気合いが空を切るとチェーンクロスの攻撃をくらった魔物の身体が床に吸い込まれ青白い光に包まれて消えていった。1瞬の出来事だった。そして、そのかたわらにシークスが何事もなかったかのように着地した。呼吸1つ乱していなかった。
 ノアニールでの事件のときもそうだったが、アルスは今のシークスの動きが見切れなかった自分の悔しさに内心腹立たっていた。いつの日かきっと今の動きも見切れるようになってやる。そしてあのカンダタの太刀筋も・・・・・・そう考え乍ら。その後も何度か魔物に襲われはした。あやしい影の次に現れたのは火炎ムカデだった。火炎ムカデは火の息を吐こうとしたが、自分の出番といわんばかりにローザが呪文を唱えた!
「ヒャド!」
 ヒャドは、普通に使うとメラの氷バージョンの呪文だ。炎と違い延焼などの心配がなく、また単体攻撃呪文なので、市街地での戦闘に適している。魔力が強力なものになると、前方に向かってかざした手のひらから冷気の波動を放ち、その波動に触れたものを氷づけにする。普通のものより射程距離は短いものの、桁違いの威力を誇る強力な呪文となる。またアレンジできるなら、爪先ほどの小さな氷の矢を、無数に放つ呪文にもなる。これは殺傷能力は無きに等しいが、当たるとひたすら痛い。目標の戦う意志を奪うのに最適の呪文である。
 ローザの呪文は火炎ムカデの身体を氷で包み、完全に包んだとき氷は身体とともに跡形もなく青白い光を纏いながら四散した!
 さらにミイラ男も現れた。力の強い邪悪な意志でよみがえったミイラだ。ミゼラが鉄のオノで攻撃し、アルスが呪文を唱えた!
「ニフラム!」
 ミイラ男は浄化され、光の中へ消し去られた。
 一行は3階に進んだ。中央の玄室らしい広間は重い岩でふさがれ、その南東と南西の壁には小さな丸いボタンがいくつかある。アルスは思い出した。イシスの子供が歌う童歌にはピラミッドの秘密が隠されているということを!アルスは城で子供が歌っていた歌を思い出しながら不思議なまん丸ボタンを順番に押していった。最後のボタンを押すと、どこからか重い岩の動く音がした・・・・・・。
 こうして一行は、玄室らしい広間へと足を踏み入れた。そして、その時になってアルスたちはシークスの姿が見えないのに気付いた。
「どうしたのかしら?まさか逸れたわけじゃ」
「彼ならきっと大丈夫さ」
 心配するローザにアルスがそういったとき、ミゼラの足が止まった。
「どうやらお迎えらしいわね・・・・・・」
 ミゼラが前方の闇を見ると、小さな動物の影が1つ浮かび上がった。アッサラームでアルスたちをつけていた怪しい猫だった。
「にゃ~ん。待っていたぞアルス。おまえも親父のあとを追って地獄に行くがいい」
「なに!?どういうことだこれは!?」
 アルスが思わず叫ぶと、突然猫の体を毒々しい紫の霧が包み込んだ。やがてその霧が晴れると、そこには小さな悪魔のような魔物が立っていた。身長は大人の顔より一回り大きいほどで、手には三又の矛の代わりに同じぐらいの長さのフォークを持っている。黄色いグローブとブーツを身に着けた顔以外紫色の魔物・・・・・・ベビーサタンだ。
 ベビーサタンは喉の奥で笑ってバカにするように舌を出したその時・・・・・・!ローザには突然どこからともなく不気味な声が聞こえた・・・・・・ような気がした。
「・・・・・・ちょっとぉ、変な声ださないでよー」
「俺なにも言ってないぞ?」
 アルスが答えたとき、女たちは悲鳴をあげた。
「ミイラ男がたくさん!」
「・・・・・・陛下の財宝を荒らすものは、われらの眠りを妨げるものはだーれーだー・・・・・・」
 ミゼラの言葉にアルスが振り向くと玄室の入り口にミイラ男が4匹立ちはだかっていた。全部で5匹の魔物はジリジリと間合いを詰めてきた。
「あの小悪魔のモンスターは任せた」
 アルスの言葉にミゼラは驚いた。
「1人であのミイラ男たちとやり合おうっての!?」
「ローザを頼んだぜ!」
 アルスは敢然とミイラ男たちに挑みかかった。
「小賢しいガキめ。そんなに死に急ぎたいか!?」
 最初に声を発したと思われるミイラ男の1体がアルスの鉄のオノを上半身を横に回転させながらはじこうと憎々しげに叫び、「このピラミッドにあったお宝はどうした?」渾身の力で上半身を押しとどめながらアルスが叫んだ。
「バカめが!もともとお宝などここにはありはしないんだ!すべてはうぬらをおびき寄せるための罠よ!」
 魔物はそういい放つとアルスのオノを弾こうとした。だが、アルスのオノはピクリとも動かなかった。
 魔物には信じられなかった。相手は見たところそこまで力があるようには見えない。それなのに・・・・・・。
「どこにこんな力が・・・・・・!?」
 ミイラ男は思いがけぬアルスの力に苛立った。
 そしてアルスたちの背後では、ベビーサタンを相手にローザとミゼラが戦いを始めていた。
「イオナズン!」
 魔物はミゼラが斬りかかるより1秒早く呪文を唱えた。しかし。
「なにも起こらないわね・・・・・・!」
 相手が何かを唱えようとするのに気付いてミゼラの足は止まったが、ローザが唖然としながらいった。気を取り直してローザは杖を構え、「ここはあたしが何とかするわ!」素早く攻撃しようとした。だが、今度もまたベビーサタンの呪文が僅かに早く大気を震わせていた。
「メガンテ!」
 地の底から響くような声が、恐ろしい呪文の波動が玄室の壁に伝わった・・・・・・ような気がした。ローザは、もしかしてとんでもない奴なんじゃ、と思わずにはいられなかった。だが、さっきと同じだった。
「・・・・・・・・・・・・???うげ!魔力が足りなかったか!えーい!どうせ同じことよ!」
 ベビーサタンは懲りずに攻撃を繰り出して来た。今度は冷たい息というちゃんと使える攻撃だったが、もう十分力は見せてもらった気がするんだけど・・・・・・、とローザは呆れて思った。と、「ギャーッ!」断末魔の悲鳴が、闇に吸い込まれた。そして、額を割られたベビーサタンの体が仰向けに倒れた。
「すまん。こいつを取りに行ってたもんでな」
 青白い光に包まれて消えていく魔物のかたわらに立ったシークスが肩からかけた袋の中から金色に輝く黄金の爪を取り出して掲げてみせた。
「それがお宝なの?」
「こいつは、イシスの古い伝説が伝える黄金の爪だ」
 ローザの問いにシークスが答えた。シークスがイシスへ来たのは、本当は黄金の爪を手に入れるためだった。
 極度の緊張から解放されたローザは思わずその場にしゃがみ込んで大きく息をついた。と、ミゼラがアルスの戦いに気づきローザとシークスも思わず振り返った。
「ラリホー!」
 ベビーサタンが倒された時、玄室の反対側ではアルスが呪文で紫の泡の魔力を複数発生させて命中させ3匹のミイラ男を眠らせていた。そして今、眠らなかった1匹のミイラ男とアルスがすさまじい形相で対峙していた。両者の体には無数の切り傷が走り、足元の床には滴る汗が点々とついている。
「アルス!ベギラ・・・・・・!」
 ローザが飛び出して呪文を唱えて援護しようとしたが、シークスはローザの肩に手をやり無言で首を振った。そして、「あの間合いのなかには入れないわ。たとえどっちの味方であってもね」怪訝そうに見つめるローザにミゼラが諭すようにいった。
 ミイラ男の体がゆっくりと前に出ると、それにつられてアルスが後退する。ローザは、ミゼラの言葉の意味を理解した。
 次の1撃で勝負が決まる・・・・・・アルスは自分でも不思議なほどの冷静さで敵の動きを読んでいた。今までの戦いでお互いの体力が底をついているのはわかっている。あとはちょっとしたきっかけだけだ。どちらかが攻撃に出るかあるいは誘いをかければそれが最後の戦いの幕開けとなる。
 焦ったら負けだ・・・・・・アルスは自分の心に言い聞かせた。
「ええい!」
 この緊張感に先に耐えられなくなったのはミイラ男の方だった。魔物は怒りと憎しみに全身を震わすとアルスに向かって倒れて体重で押しつぶそうとした。
「死ね!」
 だが、アルスは動かなかった。身体が空を切り頭上に迫ってもなおアルスの身体は微動だにしなかった。ちょうどあの時のカンダタのように・・・・・・。
 1瞬すべての音が消えたような気がした。だが次の瞬間、アルスとミイラ男の身体が激しく交差し、アルスの呪文が完成した。
「ギラ!」
「ギャーッ」
 ・・・・・・魔物の悲鳴が、轟いた。そしてミイラ男の体が、爆煙に包まれてゆっくりと床に崩れ落ちた。
 がっくりと膝をついたアルスの全身から滝のような汗が流れていた。
 ピラミッドの頂上から飛び降りて4人は外へ脱出した。シークスはここで別れた。やはりできるだけ人前で顔はさらしたくないらしい。
『ルーラ!』
 アルスとローザは声をハモらせて呪文を唱えた。2人のルーラでアルスたちがイシスに帰ったのは、ミイラ男を倒した翌日の朝のことだった。向かい合った複数の小さなスフィンクスに挟まれた道を進み、城の入り口まで行くと、元気に回復したエルトが城の中から飛んできた。アルスは早速手を振って叫んだ。
「エルト、もういいのか!?」
「心配かけたな!それよりお宝はあったか!?」
 アルスたちはシークスと再会して手伝ってもらったことやバラモスの手下に騙されたことを話した。
「そうだったか・・・・・・。ああ、トレドから手紙が届いてるぞ!」
『トレドから!?』
 アルスとミゼラが声をハモらせ驚いた。
「昨日の夕方だ!みんながピラミッドに向かってるときポルトガの国王陛下の伝書鳩を使ってジュリエッタ陛下のところへよこしたんだ!」
 エルトは小さな紙切れを出すと、ミゼラがひったくって読んだ。

 お元気ですか?至急ポルトガに来てください。
 ちょっと困ったことが起こったんです。トレド・・・・・・

「でも、どうしてトレドは俺たちがここにいるって知っているんだろう?」
 アルスは首を傾げた。エルトもうなずく。
「そうだ。普通は知ってるわけがねえよ」
「まあ、いいわ。兎に角これで行く先が決まったわね!」
 ミゼラが言った。
「シークス、せっかくだったのにまたお別れだあな・・・・・・」
 エルトが淋しそうにいった。
「あんなに強いんだから、俺たちと一緒にバラモス倒しに行ければいいんだけどな」
 エルトはそういったが、気を取り直してアルスたちにいった。
「さあジュリエッタ陛下に挨拶に行こうぜ。ずっと心配してたぞ」
 アルスたちは、ジュリエッタ女王の待つ宮殿へ向かった。

あとがき
イシス、というかピラミッドでの出来事です。
やっと前回回想みたいな形でしか登場しなかったシークスがまともに登場しました。
今回は別れてしまいましたが、ふたたび現れるときはあるのか。
DQ3の冒険は船も手に入れてない序盤。
旅はまだまだ続きます。
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ともちん

いつもまとめ読みになってすみません。
今回は4日更新分と併せて読んだら
とても読み応えがありました。

序盤で言っていたとおり、メンバーが
入れ替わっていますね。
再会するメンバーもいそうですね。
ますます続きが楽しみになります。
by ともちん (2014-11-11 22:34) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
ゲームだと入れ替えなんてしないんですが、せっかくなんでちょっと変わってみるのもいいんじゃないかと。
どこかでうまく再会できるようにしたいです。
by あばれスピア (2014-11-12 23:33) 

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