6 王者の剣(4) [DQ3-3]

6 王者の剣(4)


「やっと、決着をつけるときが、きたようだな・・・・・・」
 キングヒドラは、不気味な笑を、浮かべた。
 半日前、オルテガと死闘を演じたキングヒドラは、瀕死の重傷を負った。だが、そのときの傷は完全に癒え、体力も回復していた。
 オルテガの斧や呪文などの攻撃によって、体中を傷つけられたが、その傷も完全にふさがり、艶やかな紫の輝きを保っていた。
「このっ!」
 アルスは、王者の剣を構え、「父さんの仇―っ!」猛然とジャンプで、斬りかかった!
 だが、アルスの王者の剣が、むなしく刃音をたてて、空を斬った!気が付くと、いつの間にかキングヒドラは、別の場所に立っていた。キングヒドラは、妖しげな眸でアルスを睨み付けると、笑い続けた。その姿は、異様なほど不気味だった。
 キングヒドラを、異様な気流が包んだ。
『ああっ!?』
 アルスたちの声がハモり、思わず息をのんで、改めて身構えた。
 1体の頭だけでも、人間の2倍はある。残忍な眼。大きく裂けた口と、鋭い牙。太くて長い5本の首が、大樹の幹のような巨大な胴体で一つになり、そこからさらに太くて長い1本の尻尾が出ている。首や胴体の背は、紫色の強固な鱗でおおわれていた。
 色こそ違うが、よく見れば、あのヒミコと同じ、巨竜族の八岐大蛇に似ていた。だが、1体の左眼が、無残に潰れている。それは、かつてオルテガとの戦闘中に、傷つけられたもので、ほかの4体を操るキングヒドラの中枢だ。
 と、突然、キングヒドラの回りを、突風が舞い、ブオオオッ・・・・・・いきなり5体すべてが、燃え盛る火炎を吐いて襲い掛かった!
 火炎の息は、吹上った。その火炎の息が、乱舞し乍ら勢いよく伸び、はるか頭上で4つに分かれたかと思うと、火炎の息は、船をものみ込む嵐の怒涛のようにアルスたちに襲い掛かった。次の瞬間、『うわあっ!?』アルスたちは、声をハモらせ悲鳴をあげた!
 アルスたちは、火炎の息に包まれたと思った瞬間、勢いよく、後方の壁に激突していた。
 キングヒドラが笑うと、火炎の息が、まるで渦のように、アルスたちを強くしめ付け、『うわああああっ!』アルスたちの声はハモり乍ら激しく苦しんだ!
 アルスたちが、勇者の盾やオーガシールド、水鏡の盾などで、必死に火炎の息を防ごうとし、ローザとエルトが何か呪文を唱えようとした。だが、もがけばもがくほど火炎の息が渦となって手首や腕に火が付き、じりじり焼けてきた。アルスは、光の鎧の力のおかげで、そこまでひどくはなかったが、それでも自由に動くことは出来なかった。キングヒドラの攻撃は、ヒミコと同様素早かった。
 キングヒドラが笑うと、火炎の息が渦となって、さらに激しくきつくしめ付け、見る見るうちにアルスたちの顔が青褪めた。
「さあ、苦しむがいい!うんと!そして、オルテガのように、奈落の底に落ちるがいい!」
 キングヒドラが、笑った。熱さに全身が痺れ、意識が朦朧としてきて、ついにエルトがはやぶさの剣を、そしてミゼラがバスタードソードを落とした。
 だが、アルスは、何度も意識が薄れ掛けるのを、必死に堪え乍ら、ずっとその眸でキングヒドラを見ていた。
 あいつは、敵だ!大魔王に魂を売った、魔族なんだ!負けちゃいけないっ!俺の父さんを、オルテガを殺した、にくいモンスターなんだっ!
 そう心のなかで、叫び乍ら・・・・・・。
 と、さらに意識が薄れ、やがて目の前が、真白になった。だが、その薄れる意識を、必死に取り戻すかのように、ありったけの力を、集中させ、「うわああああっ!」言葉にならない声で絶叫しながら、王者の剣をかざしてもがくと、王者の剣が、急速に雷鳴を轟かせ、空気を引き裂いた!
「王者の剣が!」
 ミゼラが、叫んだ。アルスは一瞬、王者の剣が、破損したかと思った。
 次の瞬間、不思議なことが起こった。突然、アルスの持つ王者の剣が、高圧力の強風を吹き上げ、強風を解放した!アルスたちへの火炎の息が、すぐに勢いよく、吹飛ばされた。アルスの体から、ガクッと力が抜けた。殆、体力が、残っていなかった。
「何っ!?この力は?」
 愕然として、キングヒドラが、アルスを見た。
 今、ここで何が起きたのか、すぐにはわからなかったが、アルスが確実に王者の剣を使いこなせるようになったと、キングヒドラは本能的に感知した。
 アルスと王者の剣は、一心同体、もう体の1部と化している・・・・・・。見るたびに、巨大な力となっていく。これが勇者の力・・・・・・透明で勇ましい力。時を越えて貫く様な光。邪悪な力を持って、世界をわが物にしようとしても、あの勇気の力は、何度でもわれら魔族を打ち抜く。・・・・・・打ち勝つことはできない。・・・・・・あの力を越えることは・・・・・・。
 王者の剣には、魔力が込められていて、バギクロスの力が、封じられていたらしい。そして、強風は、キングヒドラにも迫った!
「うわあああっ!」
 強風が渦を巻き乍ら、キングヒドラを傷つけ、キングヒドラが苦しみながら、激しく悶えた。
 巨大な体の半分が、無残に傷付いていた。キングヒドラは、凄まじい形相で、アルスを睨み付けた。
 体の焼けた強烈な異臭が、アルスの鼻をつき、アルスの意識が、すーっと戻ったが、頭の芯が痺れて立っているのさえやっとだった。
 何が起きたのか、アルスには、すぐ理解出来なかった。ミゼラたちも、火炎の息から解放されたが、特に体力のないローザは、その場に崩れ落ちた。
「大丈夫かっ、ローザッ!?」
 何とかアルスが、よろめき乍ら、ローザに駆寄ろうとしたときだった。キングヒドラは、気を取り直して、燃え盛る火炎を吐いた!
『うわあああっ!』
 アルスたちの声がハモり、またすぐに、吹飛ばされた。やっと立ち上がろうとすると、今度は巨大な複数の顔が、素早く迫り、アルスたちは、ふたたび別の壁面に追詰められそうになっていた!今迄の攻撃で、骨が軋み、全身が痺れ、痛みでいつ気絶しても、おかしくなかった。
 火炎の息の火力は、ヒミコと同じくらいだったが、直接攻撃の衝撃力は、ヒミコのそれより上だった。
 意識が朦朧とし、目がかすんだままだった。キングヒドラは、気絶しているローザを狙って、攻撃を仕掛けようとしていた。
「ローザを守るんだっ!」
 その隙に、アルスとミゼラとエルトは必死に重い体を引き摺り乍ら、気絶しているローザを残して懸命に別の一方へ逃げると、早速エルトがはやぶさの剣で素早く突きを放ち、アルスが王者の剣で直接ジャンプで斬りつけて攻撃した!
 それらの攻撃だけで、滅ぼせるだけの効果は殆なかったが、それでよかった。キングヒドラを、自分たちの方へ、引付さえすれば。ローザから、キングヒドラを遠ざけるのが、目的だ。
 案の定、キングヒドラが形相を変え、燃え盛る火炎を吐いて、襲い掛かった!アルスとミゼラとエルトは、火炎の息を浴びて壁に叩き付けられ、ふたたび気絶し掛けた!そこで、3人は、接近法をとった。アルスたちは、気力を振絞って自らを奮立たせると、「うりゃあああっ!」絶叫し乍ら猛炎を掻い潜り、襲い掛かる顔をかわし、猛然と巨大な胴体に斬りかかった!
 懐に潜り込まれたキングヒドラは、一瞬狼狽えた。火炎の息や火の息では、自分もまきこんでしまう。だが、的確にそれぞれの顔で、追詰めると、さらに燃え盛る火炎を浴びせた!それでも、アルスとミゼラとエルトは突進し、ただひたすら直接攻撃を繰り返した!
 朦朧とした意識のなかで、アルスは『死』を覚悟していた。このままでは、とても勝ち目がなかった。
 いくら斬っても、キングヒドラは衰えを見せず、逆にアルスたちが体力の限界まできていた。そして、ついにアルスたちは、気絶した。気が付いたときには、それぞれの顔が、大きな口を開け、とどめの火の息を浴びるところだった。
 アルスは迷っていたが、ゾーマに辿り着くために決めた。今ここで、この呪文を使うしかない。アルスは、早速力を集中させて、呪文を唱えた!

 聖なる癒しのその御手よ
 母なる大地のその息吹
 願わくば我が前に横たわりしかの者たちに
 今一度の強き力を与えんことを

「ベホマズン!」
 回復呪文の、最上の呪文だ。アルスたち全員に、強い回復の魔力の光が注がれ、「ううっ!?」アルスたちの傷が回復したのを見て、キングヒドラはとまどった!
 アルスたちの体力が、すべて回復したことで、彼らは立ち上がり、アルスとミゼラとエルトは4体の首を狙った!朦朧とし、目がかすんだままだったが、3人は気力を奮立たせて必死に近づくと、『たーっ!』エルトははやぶさの剣で素早く突きを繰出し、アルスとミゼラはジャンプして、次々に4体の首を王者の剣やバスタードソードで攻撃した!
 全員息が切れ、武器を握るのも、立っているのも、やっとだった。
「ガオオッ!」
 キングヒドラは、咆哮し乍ら、火の息を浴びせて反撃しようとした!
 だが、一瞬早く、気が付いたローザが、やっと立上った!ローザが懸命に力を集中させ、必死に力を奮立たせると、気合一閃、渾身の力を込めて一際強烈な呪文を唱えた!
「イオナズン!」
 ピカーッ・・・・・・キングヒドラの中心に、すべて光が集まったときに一条の真昼のようなまばゆい光がトンネルを照らし出したかと思うと、大音響とともに光源が爆発した!
「グオオオオッ!」
 不気味な絶叫をあげ乍ら、キングヒドラは、むなしく頭上の闇に火の息を吐いた。やがて、イオナズンの大爆発がおさまると、無数の焼焦げた傷ができていた。
 キングヒドラは、僅だが、全身を硬直させて攻撃をやめた。
 と、アルスが、高々とジャンプして、「父さんの仇―っ!覚悟!」ありったけの力を込めて王者の剣を振り下ろすと、凄まじい閃光が闇を垂直に切裂き、「ギャアアアアアッ!」キングヒドラはカッと片眼を見開いて空を睨んだ!
 王者の剣の威力は、予想以上に凄まじかった!喉元から長い首を胴体まで、一直線に斬り裂いたのだ!
 キングヒドラは、ゆっくりと、崩れ落ちた。紫の鱗は、無残に斬り裂かれていた。
 キングヒドラは、苦しそうに喘ぎ乍ら、アルスたちを見上げた。
 いつもの冷酷な光が消え、なんとも言えない悲しい眸をしていた。その様子からして、こと切れるのは、最早時間の問題だった。
 ローザは疲れ果てて、その場に倒れるように、崩れ落ちた。立っている体力も、気力も、なかった。ただ、肩で激しく息をしながら、うつろな目でキングヒドラを見ていた。
「・・・・・・」
 キングヒドラは、弱々しいかすれた声で、喘いだ。
 だが、アルスたちには、聞き取れなかった。
 アルスたちは呆然として、キングヒドラを見ていた。キングヒドラも、彼らを、じっと見詰ていた。
 その顔が、かすかに微笑んで見えた。と、そのままゆっくりと目を閉じると、大きな音をたてて、床に顔を埋め、2度と動かなかった。
 キングヒドラの体が、ゆっくりと、衝撃音とともに青白い光に包まれて、光とともに粉々に飛散った。
「やった・・・・・・!」
 アルスは、思わずつぶやいた。
 とりあえず、オルテガの無念は、晴らすことができた。
「・・・・・・凄すぎるぜ、王者の剣」
 エルトが、王者の剣を見て、いった。ローザは、唇を噛んで、じっと涙を浮かばせていた。
「これで、オルテガさまも・・・・・・」
 オルテガを思って、ミゼラも呟いた。
「父さん・・・・・・仇はとったよ」
 アルスは、そういうと、顔を背けた。
 ミゼラたちに、涙を見られたくなかったのだ・・・・・・。その目に、涙が浮いていた。そして、自分たちがゾーマを倒すと二度ともとの世界に戻れなくなるさだめを思うと、また無性に涙が出てきた。
「行こう・・・・・・」
 ローザは、それらを吹っ切る様に、足を引き摺り乍ら歩き出した。まだ、ゾーマをほろぼさなければならない。それにさっきの様子では、まだキングヒドラの仲間のゾーマのしもべが、現れるに違いない。
 アルスたちは祭壇をおり、闇がひらけたことから現れた通路を、奥へ進んでいった。通路には、道に沿ってたいまつと石像が対になって続き、それらはすべて水上に立てられていた。通路の涼しさの原因は、この水の影響もあるかもしれない。たいまつの明りは、水面を照らして、綺麗だった。暫く進むと、「・・・・・・こいつらを滅ぼすこと、承知した・・・・・・」相手の声とともに、声の主が現れた。
「・・・・・・お前!?」
 アルスは、思わず叫んでいた。
 現れたのは、一見アルスたちの知った相手だった。
 ・・・・・・ただし、あんまし正面きって見詰たい顔じゃないが・・・・・・
「そんな!まさか!」
 ローザも、驚いていった。
 相手は、大トカゲの魔法使いだった。・・・・・・というより、出きることなら2度と会いたくない、『魔族』だが。
 体の鱗の色は、以前と違って水色。
 着ている服のデザインは、以前と同じだが紫色で、緑のマントを身に着けていた。
 ・・・・・・しかし・・・・・・あの時の戦いを思い出すと、もう1度は、やりたくない。誰だって・・・・・・
「・・・・・・本当にお前と戦うことになるとはな、バラモス」
 思わず視線をそらせ乍らに、アルスは言う。ミゼラたちも、身構えた。
「・・・・・・」
 不気味な恐ろしい鋭い双眼で、無言のままにアルスをじっと見つめる相手。
 ・・・・・・いや、だからこっち見んなってば。コワいから。
 アルスは、思った。
「・・・・・・バラモス・・・・・・だと・・・・・・」
 しばしの後、相手は、口をぱくぱくさせつつ呟いた。
 ・・・・・・と、いうことは、アルスの人(?)ちがいだろうか。・・・・・・しかし、魔物の群れを顔で見分けることなんぞ、普通の人間には、とてもできるもんではない。
「・・・・・・お前たち・・・・・・あの兄を知ってるとは・・・・・・」
 ・・・・・・兄っ!?
 アルスは、驚いた。言っておくが、アルスたちが以前戦った、その『バラモス』という魔王も、目の前にいるこれと、色以外全く変わらない容姿の持ち主だったが・・・・・・
 ・・・・・・モンスターにも、兄弟姉妹や家族や親戚ぐらいあるにしろ・・・・・・うーん・・・・・・兄弟・・・・・・
 アルスは、頭を抱えた。
「・・・・・・おれのどこが一体、あの絶交したバラモスの奴と似ているなどというんだ・・・・・・」
 ・・・・・・絶交って・・・・・・お前・・・・・・
 どうやら、昔は不明だが、現在の兄弟仲は悪そうである。
「・・・・・・俺は、名はバラモスブロス・・・・・・言っておくが、いつの間にかあんな偉そうになったバラモスと、このおれとを一緒にしない方がいいぞ・・・・・・おれは、ゾーマ様の力によって、より素早く攻撃できるようになったんだからな・・・・・・」
 なんだかよくわからないことを、ぬとぬとと一人しゃべっている。・・・・・・まあ、とりあえず、これ以上会話を続けても、頭が痛くなるだけみたいだし、何にしろ、いずれは戦わなければならない・・・・・・
 ゾーマが、この世界へ侵攻したとき、ゾーマの部下のバラモス、キングヒドラ、バラモスブロスはそれぞれ手がらを競い、残忍な殺戮を繰り返した。その中で、特に目覚ましい活躍をしたのがバラモスで、バラモスは精霊神ルビスをとらえると雨の塔に封印した。それが認められ、バラモスはゾーマからさらに強力な魔力を授かって魔王と名乗るようになったことでほかの魔族とは比較にならないほどの力を持ち、ゾーマから新たな指令を受けてネクロゴンドに進行した。そのことを快く思わなかったのが、ほかの魔族で、2人の魔族はバラモスをねたみ心密かに彼の失脚を願っていた。だが、バラモスやキングヒドラが滅ぼされた以上バラモスブロスにも絶交の機会が訪れ、ここでオルテガの息子をほろぼせば、彼の立場は以前のバラモス以上のものとなるだろう。
 こうして、バラモスブロスとの戦闘が、始まった。まずは、バラモスのように、右手を振り上げて直接攻撃してきた。
「どうだ、若造、オルテガの死は辛かろうなぁ。きさまも、オルテガのもとへ送ってやる」
 油断できん攻撃ではあるが、アルスたちの捕らえ切れない速度ではない。
 この油断に、つけ込まない手はない。だが、素早い攻撃というのは、本当だった。
「イオナズン!」
 バラモスブロスは、兄バラモスと同様イオナズンを使い、さらにバラモスより強力な激しい炎も吐いてきた。直接攻撃を含めて攻撃をしかけたときの魔族の動きは、雷光にたとえてすら、決して大げさなものではないだろう。さすがに、メタルスライムやはぐれメタルとは、また素早さの意味が違うが。
 アルスの目は、完全にその動きを、見失っていた。
 ・・・・・・いずれにしろ、油断していたのは、どうやらアルスたちの方だったようである。
 苦戦しつつも、アルスたちはバラモスブロスと戦い、バラモスブロスを滅ぼした。息を切らしながら、アルスがいった。
「・・・・・・ゾーマはどこにいるんだ?」
 さらに、通路を進んでいく。水面には、たいまつのほかに、薄らと水上に存在するものを揺らめく鏡のように映していた。すると、またうつろな空間に、相手が現れた。
「フン、来たな、虫けらどもよ」
 アルスは、現れた相手のほうを見据えた。
「どうやら、まだ元気だったようだな、アルス。わしは、ゾーマ様の偉大なる魔力で、バラモスゾンビとして復活した。ネクロゴンドでは、よくもやってくれたな。さっきは、楽しい見世物だったな、虫けらども」
 ニヤけた声で言ったこちらは、紫色の骸骨のドラゴンゾンビだった。見た目は、以前と全然違うが、声は今度こそアルスには聞き覚えがあった。
 ドラゴンゾンビ・・・・・・と言っても、こいつは、邪悪な怨念によって生命を得て突き動かされる死体・・・・・・すなわち、ゾーマの巨大な魔力で復活した竜の骸骨である。
 ゾンビとなって復活し、そして、何よりなんぎなことに、かつての威厳も捨て、死してなお、ゾーマに操られて利用されているとは、いや本人の意志で復活した可能性もある。
 以前と姿は全然違うが、これもまた、アルスたちの知った相手ということだ。
「お前もよく生き返ったもんだな、ゾーマはどこにいる!」
 アルスの言葉に、バラモスゾンビは、にやりと笑った。やはり滅ぼさないと、ゾーマに会うことは、できないようだ。
 などとやっていると、つんつん、とローザが、アルスの肩を、突っついた。
「・・・・・・知り合い?あのドラゴンゾンビ」
 ・・・・・・これである。この女は。その言葉に、バラモスゾンビは、一瞬コケそうになる。
「愚か者め。わしの声を、忘れたか」
「何言ってんだよ、あの戦いで、ローザも1度ほど顔をあわせてるだろーが。バラモスだよ」
「・・・・・・うーん・・・・・・」
 アルスがローザに教えると、彼女は頭をぽりぽり掻き乍ら、「・・・・・・でも、あたし、モンスターどうしの見分けなんてつかないもんねぇ・・・・・・」
 ・・・・・・じゅーぶんヒドいことを言ってる。
 あ。向うでバラモスゾンビ、落ち込んでる。
「そう、とにかく、甘く見ないことだな」
 いきなり立ち直ったバラモスゾンビが、自信ありげに話した。
「何しろ、このわしも、以前と比べて・・・・・・」
「いきなりイオナズン!」
 ローザは、うむを言わせずに、ありったけの力を集中させて、強烈な大爆発を相手の真ん中をたたき込む。
 先手必勝、である。
 無論、この程度の攻撃で、どうにかなるような相手ではないだろうが、少なくともこれで、戦闘の流れはこちらに向いたはずである。
 そして、バラモスゾンビは・・・・・・
 あ。むこうで、バラバラになってる。
 らっき♡
 バラモスゾンビは、すでに全身骨と化しているため、傷による苦痛は全く感じなかった。だが、周囲に大爆発の煙を漂わせながら、バラモスのゾンビは、最早ピクリとも動かない。
 ゾーマによってゾンビと化したバラモスは、呪文が使えなくなったかわりに、生前と同様の素早さを持ちながら強力な力を手に入れていた。自らの頭を飛ばして攻撃すれば、巨大な柱や玉座も粉砕するほどの威力を持つようになった。だが、その力を見せることなく、アルスたちによって青白い光に包まれて消えていった。
「こんな・・・・・・はずでは・・・・・・ゾーマ・・・・・・さまぁ・・・・・・!」
 アルスたちは、通路の先へ、進んだ。歩くたびに、ミゼラが身に着けた命の指輪が、受けた傷を少しずつ回復させていた。アルスの装備する光の鎧も、同じだ。ここに来るまでにアルスたちは、体力も魔力もかなり消耗していた。しかし、今迄手に入れた装備や道具、そして呪文で回復させた。以前ラダトームで聞いた話では、ゾーマは絶望を啜り、憎しみを食らい、悲しみの涙で喉を潤すという。それらを、断ち切らなければならない。
「・・・・・・みんな!」
『おうっ!』
 アルスの呼掛けに、ミゼラたちの声がハモって答える。
「おれは、ゾーマを倒す!おれに、力を貸してくれ!」
「勿論よ!私、アルスにずっとついていく!」
 アルスの言葉に、ローザはアルスに抱きついた。
「グラップの分も、やるわ、私!」
「まかしてくれってんだ!」
 ミゼラが答え、エルトは自分の腕をたたいた。そして、彼らはついに、通路の奥に辿り着いた。静まり返った闇に、相手の息遣いか・・・・・・不気味な音が、ずっと反響している。その床は、大理石らしきものでできていた。

あとがき
ゾーマの城での戦闘です。
オルテガの死は、3の大事な場面ですね。
私も力が入りました。
自分の子だと気が付かないのがよけい悲しい。
先日DQライブ行きましたが、同じ場面はどうなってるか非常に気になってました。
王者の剣による戦いは、さすが後のあの剣・・・の本来の姿です。
次回はいよいよゾーマさんとの戦い。
とうとうここまで来ました。
※次回は10月1日更新予定です。
nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ゲーム

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。