すごろく場にて [DQ3-2]

すごろく場にて
 祠の牢獄で勇者サイモンの変わり果てた姿と対面したアルスたちはその翌日船で出発して湖を進んだ。
 祠を出発して8時間後のことだった。空はどんよりと曇り、春の終わりが近づき風は帆に粘り付くような湿気を含んでいた。ローザが甲板に立ってひとり物思いに沈んでいると、ミゼラがやさしく声をかけた。
「何を考えているの?」
 ローザは慌てて微笑んだ。暗い顔を見せてはいけないと思った。
「伝説のオリビアのことを考えていたの。今まで好きな人と結ばれなかったなんてかわいそう・・・・・・」
「でも、ローザなら心配いらないわね。きっと好きな人と結ばれるわ」
 ローザがアルスに片思いしているのをミゼラはそれとなく勘付いていた。女の勘である。また、ローザとアルスなら理想の恋人同士になれると思っていた。すると、「そんな・・・・・・」ローザは一瞬狼狽えた。
 たしかに、ローザはアルスに友情以上のものを感じていた。カッコよさといい、剣の腕といい、勇気の度量といい、同年代の若者でアルスほどの男が世界のどこを探してもいるとは思えなかった。
 時々眩しいくらい輝いて見えるときがあった。やがて、アルスは勇者となり世界中の人々から愛される人物になる・・・・・・ローザはそう信じて疑わなかった。そして、・・・・・・出きることならずっとアルスのそばにいたいと思っていた。
それから5時間後湖の北東に森を見つけた。ここはどうしても寄りたいところで、アルスたちは湖の北東に面した小さな洞窟へ向かった。以前トレドに聞いた話だとこの周辺に海賊の頭も利用している施設などがあるらしく、その洞窟に、夕方到着した・・・・・・。
 森を見つけてから3時間後、アルスたちの船は湖の北東にある洞窟付近に上陸した。
 ついでに船を点検し、水と食料を補給することにした。付近にひとつしかない造船所のドッグに船を入れると、アルスたちは洞窟に移った。点検が終わるまで7、8時間かかるということだった。
 森の中に隠された洞窟は、表向きは洞窟だが、海賊の頭の息のかかった者ばかりがすんでいるという特殊なところだった。
 アルスたちは洞窟の2階に上がってしばらく進んだところにいた商人に、「海賊の頭と親しい人物に会いたいんだけど・・・・・・」単刀直入に聞いた。商人は警戒して頭のことをはじめて聞いたような顔でとぼけたが、アルスが名乗ると、「階段の近くで待っていて下さいね」彼らが上ってきた階段の近くを指差して奥へ向かっていった。
 暗い場所に目が慣れてくるとその場所の全貌がわかるようになってアルスたちは驚いた。この洞窟全体が豪華で大きな娯楽施設だったからだ。洞窟全体を使って道のようなものが迷路のように作られている。どうやら、本来は闇商人たちが闇取引する傍らせっかく来たついでに楽しんでいく旅人のすごろく場らしい。
「さすがは海賊や闇商人たちのたまり場だな。実際うまくいけばいい景品ばっかり手に入れられそうだ」
 エルトは感心しながらすごろく場のコースを見ていた。
 やがて、商人が若い茶髪の洞窟のリーダーの男を連れて戻ってくると、「オルテガさまのご子息でございますか。噂は頭から聞いております。ようこそ旅人のすごろく場に!」男は親しげに微笑んだ。表向きはごく普通の男だが、この洞窟付近を仕切っている闇商人だった。
「お願いがあってきました。頭が来たらこれをわたしてほしいんです」
 アルスは勇者サイモンの遺骨を納めた袋に2通の手紙を添えてテーブルの上に差し出した。
 1通は頭に、もう1通はサイモンの息子に宛てたものだった。サイモンの息子の手紙にはサイモンの遺品である結婚指輪が同封してあった。だが、「その必要はありませんよ。5時間もすればこの洞窟にやってくるになっておりましてね。どうか会って直接御渡し下さい」と男はいった。
「ほんとですか!?」
アルスたちが思わず顔を輝かせると、「それまでゆっくり楽しんでいってください。長旅にも息抜きは必要でしょうからね」男は商人にすごろく場を案内するよう命じた。
 ここのすごろく場は途中で3つのコースに分かれていた。どのコースも上の階につながっているようだった。
洞窟はかつて北方大陸の交易や文化の中心として繁栄していたがオリビアの呪いで岬が航行不能となると急に寂れてしまったことを知った。洞窟の人々は岬の呪いが解けたことを知って喜びに沸いた。
 この洞窟に滞在して、2時間後のことだ。
 旅に出てから久しぶりの休息となった。アルスたちもせっかくなので、男同士女同士のグループに分かれてここのすごろく場を楽しむことにした。ここを訪れる前にさまざまな場所で手に入れたすごろく券を使って全員体験してみた。実際にゴールすることはできなかったが、すごろくの道中ではさまざまな道具を手に入れた。体験した後手に入れたものを交換しようということになり、まずエルトが、「俺とアルスはこれを選んだよ」といった。
「喜んでもらえると嬉しいんだけど・・・・・・」
と、アルスはすごろく場のよろず屋で買った小さな包をローザにプレゼントすると、「何かしら!?」嬉しそうにローザは包を開けた。美しい緑がかった青いブレスレットだった。
『まあ!』
 とたんにローザとミゼラの声がハモると2人とも笑い出した。
「気に入らねえか!?手に入れたものの中から2人で必死に探したよ!」
「違うのよ。はい、これ私とミゼラから。これからもよろしくね」
 エルトの言葉にローザは同じよろず屋の同じような包をアルスにプレゼントした。包を開けて、「あっ!?」アルスは驚いて思わずエルトと顔を見合せた。なんと全く同じブレスレットだった!
「私、一生大事に身につけるわ。どう、似合うでしょ?」
 ブレスレットをつけてローザがいたずらっぽく笑った。
「似合うよ。ローザがつければ石ころだって世界1の宝石だ。だけど・・・・・・」
 エルトは同じくブレスレットをつけたアルスを見て拗ねた。
「同じってのは、はっきりいって妬けるよ」
「1軒しか店がないみたいだからしょうがないわね」
 ミゼラが笑うと、「でも早いものね。アリアハンを旅立ってからあっという間に1か月半よ」アルスを見て頼もしそうに微笑んだ。
 この1か月半で、アルスは見違えるほど逞しく成長していた。身長もかなり伸び、筋肉もはち切れんばかり隆々としている。1か月半前よりも確実に一回り大きくなっていた。また、顔は精悍さを増していた。
 剣の腕も上達していた。ミゼラ自身、この旅の間に自分の腕がかなり上達したことを自覚している。だが、アルスのそれはミゼラの比ではなかった。今なら互角、いやもしかしたらすでにアルスに抜かれたかもしれないと思っていた。
 まだ16歳だというのに、風格があった。立派に見えるときもある。やはりこの男にはかなわない。ひょっとしたら勇者オルテガよりもっと偉大な勇者になるかもしれない・・・・・・ミゼラはアルスの成長を見乍らそう思っていた。
 夜になると洞窟は旅の戦士で賑わった。こんな洞窟にもアルスたちを含めてやってくる旅人はいるようだった。また、洞窟は物資を貯蔵する倉庫になっていることもあとで知った。
 滞在して3時間後の夜のことだった。夕食をとろうとしていると、商人が飛んできて頭の船が入港したことを告げた。外に出ると、夕日に赤く染まった入江に巨大な海賊船が停泊していて、海賊達が帆をおろしている姿が見えた。
 桟橋へ行くと、すでにすごろく場の男が頭の出迎えに来ていた。やがて、海賊船から5人の海賊が乗った小さな舟が桟橋へ向かってきた。顔がはっきりとわかるところまで近づくと、「アルスたちじゃないか!?」アルスたちの姿に気づいた頭が驚いて叫んだ。
 アルスたちもまた頭に向かって叫びながら手を振った。
 桟橋で再会を喜び合うと、アルスたちは頭と一緒に酒場へ向かった。途中、「こないだトレドが捕まる前にあってあんたたちが幽霊船を探しに行ったらしいことを聞いたよ」と、頭がいった。幽霊船を探す前にアルスたちはトレドにそのことを伝える手紙を出していた。
 洞窟に入ると、頭の姿に気づいた戦士が立上って会釈をし、敬意と憧憬の眼差しで奥の部屋に向かう頭をずっと見ていた。
 アルスたちは洞窟の奥の普通の人は入れない部屋に通された。奥の部屋は特別豪華で、頭がきた時だけつかうことにしていると男が説明してくれた。
「実は頭・・・・・・。これを勇者サイモンの息子にわたしてほしいんだ・・・・・・」
 アルスが船から持ってきた勇者サイモンの遺骨を納めた袋とサイモンの息子宛の手紙を差し出すと、「これは・・・・・・!?」頭は愕然として袋を見ていた。それが何であるか察したようだ。
 そのとき、料理や酒が次々に運ばれてきた。アルスが頭と別れてからの旅の経過と、オリビアの岬の牢獄でのことを話すと、「わかった。あたいが責任を持ってわたそう・・・・・・」頭は気を取り直して快く約束してくれた。
 さらに、料理を食べながらこれからの旅の予定を聞くと、「ランシールには懇意にしている知人がいる」といって、紹介状を書いてくれた。
『ルーラ!』
 アルスとローザ、エルトの声がハモった。翌朝・・・・・・。アルスたちは頭に別れを告げ、再び旅に出た。
 そして、春が終わりに近づく中、ルーラでランシールの港に着くと、頭が懇意にしているという知人に食料と水を新たに船に積み込んでもらうと、いよいよネクロゴンドへ向けて出航した。

あとがき
ガイアのつるぎを手に入れて、ネクロゴンドへ向かう前の話です。
おまけ的なストーリーなんで、普通だったら絶対書かないすごろく場を舞台にしました。
いわゆる勇×摩のカップリングな話です。
そこまで濃い話ではありませんが。
そしてまさかのお頭ちゃん再登場。
お頭ちゃんもすごろく場で遊んだりするんでしょうか。
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ともちん

ゆったりとした気分で読ませて頂きました。
たまにはこういった雰囲気のお話も
いいものですね。
by ともちん (2016-02-07 00:58) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
たまには息抜きにこんな感じでいいかと思ってます。
楽しんでいただけたでしょうか。
by あばれスピア (2016-02-07 01:42) 

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