6 ルシル [DQ2上]
6 ルシル
遥か遠くに見える連峰は、時間ごとに白さを増していた。10時間前には、山頂付近にしかなかった雪が、いつの間にか中腹まで白く埋めている。
この連峰を左手に見ながら、勇者の子孫たちは、並木が続く草原を旅していた。
この草原の向こうに、港町がある。
「大丈夫?」
最後尾を歩いていたナナが額の汗を拭きながら、前を歩くアルスとカインに声をかけた。
朝晩の冷え込みは厳しいが、昼にこうして歩いていると、汗でびっしょりになる。
アルスは黙ってうなずいたが、カインは顔も上げようとしなかった。
だが、2人ともしっかりした足取りで、歩いていた。
ドラゴンの角の北の塔側を出発した後、予定を臨機応変に変えながら、無理しないように旅をしてきた。
だが、それでも途中で4時間も休まなければならなかった。
そして、今になって勇者の子孫たちは、旅の1日のペースをやっとつかんだのだった。
今は、ムーンブルク壊滅から、すでに、24日が、過ぎている。
「あっ」
思わずカインが声を上げて、緑のグローブの指で空を指した。
上空を3羽のカモメがゆっくりと舞っていた。
海が近いことの証明だ。港町はもうすぐだ。
勇者の子孫たちの足は、自然と速まった。
やがて、勇者の子孫たちは、『やったあっ!』思わず声をハモらせて歓びの声を上げた。
遥か前方に小さく、教会の尖塔と城壁が見えたのだ。ルプガナの街だ。
勇者の子孫たちは、途中で一休みしてから、かれこれずっと歩き続けていたが、その疲れも忘れて、さらに足を速めた。
城門や教会の形がはっきり見えるところまで来ると、左手に樹齢何10年も数える、樹の並木があった。
教会や宿屋があるこの並木の奥に、船着場に繋がる広場があり、さらにそこを左に曲がると武具屋や道具屋があった。
北西には、太陽の光を浴びてルプガナ北の祠の白い円の塔がそびえているのが見えた。
「そういえばナナ」
アルスが言った。
「前から気になってたんだけど、お前は敵が出たときナイフで攻撃しかできないのか?」
「そんなことないわよ。よーし今度私の呪文に驚かないでよ」
などとやりとりしつつ、勇者の子孫たちが、ちょうど武具屋と道具屋のある通りに差し掛かったときだった。
「助けてっ!魔物たちが私をっ!」
突然、街の北西の奥の広場から、少女の悲鳴が上がった。
勇者の子孫たちが慌てて駆けつけると、奥の沼と茂みの中で、少女が1人魔物たちに追い詰められていた。
魔物たちは、紫の顔にまがまがしい目、青い角と小さなこうもりの羽根を持っている・・・・・・以前ドラゴンの角に向かうアルスたちを監視していたグレムリンたちのうちの2匹だった。
どうやらこの街でこの少女を使い、勇者の子孫を迎え撃つつもりだったようだ。
「ナナ、その人を頼む!」
アルスがいい、アルスはカインと共にグレムリンたちと向かい合った。ナナはすぐに少女の前に移動した。
「ケケケ!その女を渡しなっ!」
グレムリンの1匹がそういった。勇者の子孫たちが移動しないのを見ると、もう1匹のグレムリンが言った。
「ケケケ、馬鹿な奴・・・・・・。お前たちもここで食ってやろう」
カインは、ゴーグルを下ろして鉄のやりで攻撃した。
だが、グレムリンたちは身軽で敏速だった。カインが放った鉄の槍の攻撃をかわしながら宙に飛び、2匹は不気味な奇声を発しながらアルスに襲い掛かった。
ゴーグルをおろしたアルスは慌てて身を伏せると、小さな鋭い爪がうなりをあげて鋼鉄の鎧の首もとをかすめた。と同時に、かすめた鋭い爪で鋼鉄の鎧のガードの1部が破壊された!
アルスの後方に回ったグレムリンは、素早く宙を飛ぶと、今度は少女と彼女を守りながら呪文を唱えようとしていたナナに狙いを定めた。
ナナは呪文を唱えるのに集中していて、少女を連れて逃げられない!
「危ない!」
カインは、慌てて女たちを助けるべく、グレムリンとの間に割って入った。そのとき、「いたっ!」カインが思わず倒れこんで、右腕を押さえた。
「カイン!」
思わずアルスが叫ぶ!
グレムリンの鋭い爪が、カインの右腕の鎖帷子をずたずたに引きちぎっていた。
それを見たグレムリンは、奇声を上げながら、宙を飛んでカインの背後から襲撃しようとした。
このとき、ようやくナナの呪文が完成する!
「危ないっ!マヌーサ!」
ナナは、頭上にかざしていた両手を渾身の力で振り下ろした。とたんに発生したナナによる魔力の霧に、「何だこの霧は!」戸惑うグレムリンたちの声が、茂みに響き渡った。
マヌーサは術者を中心に、霧を発生させて幻に包む呪文だ。この霧は敵味方共々視界をある程度遮る効果もあるため、主に逃走のとき、煙幕代わりとして使われることもある。
マヌーサの霧が、グレムリンたちの動きを止めた。さらにナナが聖なるナイフで攻撃すると相手の体の強度に聖なるナイフが折れ、しかも攻撃を受けた1匹のグレムリンは爪で近寄ったナナの服の裾をかすめて引きちぎった。
「やあっ!」
そこをカインが、渾身の力を籠めて、鉄のやりで突いた。
カインが今まで放った鉄のやりの攻撃の中で、1番強烈な1撃だった。
すばやい鉄のやりの1撃をくらって、グレムリンの小さな体が突き刺さった鉄のやりごと後ろに吹っ飛んだ。そして2度と動かなくなり、もう使い物にならなくなってしまった鉄のやりを残して青白い光に包まれて消えた。
残った1匹は、さっそくアルスが斬りかかった。鋼鉄の剣がグレムリンを斬りつけた。
残ったグレムリンは、必死にもがきながら、アルスの首に鋭い爪を突きたてようとした。
だが、そこまでだった。グレムリンは、突然眼を見開くと、そのまま崩れ落ちた。1瞬早く、アルスの鋼鉄の剣がその体を一突きにしていた。そして、青白い光に包まれて消えた。さすが半魔族だけあって、そう簡単には倒せない、手ごわい相手だった。
「危ないところを、どうもありがとうございました。あの、あなたたちは誰?」
戦いが終わったのを見計らって、少女が尋ねた。
アルスたちと同じぐらいの年齢で、小麦色の肌の、涼しげな瞳をした、自然な少女だった。四角い顔には、品のよさすらある。よく見れば身にまとっているものは最上級の絹のようだった。どうやら裕福な家庭の少女のようだ。
しまった・・・・・・!とアルスは思った。いくら相手が人間とはいえ、正体がばれたら敵に自分たちの居場所がわかってしまうかもしれない。これからの旅に支障がでるかもしれない。
「ボクたちは・・・・・・」
ところが、「ハーゴンを倒すために旅をしてるんだ」何とカインが何のためらいもなく答えてしまった。そして、さらに自分たちの名まで明かしてしまった。
カイン!?アルスは驚きながらカインを見ていた。
「大丈夫ですか?怪我しなかったですか?」
カインの話や彼らの様子に少女は驚いて、勇者の子孫たちの顔を見ていた。
そして、「あなたの方が怪我・・・・・・してますよ」と答えた。
「えっ、・・・・・・あっ、ほんとだ」
改めてカインが自分の怪我を見ると、かなり痛々しい怪我で、忘れかけてた痛みがだんだん蘇ってきた。
「何のこれしき・・・・・・!」
カインは、必死に否定したが、「うっ!」大きく顔を歪めて、再び右腕を押さえて倒れこんだ。
「私についてきて、どうか私どものところへおいでください。すぐ神父様に診ていただかなければ・・・・・・」
「平気ですよ・・・・・・。呪文もありますし。ほっとけばすぐ治りますよ・・・・・・」
「いけません」
少女は強い口調で言うと、「それでは私の気がすみません。それにおじい様にも叱られます。うちのおじい様にも会ってくださいな」とじっと哀願するようにカインを見つめた。
どうしてもあきらめそうになかったので、勇者の子孫たちは少女の言葉に従うことにした。
「さあ、こちらへ」
少女の案内で勇者の子孫たちは、並木から街道に出ると、来た道を戻ることになった。
「ホイミ!」
カインが自分に呪文を唱えると、傷が少しは回復したが、少女のいう通り1度ちゃんと診てもらったほうがいいかもしれない。
「ありがとう、あの・・・・・・」
カインは少女に言った。
「よかったら教えてください・・・・・・名前・・・・・・」
少女は最初戸惑っていたが、やがて「ルシルと申します」と答えた。ルシルは、祖父の使いで祠に行った帰りだったのだといった。
ナナが、何の祠なのか尋ねると、ルシルは1瞬キョトンとした。ルプガナの人間なら、誰でも知っている祠だからだ。
ルシルは、祠には海の神である海底王が祀られていて、航海の安全を願う船乗りたちが出航前に必ず詣でるところだと説明して、「ルプガナは初めてなんですか?」と、逆に尋ねてきた。
目の前に、荘重な門が迫ってきた。
門に、三又の槍を中心に2匹の竜が互いに背を向けている水の精霊を表したルプガナのレリーフが彫られていて、その下に見慣れない古代文字の短い言葉が刻まれていた。
アルスは、ルシルに意味を尋ねると、「『すべての者に自由の翼を・・・・・・』。この街を以前盗賊団から守った人の言葉ですわ」と、ルシルは、誇らしげに微笑んだ。
あとがき
ルプガナです。
もう少し続けてもいいんですが、次回との話の区別が難しいのですが今回はここまで。
ルプガナでの出来事はもう少し続きます。
次回は船入手です。
やっと船登場です。
※次回は10月1日更新予定です。
DQ1小説は9月3日更新。
ブログめぐり、ひょっとしたら全部出来てなかったかもしれません。
失敗してたらごめんなさい。
カインの口がすべるところは、カインらしいですね。
そんなイメージがありますよね。思わず微笑んでしまいました(^^)
あれ?ここではどうやって船を手に入れましたっけ?
度忘れしてしまっていますので、船入手の様子が
楽しみになってきました。
by ともちん (2012-09-05 00:41)
ともちんさん
カインのこの行動は、次回明らかになる・・・かもしれません(まだ書いてないのでなんともいえませんが)。
船の入手の方法は、たいしたことないですよ。
by あばれスピア (2012-09-05 23:24)