15 ロトの剣(2) [DQ1]

15 ロトの剣(2)
 断崖絶壁の、岬の突端に、アルスはたどり着いた。海峡からは強い風が吹きつけてくるのだ。
 もうすぐ新しい月を迎えるというのに、空にはどんよりとした暗雲が低く垂れ込め、海は相変わらず真冬のように荒れ狂っていた。
 以前リムルダールの予言所の老婆が言っていたが、かつてこの岬はなだらかな美しい岬だった。
 だが、今その面影はまったくない。地層が浮き出た切り立った崖が連なり、地割れの裂け目が大きく口を開けていた。
 5年前の天変地異で、隆起と陥没のために醜い奇怪な地形に変わってしまった。
 岬の突端も大きくえぐられたあとがあり、地割れを起こしながら橋と共に崩れ落ちたことがすぐに想像がついた。
 今アルスが立っているところは、かろうじて残った部分なのだ。
 もやで竜王の島は見えない。だが、この風が吹いてくる海峡の向こうに、間違いなく竜王の島があるのだ。
 腰のポーチから虹のしずくを取り出すと、アルスは両手を大きく頭上にかざして、無心に祈りながら叫んだ。

 虹のしずくよ
 精霊神ルビスよ
 我を竜王の島に導きたまえ
 勇者ロトのように

 すると、突然虹のしずくが、アルスの手から消えると、岬の突端をまばゆい七色の光が包んだ。
 と、岬の先端を包んでいた七色の光が1本の細い虹の帯になって、キラキラ輝きながら海峡の上を勢いよく延びていった。一瞬のうちに美しい虹の橋が海峡のかなたに姿を隠している竜王の島までかかった。
 やった!
 息をのんで見つめていたアルスの心が躍った。
 新たな闘志が胸の奥から湧き出て、全身を駆け巡った。
「アルス様をローラはお慕い申しております。気をつけてくださいね」
 聖なる祠で会話したとき、ローラはラダトーム城の自分の部屋で、心配そうに語りアルスを想って熱い瞳でコンパスを見ていた。
 待っててください、ローラ姫!必ず竜王を倒して見せます!
 アルスはローラ姫のことばと声を思い出しながら心の中で固く誓い、荒れ狂う海峡のかなたを見ると、力強く虹の橋を歩き出した。
 虹の橋は見かけによらず、まるで石のように硬かった。
 ほんの少し、30メートルも行かないうちに、急に、海の波が高くなった。
 アルスはリムルダールの老人が、「古き言い伝えでは、勇者ロトはリムルダールの地の西の外れに虹のしずくで七色の橋を架け、魔の島に渡った」という言葉を思い出した。
 アルスはさらに歩いていくと、前方から、地響きのような轟きが聞こえてきた。
 何でしょう、あの音は!?
 その音のするところまで行って、あっ!?アルスは息をのんだ。
 波頭と波頭がぶつかり合い、無数の飛沫を飛び散らし、逆巻く波と波が大きくうねりながら渦を巻き、ものすごい速度で南から北に向かっている。まさに地獄のような、呪われた魔の海峡だ。
 いつの間にか、この激しい潮の流れの遥か海上に黒々とした島影が姿を現していた。
 あれが竜王の島ですね!
 アルスは緊張した。
 竜王の島は、低く垂れ込めたもやに、すっぽり覆われていた。
 さらに強い風が島から吹いてきた。風の強さがさらに強烈になった。
 おそらく、あの島のどこかで、竜王はアレフガルド全土に目を光らせているのだ。そして、海峡の潮流と渦巻きは、休むことなくあの島の周りを走り続け、近づくものを拒んでいる。
 アルスは島に向かって駆け出した。
 虹の橋は島の東海岸の崖の上に続いていた。アルスは虹の橋から崖に飛び降りた。西の岬を出てあっという間だった。
 目の前には岩肌が露出した急峻な崖がそそり立っている。もやに隠れていて全貌を見ることは出来ないが、想像を絶するような険しい山脈であることはすぐに察しがつく。
 さあ、来い!竜王!
 アルスは、気を引き締めながら、平らな足場のいいところを探して、歩き始めた。
 島は、昼だというのに夜のように暗かった。
 天には、紫色の暗雲。地には、荒れ果てた岩肌と湿地。そして、冷たい紫色の濃霧と風。それしかなかった。広野の地獄の風景しかなかった。
 両側に険しい山脈がそびえている岩場をアルスは南に進んだ。岩場には、不気味な赤や黄色の原色の苔が、いたるところに群生していた。
 アルスは2時間かかってこの岩場を抜けると、今度は沼地の岩場に入った。
 岩場は、あのアレフガルド東の沼地やロトのしるしを見つけた沼地と違い、森の木々はない様子だった。沼地はロトの鎧の力で1歩踏み出すたびに沼地に沈まず進んだ。
 周囲は奇妙な形の岩山がどこまでも続いていた。ところどころ、ぶくぶくと泡を立てた紫色の底なし沼が、あたりにどこまでも広がっていた。
 アルスはこれまでの旅を思い出しながらこの沼地の岩場を進んだ。
 この岩場の沼地に入って最初の夜、アルスが横に張り出した巨大な岩にもたれて休もうとしたときだった。低い声がして、アルスは兜の庇を下ろして炎の剣を抜いて構えた。
 暗がりで2つの赤い眼が光ったかと思うと、1匹の魔物が現れた。大魔道だった。
「モンスターか!」
 さっそく大魔道が背後から杖で殴りかかって襲いアルスは振り向きざま、呪文を唱えた!
「マホトーン!」
 円を描いた黄色い魔力が敵の全身をとらえ、敵は杖を振り下ろしたまま一瞬動かなくなった。相手がマホトーンをアルスに唱えようとするほんの1秒前だった。アルスは杖の攻撃を横っ飛びしてかわすと、背後に回って大魔道の背中を炎の剣でジャンプしながら振り下ろして斬った・・・・・・。
 と、手負いの敵はよろよろっと前に5メートルよろけ、体勢を変えようとしたとたん、敵の体がいきなり沈んだ。そこはぶくぶく泡立っている紫色の底なし沼だった!
「ぎゃああああっ!」
 大魔道は叫び、もがきながら底なし沼に沈んでいった。
 3時間かかってアルスはこの沼地の森を越えると砂漠に出た。
 すると突然もやが晴れた。だが、両側にそそり立っている険しい岩山が見えたのも束の間だった。またすぐもやに覆われてしまった。
 アルスは黙々と広野の砂漠を北へ進んだ。
 砂漠のいたるところに無数の屍が転がっていた。おそらく、天変地異のとき、大津波から逃れてきた人々がこの砂漠で魔物の群れにやられたのだろう。
 北へ進んでいくほどもやが濃くなっていった。そして、2時間後の夕方、やっと砂漠を抜けたと思ったとき、あっ!?思わずアルスは緊張した。
 ほんの一瞬だが、前方の崖の上に、もやに包まれた暗闇の城が見えた。
 竜王の城だった。竜王の城は、断崖絶壁の北の岬に、アレフガルド中を威圧するかのようにそそり立っていた。目のくらむような断崖絶壁の下は、激しい波が打ち寄せる海だった。
 かつてこの城のあったところに、精霊神ルビスを祀った荘厳で華麗な大理石の神殿がそびえていた。
 城に接近したアルスは、要塞のような石造りの城門を潜り抜け、岩陰から城内の様子を見た。中央の崖にはおどろおどろした古い石の建物がそびえていた。宮殿のようだ。
 アルスは深呼吸して炎の剣を抜くと、息を殺して1階の宮殿に接近した。
 これは!?
 異様な殺気のうごめきに思わず5メートル退いた。
 薄暗い宮殿の中は、巨大な円柱が両側に並んで、奥の闇へと続いていた。そして、その円柱に、おどろおどろした今にも襲い掛かってきそうな、竜のレリーフが施されていた。
 そして、ロトの鎧の力でバリアの守りを抜けて、一番奥の部屋の前まで来た。
 部屋の中は不気味なほど静まり返っていた。その部屋にバリアに囲まれて、やはりドラゴンのレリーフが施された立派な玉座があった。
(続く)

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ともちん

緊迫した雰囲気が伝わってきます。
緊張しながら読みました。ドキドキします。
by ともちん (2012-06-05 02:06) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
1のラストダンジョンなんで、いつもよりは緊張感ありです。
by あばれスピア (2012-06-05 23:30) 

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