4歳の出来事 [DQ1]

4歳の出来事



 城での生活は、平和で豊かな暮らしだった。だがそれは同時に、退屈でさびしい1日でもあった。
 父ラルス16世も母王妃も、それぞれ大事なアレフガルドの仕事のことばかりで構ってくれない。このまま一生ひとりで過ごしていくのでは?4歳になるローラは、いつも一人ぼっちの毎日を送っていた。
 ある日、そんな彼女に友達が出来た。同い年の、城のメイドの子の少女、ラルチラ。彼女もまた、城に仕える両親の仕事の忙しさで、なかなか遊び相手がいなかったのだ。2人はすぐに仲良くなり、いつも一緒にすごしたりするようになった。城の外で走ったり、木の陰に隠れてみたり、たくさん遊んだ。ただ2人で話をするだけでも楽しかった。それによって、2人とも以前に比べて明るくなった。ずっと一人ぼっちだった2人は、もう一人ではなくなっていた。
 だが、2人が一緒の時は長くは続かなかった。ラルチラの両親の都合で、ラルチラの家族は、アレフガルドから離れた新世界のどこかの街に引っ越すことになった。突然決まったことで、子供たちは驚きを隠せなかった。ローラがその話をラルチラから聞いた翌日の夕方、彼女は家族と旅立つという。
 後1時間で、ラルチラの出発の時間だ。まだ太陽は少し高い位置にあるが、空の色はだんだん赤く染まってきている。
 城の外で、ローラは1人、泣いていた。また1人になってしまうということではなく、仲良しの相手に何もしてあげられない自分がいやだった。
 そのとき、何かがローラの左手に触れた。そして、誰かがローラの左腕に頭を寄せた。
 ローラが見ると、いつの間にか見知らぬ少年が1人、ローラを慰めるような形で、何も言わずに寄り添っていた。同い年のようだが、このあたりでは見かけない少年だ。着ているものはぼろぼろの貧しそうな服装で、少し大きめの持ち物の袋の中には旅に必要なさまざまな道具が入っているのが見えた。どうも誰か、おそらく親と一緒に世界中を旅しているようだ。
「・・・・・・誰?」
「泣いちゃダメだよ」
「もうすぐ、仲良くしていた友達が、いなくなっちゃうの。でも、何もしてあげられない・・・・・・」
 つらい感情を抑えられずに、ローラは涙ながらに見知らぬ少年に言った。
「えーっとね・・・・・・」
 少年は自分の右手を見た。そこにはたくさんのいろんな種類の花が束になって握られていた。
「今日はボク、お祝いするんだ。お父さんが誕生日なんだ。だからこれ、お祝いにそこのたくさん咲いてるところでつんできたんだ。でもいっぱい取りすぎちゃったから1本あげる」
 ローラの話をわかっているのかいないのか、少年は花束の中から1本、綺麗に咲いたピンクの花を差し出した。
「はい、どうぞ」
 この行動にイミがあるのかはわからない。だが、それでもローラは嬉しかった。
「ありがとう」
 ローラは涙ぐみながら、少年からピンクの花を受け取った。
「そろそろ行くぞ!」
「はーい!」
 どうも保護者だと思われる父親らしい声に呼ばれて、少年はそのまま元気に立ち去った。
 やがて、ローラとラルチラの別れのときがきた。
「ラルチラ、これ・・・・・・」
 まだ目に涙を溜めながら、ローラは少年に貰ったピンクの花をラルチラに渡した。
「ありがとう・・・・・・」
 全く予想していなかったので、ラルチラは驚きながら、だが嬉しそうに受け取った。そして、まだローラが泣いているのに気がついた。
「そんなに泣かないで。ラダトームですごしたこと、一生忘れないからね」
 目を潤ませながら、ラルチラは言った。
 こうしてラルチラは、家族と一緒にアレフガルドを旅立った。それから何度かはお互いに手紙でやり取りしていたが、しばらくして、それもなくなった。そしてピンクの花をくれた少年のことも、時が経つに連れて忘れてしまった。
 ・・・・・・ラダトームの姫ローラ、4歳の出来事である。

あとがき
特別編です。
DQ1のストーリーが始まる前の話です。
タイトルの通り、ローラの幼少期の話です。
初めての試みなのですが、よろしければ読んでやってください。
このストーリーに出てきた少年ですが・・・それはまあ、ご想像にお任せします(笑)。
たぶんばればれだと思いますが。
それによってこの私が書いてきた1のストーリーのとある1部分の理解が深まれば幸いです。
つまりこの特別編のストーリーは、ある意味薄めのカップリング話でもあるわけですな。
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コメント 2

ともちん

もしかして・・・と思いながら読みましたが
やはりこの少年は・・・(^^)
また最初の方から読み返したくなりました。
こういったお話も、また楽しいものですね。
by ともちん (2012-10-11 01:30) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
感想ありがとうございます。
いつもと比べてこちらで創った内容満載ですが、楽しんでいただけたようでよかったです。
これでDQ1は本当におしまいですが、気が向いたらまた是非呼んでいただけたらと思います。
by あばれスピア (2012-10-11 22:15) 

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