5 風のマント(5) [DQ2上]
5 風のマント(5)
湖を出発してから8時間後の午後・・・・・・。
ひたすら進んできた勇者の子孫たちは、大きな峠を越えると、『おおっ!』声をハモらせ思わず顔を輝かせた。
目の前のなだらかな丘陵の向こうに、巨大な2つの塔がそびえていた。
手前の7階の塔は南の塔。その向こうの海峡の対岸にある6階の塔が北の塔。
双子塔とも言われている、有名なドラゴンの角だ。
「行くぞ!」
アルスが言い、勇者の子孫たちは、さらに進んだ。
直進すると、すぐ断崖絶壁の上にそびえる塔の前に出た。
この先は、目と鼻の先にある対岸の北の塔から、再び島の中心地である港町に向かって進むのだ。
塔は、風の塔と同じように何100万個もの石を積み重ねて造られた壮大なものだった。
風の塔よりは、遥かに、しっかりしていて、どうやら、何度も修復の手が入れられたらしい。
だが、勇者の子孫たちが1番驚いたのは、2つの塔を遮断している断崖絶壁の海峡だった。
400~500メートルほどの距離の狭い海峡を、激しい海流が無数の大渦を作り、その渦と渦が轟音をたててぶつかり合いながら流れていた。
その大渦の衝突が、狭い海峡の気流を変化させ、すさまじい勢いで上空に吹き上げてくる。うっかりすると吹き飛ばされそうな強風だ。
「どうやって渡るんだよ、こんなすごい海峡!?」
アルスは断崖の上の柵にしがみつきながら言った。
とてもではないが、普通の環境ではない。
「とにかく、あの人に聞いてみましょう」
ナナが言った。塔の中に男の商人が1人いた。
こげ茶色の髪の小柄な商人は、塔に入ってきた勇者の子孫たちを見ると、はっとなって弾かれたようにナナを見た。そして、感激に体を震わせながら涙を浮かべて、「王女殿下・・・・・・。良くぞ・・・・・・ご無事で・・・・・・」と、平伏した。
1ヶ月前、ムーンブルク城に招かれたとき、ナナを見て知っていたらしい。
商人は、さっそく勇者の子孫たちに応対した。
ここから対岸に、ちょうど北の塔がある。
ナナからムーンブルク壊滅の様子を聞いて、商人はしきりに涙を拭いていた。
だが、涙が納まると、「しかし、これからどうなさるおつもりです?」と、尋ねた。
「あの対岸に渡りたいの」
ナナは、対岸の塔の方向を指していった。
「ええっ!?渡るっ!?」
商人は、驚いた。
アルスは、ナナと共に、これからの旅の目的のことを話した。
もう、勇者の子孫たちは2度とこの南の塔に戻ってくるつもりはなかった。
対岸に渡った後、勇者の子孫たちは最初の予定通り港町に行って、船を探し、アレフガルドに船出することにしていた。
「・・・・・・アレフガルドに行ってハーゴンのことを調べたいの。どうしたら渡れるんですか?」
ナナが商人に聞くと、「どうしたら渡れるかですって?はっはっは。まあ、あと10ヶ月は待つんですね。それがいやなら、空でも飛んで渡るんですね」と、相手にもしてくれなかった。要するに、渡る方法はないらしい。
「吊り橋さえ焼かれなければ、苦労しないで渡れたんですが・・・・・・今はこの有様」
「焼かれた?」
ナナが尋ねた。
「はい、昔は向こう岸の北の塔と南の塔の最上階に釣り橋がかかっておったんです・・・・・・。こちら側は、北よりちょっと地形が低いものですから・・・・・・。昔は、結構この周辺も賑わっておったんですよ。港町からやってくる観光客で・・・・・・。それに、ここはまだムーンブルクの国とはいえ、1番結びつきの深いのは対岸の港町なんです・・・・・・。食料も衣料も何もかもが、すべて港町から吊り橋を通って運ばれてきていたんです・・・・・・。ところが8ヶ月前・・・・・・何者かによって吊り橋は無残にも焼かれてしまいました」
『ええっ!?』
アルスたちは声をハモらせ思わず顔を見合わせた。
「当時、邪教徒が急に増えましてね・・・・・・。ルビス様から邪教徒に鞍替えする者も結構いたんですよ、みんな魔族化して・・・・・・。ところが釣り橋が焼かれると、ここから邪教徒たちが突然姿を消してしまったんです・・・・・・。今思えば、すでにその頃からハーゴンがその邪教徒たちを操っておった・・・・・・ということでしょうね・・・・・・。しかし、吊り橋の工事は思うように進まんのです・・・・・・。綱さえ1本通せば、その綱を伝って多くの人を向こうへ送ることも出来ますし、作業ももっと簡単になるんですが、その最初の綱がどうしても通せんのですよ・・・・・・。追い風の日を選んで、巨大な弓で綱を結んだ矢を放っているんですが、何度やっても北の塔まで届かないんです・・・・・・。ですから、今もっと強力な弓に作り変えているところなんですよ・・・・・・」
手詰まり感に、ナナは、ため息をついて南の塔の外から空を見た。白い海鳥が5羽、翼を広げてゆったりと舞っている。
空ね・・・・・・ナナは心の中でつぶやくと、ぱっと顔を輝かせた。
戦士に授かった風のマント!
「そうだわ、こういうときこそ風のマントを使ってみましょう!」
『えっ!?』
アルスとカインが声をハモらせ驚いた。
「本気かよ!?いくら風のマントだって、あの海峡じゃ無理だぜ!」
「でもやってみないとわからないじゃない。それにあの対岸に行くには、どうしてもこの海峡を渡らなきゃならないんだから」
そういわれると、それ以上アルスは反論が出来なかった。確かに他に方法がない。
「そうと決まれば・・・・・・」
ナナはふと顔を曇らせた。
「まあ、確かにやってみなきゃなんともいえないけど・・・・・・」
アルスが言った。決まったものの、さすがにリーダーのアルスも不安は隠せなかった。
もし、風のマントがうまく空を飛べなければ、激しい渦が逆巻く海峡に落下してしまう。
それからすぐのこと・・・・・・。
遥か西の空に、大きな夕日が今にも沈もうとしていた。
勇者の子孫たちが、南の塔の最上階の以前吊り橋が架かっていたところに立った。
真ん中のアルスが風のマントを身にまとっている。
その横には、商人が見守っている。
準備はすべて完了していた。
勇者の子孫たちの足元には、目のくらむような断崖絶壁と、その下を渦を巻いてすさまじい勢いで流れている海峡が見える。
「やっぱり・・・・・・1度試してからの方がよかったんじゃないか!?」
さすがに恐怖に震え、歯を鳴らしながらアルスが言った。
カインも、真っ青な顔をして声すら出せず緊張している。
「とにかく、精霊神ルビスに祈りましょう。心を籠めて、必死にね!」
ナナは自分に言い聞かせるように言った。ナナも不安だった。
カインとナナは、アルスの体にしがみつくと、勇者の子孫たちは目をつぶって精霊神ルビスに祈った。
精霊神ルビスよ
我らに力を与えたまえ
「・・・・・・さあ行くぞっ!みんなで勇気を持って思いっきり跳ぶんだ!・・・・・・せーのっ!」
アルスが号令をかけ、勇者の子孫たちが一緒に宙に大きく跳んでアルスはマントの端を持って両腕を大きく広げた。
勇者の子孫たちの体が急に浮上した。海峡から吹き上げてくる強風も味方した。
『うわあっ!』
勇者の子孫たちは、目を開けて声をハモらせ歓びの声を上げた。
彼らは全身に風を受けながら、北の対岸に向かって空を滑空していた。
風のマントが風をはらみ、大きく膨らんでいる。
見守っていた商人は大きな歓びの声を上げていた。
(続く)
ついに風のマントが!!
話の流れが自然で、とても読みやすかったです。
私もゲームをしていて、本当にいいのかな?
と思いつつ風のマントを使ったことを思い出しました(^^)
by ともちん (2012-08-27 22:01)
ともちんさん
こんばんは。
確かにあそこは迷いますよね。
初めて使ったとき、間違って西方面に落ちたことがあります(笑)。
でもそのおかげで正しい使い方がわかりました。
by あばれスピア (2012-08-29 01:26)