2章ー5 エンドール(1) [DQ4-1]

2章ー5 エンドール(1)

 夕方エンドールに到着したが、アリーナはその日、城に入る事が出来なかった。
「ようこそカジノへ。ここではコインしか使えません。そちらのキャッシャーでコインを買ってくださいね」
 宿屋の地下には王家公認の立派なカジノがあり、こともあろうに、ブライがつかまってしまったのだ。
「カジノに落としたムダ金はエンドール王の懐に入るんですぞ!賭け事など以ての外!とは言え負けなければよいというもんでして。多少でしたら気晴らしになるかと」
「城下町より人が多いわ!うーんカジノってそんなに楽しいかしら?」
「賭け事はあまりお勧め致しませんが・・・・・・」
 バニーガールの笑顔に絆されて、コインを100枚ばかり買い、ほんのちょっとした遊び気分で試したモンスター格闘場に、いきなり、予想が当たった。手に入れた数えきれないほどのコインに、周囲からひとが集って来て、羨ましそうな声をあげる。魔法使いはすっかり目の色が変わってしまったのだ。
「大きく賭ければ損も大きい。小金をコツコツ増やすのが賢いやり方です。もう少し!あと、ほんのちょっとで大鶏が勝ところだったんですよ。さすれば、そこな交換所にて、姫様にはスパンコールドレスと星降る腕輪を貰って進ぜる!あいや、御止くださるな。内緒じゃが、ここでは大穴狙いで勝負するんです。ようやく、それが発見出来たんです。今暫くの御猶予を!」
 奇妙な見栄を切って頼み込み、脇目も振らずに、山なすコインをバーテンにわたし、見物場所の壁にしがみ付く。魔物同士の戦いに、すっかり夢中になってしまっているのだった。
「・・・・・・しょうがないわねぇ。昼でも夜でもこの活気。カジノの中にいると時間を忘れちゃうわね。じゃあ、私達はご飯食べてくるからね」
 アリーナとクリフトは上の酒場に行って、食事を注文した。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
 簡単に済ませるつもりだったのだが、スパイスを効かせた料理はなんとも美味。珍しい魚や野菜、見たこともない乳製品や氷菓子が、驚くほどの安い値段で振る舞われる。
 ずっと野宿の焚火であぶった簡単な食事しかしていなかった二人は、思わず、腰を据え、こっそりベルトを緩め乍ら、盛んに食べ、飲み始めた。すると、周囲の街の人々が、ジョッキを片手に集まってくる。
「うい~。また負けちまった。母ちゃんに何て言おう・・・・・・。いよう、若いの。良い食べっぷりじゃねぇか。よぉし、オレがおごる。ねぇちゃん、オレに酒の極上を、瓶ごとくんな」
「こいつぁ、夕方の地引網にかかった魚だ。素揚げにしたのが、この街の、いつものオカズってやつなんだぜ。やってみてくれ」
 次から次へと、新しい料理を差し入れ、アリーナやクリフトが感激しつつ、平らげたり飲み干したりするたびに、やんやの喝采。御得意さん方とたちまち意気投合した旅人を見ると、宿屋の主人もなかば商売っ気抜きの上機嫌で席に交ざる。
 あまちの賑やかしさに、「おお!今日の稼ぎが全部パーです。とほほ・・・・・・」階下のカジノですっからかんになった商人が何事かとのぞき込んではゲン直しにと仲間に加わり、他の地方から来たらしい旅の商人も、ここぞとばかりに寄ってくる。とうとう宿屋に泊まっていた流しの吟遊詩人ロレンスを引っ張りこんで、御国自慢の民謡を歌いだすものが出た。喉自慢が順繰りに進み出ると、やがて歌に合わせて踊るものが現れる。テーブルを片寄、床を這うような目まぐるしいステップを披露するものがあるかと思えばバラの花を一輪横咥えにして椅子に飛乗り、裾を捲って色っぽく踊る娘もあり。手品のようなナイフ投げを見せびらかすもの、腕相撲で争うもの、酒量で勝負だとばかりに盃を積み重ねながら見物に興じるもの。
 アリーナもクリフトも、すっかりいい気分になってしまい、片方が鎖鎌を使って皿の上の料理をこぼさずに運んでみせれば、こっちは薬草に蝋燭を投じ、様々に色変わりする炎を見せてひとびとの目を楽しませる。そのたびに、酔っ払いどもは歓びの声をあげ、拍手し、代りに足を踏鳴らして、店がぶっ壊れそうになるほど大いに騒いだ。
 とっぷりと夜が更けると、さすがの宴会も草臥れて、多くの街人は誘い合い、肩を支え合い、なおもあたり構わず大きな声で歌いながら、家路についた。揺り起こされても立ち上がれなかった者、完全に酔い潰れた者たちは、床やら椅子やらで、ぐうぐうと鼾をかき、店の者たちは急に真顔になってあたりを片付出した。ブライが、ようやくカジノを切り上げて階段を昇ってきたのは、そんな刻限であった。
 アリーナは汚れた皿のいっぱい載った隅のテーブルにいて、うっすらと染まった頬を片手で支えた格好で、物思わし気に星の夜空を見上げている。テーブルの向かい側では、クリフトが、誰かにもらった花輪を頭に載せ、幸福そうに舟を漕いでいる。傍らでは、ロレンスがすっかり掠れて調子っぱずれになった声で、バラードを歌っているのだった。
「戦士たちの戦いを見る為遥々やって来ました。あなたに勝利の歌を捧げましょう。
♪あなたに勝利を もたらすものは
 聖なる守りと 友の献身
 老師のことば 右手に鉄の爪
 ラララー」
「鉄の爪ってとっても素敵な響き・・・・・・。ああ鉄の爪・・・・・・うっとり・・・・・・」
 ブライは、そっとアリーナに近づいた。
 肩に手を置くと、「歌は酷いがあの詩人かなりの魔法の使い手と見た。人は見かけによらんもんですな。そちらも、随分御愉しみだったようですな」アリーナは顔をあげ、照れたように笑った。
「ええ。1日、出遅れちゃったわ。でも、御蔭で、色んな噂を聞くことが出来たわ。みんな、明日は私を応援してくれるはず」
「噂、とは?」
 ブライは手近な椅子をずらして、座込んだ。
「うん。武術大会を見る為、多くの人々がエンドールに集まってきているとか。エンドールの国王陛下がこうまでして強い者を集めるのは何か訳がありそうだとかね」
 ブライが言い掛けようとするのを片手で留めて、アリーナは立上り、クリフトの肩を揺すった。
「うふふふふ・・・・・・うっふっふっふー!世界中の人の前で世界中から集まった強い人達と存分に戦えるわね。ああ幸せ!エンドールってとっても素敵な国ね!」
「見るだけでやめておけばよいものを・・・・・・ぶつぶつ」
「今夜は、もう休みましょう。明日は、早起きしてよ。お城に行かないと」
「フム。わけあり・・・・・・とは。ますます陛下にお会いせねば。さあさ城へ参りましょう!」
(続く)

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