3 廃墟(2) [DQ2上]

3 廃墟(2)

 空の太陽は、まだ冬を思わせた。
 相変わらず、朝晩は、めっきり冷え込んでいた。
 3時間ほど南に進んで橋を渡ると、西に向かって大きく曲がって歩いた。そして、さらに南に向かった。
 道中、アルスとカインは、何度も魔物と戦った。
 中でも、群れを成して現れた毒をもつ緑色のスライムの魔物、バブルスライムが特に手強かった。
 だが、昨日のホイミスライムとの戦いでコツと自信をつかんだカインは、さらにアルスから武器による攻撃の修練を積み、新しい武器である鉄の槍の攻撃力はより強力になっていった。アルス自身はさまざまな武器の使い方をローレシアで教わっており、まさに武芸百般だった。またさまざまな魔物の種類や弱点にも詳しかった。
 そして、カインはここにくるまでの間に呪文も新しいものをいくつか覚えた。最初から使えた回復呪文のホイミのほかに、炎の呪文ギラや、解毒の呪文キアリーが使えるようになった。さっきも相手の呪文を封印するマホトーンを覚えたところだ。
 戦いが始まると2人はそれぞれのゴーグルを下ろし、カインは、バブルスライムたちに鉄の槍による攻撃や突きを炸裂させ、ひるんだ隙にアルスが片っ端から鋼鉄の剣で切りつけ、さらに宙に大きくジャンプしたアルスが、鋼鉄の剣を振り下ろしていた。相手に毒攻撃をさせるヒマを与えさせなかった。
 ムーンペタを出て14時間後の深夜のこと・・・・・・。
 アルスとカインは、野宿に適した岩場を探しながら、進んでいた。
 冬の季節にはふさわしくない、生ぬるい、ねっとりと肌にまとわりつくような風が吹いていた。
 と、空の雲の間から月が顔を出した。
『あっ!?』
 2人は、声をハモらせた。
 その月に照らし出されて、ほんの一瞬だが、前方の丘の上に、黒々とした不気味な城が浮かび上がったのだ。
「ムーンブルク城だ!」
 アルスが言い、2人は、さらに進んだ。
 そして、城の門の前にたどり着き、廃墟と化した城への入口に入って、「うあっ!」アルスは思わず叫んで、顔を背けてしまった。
 すでにムーンペタからの特別隊によって屍の多くは葬られたと聞いていたが、あたりにはまだ毒を放つ水溜りからの腐敗臭が漂っていた。
「思ってたよりひどいぞ、これは・・・・・・!」
 鼻と口を押さえながら、アルスはカインと顔を見合わせると、さらに城の北東部にある焼け落ちて骨組みだけがかろうじて残っている宮殿へと進んだ。
 月の光が、城の中への道を照らし出した。
 ハーゴンめっ・・・・・・!アルスの胸の奥から、新たな決意が込みあげてきた。そのときだった。背中にぞっと冷たいものを感じたのは。
 アルスは、振り返って、「うわあっ!」すさまじい悲鳴を上げて、5メートル飛びのいた。
 カインも、腰を抜かして、「あ・・・・・・」と、真っ青になってわなわな震えるだけで、声すら出なかった。それくらい唐突に相手は出現していた。
 いつの間にか巨大なコブラが、音を立てずに、2人の背後に現れていた。
 全身は、赤や黒、黄色の、不気味な原色のうろこに覆われている。黄色と朱色の目は、小さいが鋭かった。猛毒の牙を持ったコブラの魔物、キングコブラだ。
 キングコブラは、素早く体をくねらせながら、先の割れた舌を出しながらカインに迫った。
「カイン、呪文だ!」
 ゴーグルを下ろしたアルスが叫んだが、腰を抜かしたカインは呪文どころではなかった。おまけに、逃げられない!
 キングコブラは、カインの体に巻きつき、さらにその牙で足に噛み付いた!
「だわぁぁぁぁーっ!」
 カインは、頭の先からとにかく叫んだ。さっそく、「やーっ!」アルスは、勢いよく飛び込んでキングコブラの体を斬った。
 だが、斬られた尻尾はカインの体から離れなかった。
 カインは毒に侵されてしまったが、体勢を整えると自身のゴーグルを下ろし、「このやろーっ!ギラ!」何とか気力を振り絞って、頭上で両手を組んで、離れた本体のキングコブラに向かって呪文を唱えた。
 ギラは炎の精霊と創造神の力を借り、小さな炎の波を生み出し、それを目標にぶつけ、炎を炸裂させる呪文だ。その炎の波は、少し威力のあるパンチ程度しかなく、目標を殺さずに生け捕りにしたいときなどに有効な呪文である。また、その炎を牽制に使うことも出来る。
 この呪文は覚えて以来、カインの得意な呪文となりつつあり、攻撃手段の1つだ。
 キングコブラの体はギラの炎に包まれると向きを変えて、今度はアルスに迫ってきた。
 アルスは、相手の動きに気をつけながら、キングコブラに斬りかかった。
 滅多斬りにして、キングコブラの動きをさらに止めると、アルスは宙に大きくジャンプして、体をめがけて思いっきり鋼鉄の剣を振り下ろした。
 キングコブラの体は、青白い光に包まれて消えた。
 アルスは、カインの体からなかなか離れないキングコブラの尻尾を蹴飛ばした。その頃カインは、やっと自分への治療の呪文を唱えていた。

 聖なる癒しのその御手よ
 母なる大地のその息吹
 優しき浄化の光持て
 汚れの払いを我に

「キアリー!」
 キアリーは体内に侵入した毒、食物に混入した毒など、命を奪うあらゆる毒を浄化することが出来る呪文だ。どんなに強い猛毒であっても、この呪文によって消すことが出来る。回復呪文のホイミ系の呪文と並んで、僧侶たちの間ではかなりポピュラーな呪文である。
 体から毒が消えるとカインは、疲れきってその場に座り込んでしまった。
 何度も魔力を使って、全身から力が抜けてしまった。
 そしてアルスは、疲れきってしまったカインに肩を貸して、北東部にそびえる宮殿に向かって必死にダッシュした。
 城に入り道なりに左、突き当たりを右に曲がると右側に、焼け焦げたまま無残な姿をさらしている宮殿がある。宮殿の中は、静まり返り、動くものは誰もいなかった。
 焼け落ちた宮殿の天井の上の暗雲を、月の光が照らしていた。
 その光に照らし出された、無残に破壊された壁や床。
 そして、眼を背けたくなるような床の大量の血痕・・・・・・。
 166年の栄華を極めた、荘厳で華麗な宮殿の面影は何一つなかった。
 宮殿を出てさらに奥に進み、城の中庭に続く裏道へ進んだ。
 中庭にたどり着いたそのとき、アルスは、地下に続く階段の奥からほのかな明かりが漏れているのに気づいた。それは、ほんのかすかなものだった。
「何だ、あの明かりは?」
 アルスはカインを促して、階段を下りた。
 2人は、明かりに誘われるように、さらに階段をおりた。
 階段を下りると、明かりは、崩れかけた地下室から漏れているようだった。
 2人は、緊張しながら、地下室を覗いて驚いた。
 地下室の中で、まるで篝火のような炎が、宙に浮いて燃えていた。
 と、炎がゆらゆらっと揺れ動くと、どこからともなく男の声がした。
「誰かいるのか・・・・・・?まさか勇者の血を引く者たちなのか・・・・・・?」
「人魂か!?」
「うわあっ!」
 アルスとカインはびっくりしてお互いの腕にしがみついた。
「わしじゃ・・・・・・。わしはムーンブルクのフォルグの魂じゃ・・・・・・」
 声は、炎からだった。
 声はかつてのフォルグ王の温厚でやさしい声のままだった。これで本来の人間の姿なら笑顔がよく似合うような声である。
「フォルグ国王陛下!?」
 アルスは、思わずカインと顔を見合わせた。
「我らはどうしても死にきれんからな。魂となって、誰かが来るのをずっと待っておったのじゃ・・・・・・」
 すると、2人の周囲に数え切れないぐらいの多さの魂が現れた。すべて今回の襲撃によってこのムーンブルク城で死亡した者たちの魂だった。襲撃の出来事が怨念となっており、「うわー!ハーゴンの軍団が攻めてきた!助けてくれー!」と中には助けを求めて叫ぶ魂もいた。人の姿は留めておらず、魂だけが現世に残された状態だ。また2人が調べた結果、どうやら普通の幽霊とは違いこちらが話掛ければ反応するものの、会話のキャッチボールはできないようだった。フォルグ王の魂は言った。
「どうしても頼みたいことがあってな・・・・・・。ハーゴンの軍団の襲撃によって、わしも、そして王家の血を引く直系の者たちもすべて死んだ・・・・・・。だが、わが娘ナナだけは、どこかで生きておるはずじゃ・・・・・・」
「えっ!?」
「ムーンブルクのナナ王女が!?」
 2人の顔が、ぱっと輝いた。
「本当ですかっ?」
 思わずカインが、会話も出来ないのに聞き返してしまった。
「だが、おそらく姿を変えておるはずじゃ」
「姿を・・・・・・!?」
 アルスは、またカインと顔を見合わせた。
「ナナはハーゴンの配下、地獄の使いに呪いをかけられ犬にされたという。おおくちおしや・・・・・・」
「犬に姿を変えてるんですか?」
 カインの言葉に、別の魂が反応して語りだした。
「・・・・・・ここから東の沼地の奥に岩場がある。そこにラーの鏡が奉納されている・・・・・・。かつて大地の精霊が使ったといわれ、初代ローレシア王が3人の子供たちに至宝として授けたもののひとつであり末の王女がムーンブルクに嫁いだときに伝わった神器の鏡だ・・・・・・。これを誰かに伝えるまで、私は死にきれぬのだ・・・・・・」
 また別の魂が、「ああ王女殿下・・・・・・」と語りだし、「私は殿下をお守りできませんでした。そのため殿下は呪いで姿を変えられどこかの街に・・・・・・。しかし、もし呪文や呪いによって姿を変えた者を真実を映すというそのラーの鏡に映し出せば、すぐに呪文や呪いが解け、真の姿に戻るといわれています・・・・・・。その鏡で、殿下の呪いを解くことが出来るでしょう・・・・・・。勇者の子孫よ、どうか殿下を・・・・・・。そして、一緒にハーゴンを倒して、私たちの無念を晴らしてください・・・・・・」炎が小さくなっていった。
 魂がそういうと、すべての炎が消えた。
 とたんに、地下室は真っ暗な闇に包まれた。
「フォルグ国王陛下!?」
「国王陛下―っ!」
 カインが、アルスが慌てて何度も叫んだ。
 だが、どこからももうフォルグ王の声はしなかった。
 そのときだった!
 闇の中の静寂を破って、すさまじい雨の音が聞こえてきた。
 2人が城の外に出ると、滝のような雨が降っていた。
 繊細な心の持ち主であるカインには、この雨は、無念の死を遂げたフォルグ王や、さらには多数の魔法使いの涙のように思えてならなかった。
 ・・・・・・フォルグ国王陛下。ナナ王女を救い、そして必ずやハーゴンを!
 2人は、心の中でそう誓った。
 雨は、なかなかやむ気配がなかった・・・・・・。

あとがき
ムーンペタとムーンブルクでの出来事です。
ムーンブルクでの事件がようやくわかってきたところですね。
ムーンブルクに登場する魂たちの話は、ゲームでもやっててつらいところです。
特に王女連れてったときとか。
今回はここまで。
ムーンブルクの王女が正式に登場するのは次回です。
※次回は7月1日更新予定です。
バイトの都合により変更になる可能性があります。
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ともちん

この廃墟に来なければならないとはいえ
ゲームでも辛いところでしたね。

次回も楽しみに待っています。
まずはバイトとあばれスピアさんの体調など
最優先にしてくださいね。
by ともちん (2012-06-03 03:05) 

あばれスピア

ともちんさん
魂たちとは、あまり会話できないのはやっててつらいところでもあります。
次回も大変にならない程度にやっていきます。
宜しくお願いします。
by あばれスピア (2012-06-03 23:31) 

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