7 ルプガナ(2) [DQ2上]

7 ルプガナ(2)
 すぐに、ルシルの祖父の老人の指揮で、船大工たちが海竜丸の修復工事を始めた。
 この時間は、冷たい北風が、吹いていた。
 空はどんよりと曇り、風は身を切るように痛かった。
「そういえば、アルスって泳げるの?」
 港の波止場で、カインと一緒に船の修復工事を眺めながら、ナナが尋ねた。
「まあ、もぐったりとかそれなりに。さすがにこんな冷たい海で泳いだことはないけどな」
 アルスは、毎年夏には海の近くにある別荘に行っていた。
 バウド王はローレシア南の祠の近くに、大きな別荘を持っていたから、アルスは何とか泳ぐことは出来た。
 今日は風も強く、特に波が荒いようだ。
 すると、勇者の子孫たちの話を聞いていた通りすがりの船乗りは言った。
「しかし板1枚下は恐ろしい海なんですよ。怪我人だろうが女だろうが関係ねえ」
 船乗りは海の恐ろしさを勇者の子孫たちに教え、「みんな同じさだめを背負ってるんです。それが海ってモンでしてね・・・・・・」船乗りはそういいながら、肩を丸めながらドックの中に消えた。
 この日の夕食のテーブルでは、鮭のホイル焼き、鶏肉と野菜の葛煮、野菜のコンソメスープ、白身魚のムニエルと粉吹き芋添え、チキンカツ、りんごのデザートなどの豪華な料理が並んだ。もともとが立派な館での食事ということもあるが、客人の相手が王族ということもあり、こういった場ではいくら旅の途中とはいえ、いつも豪華な食事になることが多い。
 食事をしながら、波止場でのことを老人に話すと、「それはよい話を聞いたのう」と、笑うだけだった。
「笑い事じゃねえよ。むしろ海に出るのが怖くなってきたよ」
 アルスは、むっとした。
「いや失礼した。それが昔からこの街に伝わる船乗りたちのやり方なんじゃ。船乗りになると決まると、必ず最初の日に、先輩たちが海の厳しさを叩き込むことになっているんじゃ」
「それにしたって・・・・・・」
 まだアルスはむっとしていた。
 勇者の子孫たちは今どんなに些細なことでもいいから情報が欲しかった。藁をもつかむ心境だ。
 また、実は今まで2時間ルプガナにいるだけで、ナナは少し苛立っていた。
 1歩でも前へ進んでいなければ気がすまない。不安になる。焦ってくる。
 ルプガナでの生活が平和でのどかすぎるだけに、よけいそう思う。
 1瞬、会話が途切れた。すると、ルシルが、「もう少しだけ出発を延ばすことは出来ないんですか?」と真向かいに座っているカインに尋ねた。
「ダメですよ。一刻でも早くアレフガルドに行って、ハーゴンのことを調べなきゃならないんですから」
 カインが、ナイフで切ったチキンカツをフォークで口に運びながら答えた。のんびりやのカインも、ハーゴンのことについて早く調べたいのはアルスやナナと同じだった。すると、「そうですよね・・・・・・」ルシルは、寂しそうに笑った。
「実はみんなでこうやって楽しく食事するの、生まれて初めてですの」
 みんなで。楽しく食事。その言葉にナナは突然はっとなった。そして、視線を下に落とした。
「だって、いつもおじい様と2人っきりの食事でしょ・・・・・・?」
「おいおい、そんなにこのじいと食事するのがつまらんのか」
 ルシルの言葉に老人は、苦笑した。
「そうじゃなくて。3人がずっとこのままいて下さったらいいのにって、ふと思ったの・・・・・・」
 実際、勇者の子孫たちとルシルは、すぐに仲良くなった。
 普段は控えめでおとなしかったルシルが、勇者の子孫たちと一緒にいると、生き生きとしていた。よくお喋りをするし、楽しそうに笑った。
 老人は、こんな明るいルシルを見るのは初めてだった。
 また、老人自身も、ルシルと勇者の子孫たちのやり取りを見ていると、なんとなく心が和んだ。こんな気持ちになるのは、しばらくなかったことだ。少なくとも、ルシルの父親が死んでからは。
 老人は、勇者の子孫たちが自分たちの館に滞在してくれていることに、心から感謝していた。
 やがてアルスが、真っ先に自分の料理を食べ終えると、「ああ。おいしかった・・・・・・!ごちそうさま!」満足そうに腹をさすってみんなを見た。
 そして、ルシルの話し以降殆ど料理に手をつけていない、隣の席のナナに気がついた。ナナは、ナイフとフォークを握ったまま視線を落として、じっと思いつめたように1点を見つめていた。その瞳が潤んでいた。
「どうしたんだナナ?」
 アルスは、思わず尋ねた。
 ナナは、小さな肩を震わせて、泣き出した。
『ナナ・・・・・・?』
 アルスとカインは声をハモらせ、驚いて顔を見合わせた。
 すると、ナナはナイフとフォークを思いっきり置いて、いきなり立ち上がった。
 そして、泣きながら、部屋から飛び出していった。
『ナナ!』
 アルスとカインがまたも声をハモらせ同時に立ち上がった。
 カインは、さっそく追っていった。
 アルスも追おうとしたが、カインの方が部屋の出入り口に近い。
「もしかして私、何か悪いこと言ってたのかしら・・・・・?」
 ルシルは不安そうにアルスを見た。
「ひょっとしたら、ムーンブルクのことを思い出したのかもしれない。フォルグ王のことを・・・・・・」
「そう・・・・・・」
 ルシルは、心配そうに老人と顔を見合わせた。
「アルス大変だ!」
 しばらくして、カインが血相を変えて戻ってきた。
「ナナが部屋にもどこにもいないよ!」
「えっ?」
「たぶん館の外に飛び出しちゃったんだ!まだ街にいると思うけど」
「外に?ちょっと捜してくる!」
 アルスは急いで飛び出していった。
 カインも慌ててアルスを追った。そして、謝るべく、ルシルも・・・・・・。
 アルスは、中庭に飛び出したが、ナナはどこにもいなかった。
 夜になって風はやんでいたが、そのかわり寒さが厳しさを増している。
 アルスは、館の門を出て、通りに飛び出した。
 通りには、人影もなく、ひっそりと静まり返っていた。
 途中でアルスは、同じくナナを捜していたカインと合流、道具屋や武具屋のある方にはいないという。
 アルスとカインは、お互いまだ捜していない港の方へ足を向けた。
 波止場に停泊している外国船の船室から、明かりが漏れていた。そして、船体にぶつかる波の音に混じって、時々船室から船乗りたちの話や笑い声が聞こえてきた。
 この船が繋がれている桟橋の先端で、ナナがうつむいたままたたずんでいた。
 アルスとカインは、そっとナナの背後に近づいて、アルスが声をかけた。
「大丈夫か・・・・・・?」
 おもむろに、ナナが振り向いた。大粒の涙が頬を流れている。
 ナナは、じっとアルスとカインを見つめると、いきなりアルスとカインの腕をつかみ、声を上げて泣いた。
 アルスは、慰める言葉もなかった。ただ、気が済むまで泣かせてやるしかなかった。
 やがて、ナナが泣き止むと、「ごめんなさい・・・・・・。みんなにも悪いことしたわ・・・・・・」やっと聞き取れるような小さい声で言った。
「フォルグ王のことを思い出したのか・・・・・・?」
 アルスは、尋ねた。
 ナナは持ってたハンカチで涙を拭きながら、小さくうなずいた。
 ムーンペタでアルスとカインによって元の姿に戻ってからすでに5日、ずっと緊張の連続だった。
 いつも思いつめたような哀しい顔をしていたが、一緒に旅に出ると決めてからは、1度として涙を見せたことがなかった。だが、安全なルプガナに来て、ルシルや老人と打ち解けると、やっと緊張感から解放された。
 そして、ルシルのセリフで今夜の和やかな食事の雰囲気に、ふとある日のムーンブルク城での楽しい食事の光景が蘇って、フォルグ王の優しい顔を思い出したとたんに、ついに涙をこらえきれなくなった。今まで耐えてきた悲しみがどっと襲ってきた。
 そのとき、ふわっと白いものがナナの頬に落ちて、すっと消えた。
「あっ・・・・・・」
 ナナは、思わず空を見上げた。
 真っ黒な空から、白いものがふわりふわりと舞い落ちてくる。
「ずっと、あなたたちのことを待っていたわ・・・・・・」
 雪を見つめながら、ナナはつぶやくように言うのだった。
「きっと勇者の血を引く者たちが助けに来るだろうって、ずっと・・・・・・。犬に姿を変えても・・・・・・。嬉しかった・・・・・・」
 そういって、ナナは初めて本音がでた。
「まさか・・・・・・本当に来てくれるとは思わなかったから・・・・・・」
「くるに決まってるじゃないか、ナナ・・・・・・」
 アルスは、言った。
「ホント・・・・・・?」
「そうだよ、大事な勇者の子孫だし・・・・・・」
 カインの言葉に勇者の子孫たちは、熱いまなざしで見つめあった。
「ホントは・・・・・・すぐにでも泣きたかった・・・・・・。何度そう思ったことか・・・・・・。でも・・・・・・いつ敵が襲ってくるかわからないし・・・・・・」
 ナナは、再びアルスとカインの腕を抱きしめ顔を埋めた。
 そのとき、アルスやカインを追ってルシルがやってきて、桟橋の先端の勇者の子孫たちの姿に気づいて、「あっ、ここにいたんですね・・・・・・」と声をかけた。
 ルシルはそこで、ナナにさっきの会話のことを謝り、「いいのよ、気にしないで」ナナは微笑んでルシルに言った。もう涙はなかった。
 コレを機会に、ナナが少し変わった。無理することをやめたらしく、今までの暗い顔より明るく振舞うことが多くなっていった。時々ではあるが笑顔を見せるようになったのは、ナナが本当の自分になった瞬間だった。

あとがき
ルプガナの出来事、主に船を手に入れるところあたりの話です。
この船に関する話が、今回この小説を書くにあたって、なぜか最初に、どうしようかと考えたところです。
船の名前はかなり悩みました。
船の名前の話は、もしどこかで書けたら書きたいです。
後ナナは、ここまではごく普通に王女してました。
でもこれから明るくなった分だんだん普通じゃなくなる・・・かもしれないです(笑)。
元祖呪われし姫君、のムーン王女がこれからどうなっていくのか。
さて、次回はちょっと趣向を変えてみます。
私も始めての試み、敵側の動きみたいなことをやってみようと思います。
なんせ初めてのことなので、いつもよりちょっと短めかもしれませんが。

※次回は11月1日更新予定です。
DQ1小説特別編は5日更新です。
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ともちん

ナナが吹っ切れて、今までとは違う面が見られそうですね。
船を手に入れるところは重要な場面ですので
丁寧に書かれていたので、じっくり読ませて頂きました。
また新たな試みで書くシーンもあるんですね。楽しみにしています。
by ともちん (2012-10-09 02:34) 

あばれスピア

ともちんさん
ナナのことは、まだ考え中の段階なんですが、もしできたらちょっと違う面も出していけたらいいなと考えています。
新しいことはどうなることかわかりませんが、やってみようと思います。
by あばれスピア (2012-10-09 22:59) 

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