2 光の鎧 [DQ3-3]

2 光の鎧



『ルーラ!』
 例によって、アルスとローザとエルトの声がハモった。雨雲の杖を手に入れたアルスたちは、雨の塔に行くついでにマイラに向かった。マイラは以前と同様、あたりはひっそりと静まり返っていた。アルスたちは、天然の露天風呂を管理している村の南西の古い家を訪ねた。彼らは村長にもう1度会って、挨拶しにいった。
「こんにちは。ところで、勇者オルテガのことを知りませんか?」
 村長に挨拶したとき、アルスは前回聞いてなかったオルテガのことを尋ねると、「もしや・・・・・・そのお方は、精霊神ルビスさまがこの世界を創造なされる前におられたという別の世界からこられたお方のことでは・・・・・・?」というので、アルスたちは顔を輝かせた。
「ええ、そうです!父はこの村に来たんですか!?」
 アルスは村長に聞いた。
「父?」
「わたしは息子のアルスといいます!」
「それじゃ、あなた方も別の世界から・・・・・・」
「はい!」
「そうですか。わたしは会ったことはないんですが、かれこれ1か月ほど前になりますか・・・・・・。あなた方と同じ世界から来た刀鍛冶をしている道具屋から聞いたんですよ・・・・・・」
「ええっ!?マイラにわたし達の世界から来た人がいるんですか!?」
 まさかギアガの大穴から落ちた警備の兵士や現在ドムドーラで暮らしているアッサラームの踊り子のレナのほかにも、闇の世界で暮らす一般人がいたとは!驚いてアルスたちが怪訝そうに顔を見合わせると、「刀鍛冶をしている道具屋の夫婦なんですが・・・・・・」村長はすぐに、温泉を管理している自身の家の1階と2階を使って住む道具屋の夫妻のところへ案内した。1階が仕事場らしい鍛冶設備の整った部屋で、2階が店になっていた。
 アルスたちが部屋に入ると、まだ若い、見るからに善良そうな夫妻が弾かれた様にアルスを見た。2人とも髪も目の色も黒くて、どこかで見たことのある風変わりな恰好をしていた。
「精霊神ルビスさまがこの世界を創造なされる前におられたという別の世界からこられたオルテガさまの息子のアルスさまとその仲間の方々です」
 村長がアルスたちを紹介すると、「入ってきたとき、一瞬オルテガさまがやってきたかと思いましたよ」と道具屋の主人がいった。
「噂で聞いたお顔立ちといい、仕種といい、あまりにもよく似ていらしたものですから」
 美しい道具屋の妻がいうと、夫妻は親しげに微笑んだ。
「わたし達が闇の世界に来たのはゾーマを倒すためです。マイラに来たのはここから東にある塔に向かおうとしているからです。父について何か知っていますか?」
 アルスが闇の世界にきた経緯とマイラに来た目的を話、オルテガのことを尋ねると、「そうですか・・・・・・。この村にきて、バラモスを背後で操っているのが大魔王ゾーマだと知りましたが・・・・・・」道具屋の主人は尊敬の眼差しでアルスたちを見ると、オルテガの話を始めた。
「オルテガさまがこの世界にいると知ったのは1か月ほど前のことでした・・・・・・。ちょうどそのころ、この村にラダトームからゾーマに奪われた剣が発見されましてね。しかし、王者の剣は粉々になっていまして・・・・・・この剣を元通りに再生するのはかなり難しそうです」
「王者の剣?」
 アルスが尋ねた。ラダトームで聞いたゾーマが奪った宝の1つだ。
「はい。もともとはドムドーラで作成されたものらしいですが、その剣は、鋼鉄とも違う、もっと強固で、硬質で、美しい光沢の神秘の鉱石で作られたものでした。その昔王者の剣は魔王により粉々に砕かれたと聞きます。しかしその魔王ですら王者の剣を砕いてしまうのに3年の年月を要したとか。いやはや凄い剣もあったもんですね」
 さらに噂では王者の剣はオリハルコンというものでできていたらしい。
「オリハルコンならドムドーラで手に入れましたよ。街の牧場で見つけたんです」
「それなら買い取りますよ。これで王者の剣を復活させてみせます」
 アルスがオリハルコンを持っていることを伝えると、道具屋の主人はそれを買い取り、王者の剣を復活させてみるという。
「オルテガさまやあなた方がゾーマを倒すために少しでもお役に立てれば・・・・・・そういうことならわたしは喜んで引受けます。こう見えても、わたしは元の世界では、とてもきようで刀剣作りの名人としてその筋では知られておりましたし、其れなりに自信もありますから・・・・・・。これまでも、そのままでは役に立たないものでも買いとって細工をして売り出したりしていますから。ところで、その高貴で華麗な素晴らしい盾は、どこで手に入れたんですか?」
「ラダトームから北にいった洞窟で見つけたんです」
 アルスは勇者の洞窟で見つけたことを話した。
「そうですか、その盾の中央に黄金色の美しい紋章が施されていますね。まるで不死鳥が雄々しく翼を広げて飛翔している、なんともいえん美しい紋章です。よし、剣が復活したら鍔にその盾と同じ紋章を入れましょう」
「父はどこへ向かったか、わかりますか!?」
「わかりません。ただ、ラダトームから西にすすんで、守りの祠を通ってリムルダールに向かうんだと思いますが・・・・・・」
「守りの祠から!?」
「なんでもリムルダールがゾーマの居場所に行くのに1番近いそうです・・・・・・」
 どうやらオルテガはラダトームを旅立った後、おそらく陸路で守りの祠からリムルダールへ向かったようだ。アルスたちとは凡そ逆の方向から旅をしていたことになる。
「ところで、あなた達はどうやってどこからこの世界へ来たの?」
 ミゼラが話題を変えて尋ねた。道具屋の主人の妻が答えた。
「1年、いやもう1年と1か月になりますか、ジパングの八岐大蛇という化物の生贄にされそうになったとき私達は逃げ出しました。そしてこの世界に迷込んだんです」
「ジパングの八岐大蛇?」
 アルスは驚いて聞いた。
「じゃあ、ヒミコの治めるところに住んでいたんですか?」
 だから夫婦はアルスたちにとっては見慣れない恰好だったのだ。2人の恰好はジパングの人々の普段着と殆同じだった。
「ええ、そうです。あそこは良質の砂鉄が採れまして、刀剣を作るのに最高のところでしてね。私の夫はジパングで刀鍛冶をしてましたのよ。ある日、ヒミコさまの屋敷から、使いが来たんです。私が予言で生贄に選ばれたと聞き、わたし達は彼らから必死に逃げました。どこをどう逃げたかもうわかりませんが、やっと小さな洞穴を見つけたんで、隠れるために飛び込んだんです。すると、突然激しい気流が渦巻く闇の中に放り込まれ、そのまま気を失ってしまいました。そして、気が付いたらこの村の人に助けられていたんです」
「父がどうやってこの世界にきたか、何か知っていませんか!?」
「ネクロゴンドの火山の火口にある穴に落ちたんだと聞いています。ある魔物との闘いの最中に足を踏外して。ただ、それ以上の詳しいことは」
「しかし前から思ってたけど、ギアガの大穴のほかにも、この世界にわたれる洞穴があったなんて・・・・・・」
 ミゼラは首をかしげたが、アルスがいおうとしていたことを先にローザが口にした。
「ねえ、そんな洞窟や穴がほかにもたくさんあるんじゃないかしら、世界中に」
「おれもそう思うよ」
 早速エルトも口をはさんだ。
「きっと、それらの洞穴が深いところでギアガの大穴の闇につながっているよ・・・・・・」
「恐らく、バラモスの出現で起こった地殻変動で、世界中の色んなところの地中に大きな亀裂が生じて、たくさんの洞穴ができたのよ。そして、それらや火山が、ギアガの大穴がつながっている闇と偶然つながった。彼らやドムドーラのレナさんはそれらの洞穴の一つを通ってこの世界にやってきたんだわ。バラモスの出現の後、ギアガの大穴の入り口は封印されたけど、それらの洞穴や火山は闇とつながったまま残ってた。私たちの世界の地上の人たちはそのことに気づいてなかったんだわ。きっとそうよ。でなきゃ、彼らもレナさんもアルスのお父さんも、どうやってこの世界に来たか説明がつかないわ・・・・・・」
 ローザの言葉にエルトが大きくうなずいた。アルスもローザと同じ考えだった。少なくとも、今の時点ではそうとしか考えられなかった・・・・・・。
 暦の上では梅雨の盛りを迎えていた。だが、年中暗黒の闇に覆われた世界の大地には梅雨を偲ばせるものは何一つなかった。
 翌日マイラを出発したアルスたちは、船に乗ると、妖精の地図を頼りに鬱蒼とした森となっている島々を抜けて北の海に向かって北へ進んだ。その行きつく先に目ざす塔があるのだ。
 途中船に乗る前、魔物は容赦なくアルスたちを襲ってきた。
 相手は邪悪な力によって生命を得たドラゴンの骸骨スカルゴンの群れだった。
『ラリホー!』
 アルスとエルトの声がハモりスカルゴンの1匹を眠らせる!
『ベギラゴン!』
 さらにローザとエルトの声がハモって荒れ狂う炎の呪文を放った!炎はスカルゴンたちが吐く凍り付く息とぶつかり合った。そこをミゼラが攻撃し、眠ってしまったスカルゴンの1匹を倒した!
「べギラマ!」
 アルスが炎の呪文を放ち、エルトも続けて呪文を唱えた!
「メラミ!」
 エルトの放った火炎はスカルゴンの1匹に命中し、さらにローザが呪文を唱えた!
「メラゾーマ!」
 以前バラモスが使った呪文をローザもついに使えるようになっていた。巨大な火炎でスカルゴンの1匹を倒した!最後の1匹もミゼラとじゃれあっている。
「メラ!」
 すでに弱っていた最後のスカルゴンもアルスが小さな火の玉で攻撃して倒した!
 ローザやエルトの魔力は成長につれて威力を増し、呪文の種類もどんどん増えていったが、ここにきて何より成長がすごかったのはアルスの剣術と呪文だった。どちらもまだそれぞれのエキスパートの3人にはかなわないが、成長度だけなら1番だった。その成長ぶりはミゼラも呆れるほどだ。
 もしこの若い勇者と戦ったとしたら・・・・・・ミゼラは最近時々そんなことを想像することが多くなった。呪文なしならまだ私も勝てると思うけど、そうでなかったとしたら・・・・・・。勿論、ミゼラ自身の剣術もこの旅に出てから格段に進歩していた。だが、アルスの成長はそんな彼女の予想すらはるかに越えていた。
 何となくだが、塔に近づくにつれて、魔物も心なしか凶暴さを増したようだった。そして、進むにつれ風は湿気を含み、周囲の景色もいちだんと鬱蒼としたものになっていった。
 こうしてマイラの村を出てから半日。船で島々を抜けた彼らの前に雨雲のかかった塔が聳え立っていた。この塔の存在を知ってだいぶ経過してようやくたどり着くことができた。
「こりゃ高い塔だ。山彦の笛のあったやつとおんなじぐらいだ」
 塔の入り口前に立ったエルトが頂上を見上げていった。
 確かに柱と石塊を組み合わせて築かれた塔は、アープの塔と同程度の高さがありそうだ。
 断崖絶壁の縁にたった塔は湿気を含んだ風にさらされ、まるで朽ち掛けた大樹のような雰囲気を漂わせている。塔のなかに1歩足を踏み入れるとツンと黴臭いにおいが鼻を突いた。空気は淀み、音もなく静まり返っている。
「いやな雰囲気ね」
 ミゼラが油断なく周囲を見まわしていった。
 奥へ進んで階段を見つけると、一行はアルスを先頭に上へとのぼり始めた。
 2階も1階と同様全くの無人だった。この階から今迄に見たことのない仕掛けが登場した。ある床に乗ると進みたい方向と違った向きに進んでしまう回転する床だ。それらに苦戦しながら3階や4階を進んだ。
 4階も吹抜になった床と回転床が仕掛けられていた。それらに気を付けて4階の中央に進んでいくと、勇者の盾が入っていたような立派な宝箱を発見した。
 宝箱のなかには、高貴で気品に溢れた光の鎧を見つけた!
 光の鎧は、鋼鉄よりもさらに強固な不思議な青い鉱石で作られていて、鏡のような光沢を持ち、しかも比べるものがないほど美しいものだった。勇者の盾と同様炎や吹雪に強いジュエルズアミュレットがはめ込まれ、しかも光の鎧のアミュレットには少しずつ体力を回復させる力も持っていた。その鎧の、胸には勇者の盾と同様不死鳥が雄々しく飛翔する立派な黄金色の紋章が施されていた。
 アルスは光の鎧を初めて装備した。紫のマントはそのまま鎧のショルダーガードから伸びている。光の鎧はピタリと体に吸付く様な不思議な感触がした。とたんに、ブルブルッ・・・・・・と全身が震えた。
「これは!?」
 光の鎧から不思議な力が伝わってきた。
 その力がすぐに全身を駆巡ると、アルスの胸の奥から熱い闘志が込上げてきた。以前オルテガの兜や勇者の盾を装備したときも感じていたが、それらの感触はさらに強くなっていた。まるで昔から自分のものだったような、以前からその武具を知っているかのような感覚だった。
 そして光の鎧の胸と勇者の盾に施された紋章を改めて見て、アルスたちは驚いて顔を見合わせた。
 勇者の盾と光の鎧の同じ紋章は何を意味するのかアルスたちには見当もつかなかった。不死鳥の紋章ならラーミアを表しているだろうし、どれももともとラダトームの宝だったということはラダトームの紋章だったのか。それともルビスとラーミア、それを復活させるオーブと山彦の笛、さらには竜の女王とも関係しているのか。アルスたちには謎が深まるばかりだった。

あとがき
光の鎧を手に入れました。
伝説の武具集めが始まると、もう終盤なんだなというのがわかります。
ギアガの大穴関係の話は・・・そうなんじゃないかとしか考えられないです。
実際はどうなんでしょうね。
それにしても伝説の剣は日本刀だったとは・・・。

塔での冒険はもう少し続きます。
※次回は6月1日更新予定です。
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