7 ルプガナ(1) [DQ2上]

7 ルプガナ(1)
 案内された街の南西の館の部屋の窓から、ルプガナの美しい街並みとたくさんの大型帆船が停泊している港、さらには岬とルプガナの海までが、一望に見渡せた。
 また、部屋は簡単な聖堂のように作られていて、壁には美しい帆船の絵画が、棚には珍しい帆船の模型に、異国情緒たっぷりな壺、遺跡から発掘されたと思われる古い石像や古代文字の刻まれた青銅の鏡が飾ってある。
 アルスとナナが、この部屋で待っていると、やがて右腕に包帯を巻いたカインが、ルシルと今は街で館の警護のため雇われたという1人の兵士、そして60過ぎの白髪痩身の老人に付き添われてやってきた。
 館に到着すると、すぐ当家の神父が呼ばれ、別室で治療を受けていた。
 老人は、神父ではなく、当家の主だった。
「ようこそ、おいでくださった・・・・・・」
 老人は、ルシルとそっくりな涼しげな目で微笑むと、「ルシルの祖父で、貿易商人をしておる者じゃ・・・・・・」と、丁重に挨拶をした。
 あまりにも物腰の柔らかい、気品にあふれた仕草に、アルスとナナは思わず見惚れた。
「カイン殿下のホイミが早かったこともあり殿下の腕はすぐに、もとどおりに使えるようになるそうじゃ」
 老人はそういって、アルスとナナに椅子を勧めた。
 ルシルは、カインのケガをしていない左手を取って椅子に座らせた。
「まあ、それまでご遠慮なく、ごゆっくりと、この館でお過ごしくだされ・・・・・・」
「是非そうしてください」
 ルシルも微笑んだ。
「でも、これ以上迷惑をかけるわけには・・・・・・」
 戸惑いながらナナが言うと、「いいえ。迷惑だなんて、おそれ多い・・・・・・。かわいい孫娘を魔物から助けてくださったそうで何とお礼を言ってよいやら」と老人が言った。
「それに、バウド国王陛下、ディーン国王陛下にも・・・・・・」
「えっ、父上たちを知ってるのか?」
 アルスが老人の言葉を遮って尋ねた。
「そうじゃ。それに、フォルグ国王陛下も・・・・・・」
 老人は、悲しそうにナナを見た。
「3人の国王陛下には今までに何度かお会いしていて、仕事のことでいろいろとこちらの利益になる都合のよいことや便利なこと、特別な計らいなどを行っていただいたんじゃ・・・・・・。だから、どうしても・・・・・・」
 勇者の子孫たちは、互いに顔を見合わせた。そして、言葉に甘えることにした。
「よかった」
 ルシルは、嬉しそうに老人を見て微笑んだ。
「ナナ殿下・・・・・・」
 老人は、小さくため息をつくと、顔を曇らせていった。
「もしよろしければ、ムーンブルクでの出来事をお聞かせ願えんか・・・・・・?」
「はい・・・・・・」
 ナナは、テーブルに視線を落として、おもむろに話し始めた。カインもナナの話の説明を手伝った。
 ナナやカインの話が終わると、「そうじゃったか・・・・・・。お可哀想に・・・・・・」老人は、そっとハンカチで涙を拭った。
「さぞ、陛下も無念だったことじゃろう・・・・・・。このじいも出来るだけのことはいたす。何なりとお申し付けくだされ・・・・・・で、これからどうなさるおつもりか?」
「アレフガルドに渡るつもりです」
 ナナが言った。
「アレフガルドへ?」
「船があるかどうか知りませんか?ラダトームへ行ければアレフガルドのどこの港でもいいんですけど」
 ナナは老人に尋ねた。
「ほほう。船に乗りたいと申されるか?それなら、ついさっき定期船が出航したばかりじゃよ。次の便は来週にならなければ・・・・・・。夏場なら、週に3便あるんだが、冬場は海が荒れるからの・・・・・・そうでなくても、最近は海がずいぶん荒れてきておる」
「そうですか・・・・・・」
 ナナがいい、勇者の子孫たちは顔を見合わせてため息をついた。
 その様子に、警護の兵士が口を開いた。
「実は私は東の国アレフガルドからやってきたんだ。あの国も今ではすっかり変わってしまって・・・・・・。そういえば、風の噂ではラダトームの国王陛下までが、最近つまりムーンブルクが壊滅した直後から行方知れずになってしまったそうだとか・・・・・・」
『えっ?』
 勇者の子孫たちは、声をハモらせ驚いて兵士を見た。
「代わって、遠縁にあたる神父の方が国を治めているという噂を聞いたが・・・・・・」
「どういうことなの?」
 ナナは、以前であったことのある恰幅のいい温厚なラダトームの国王の顔を思い浮かべた。
 100年前・・・・・・当時のアレフガルドの国王ラルス16世は、姫ローラと結婚した勇者に王位を継承してほしいと思っていたが、勇者が大陸にローレシアを建国してしまったために、仕方なく王妃方の血縁の貴族に王位を譲って、ラダトーム王家を継がせることにした。
 その結果、ラルス王を最後に、ラダトームでの正式な王家の血が絶えてしまった。
「だらしねえなあ。何考えてんだあ?」
 アルスは舌打ちをした。もう怒りを通り越して呆れてしまった。そして、「それにしても、あと1週間かあ・・・・・・」肩で大きくため息をついた。
「船、ちょっとどうにかならないの、おじい様・・・・・・?」
 ルシルが気の毒になって尋ねた。愛する孫娘の言葉に、老人は、「しかし、よそ者には船を貸さぬのがこの街のならわし。それにそう簡単に船といってものぅ。船を動かすには1度に5,60人の船乗りが・・・・・・」と、言ってぱっと顔を輝かせると、「おおそうじゃ!いい船がある。かなり小さいが非常に性能がいいよく出来た船で、あれなら3人でも動かすことが出来る。操作も簡単だし、よろしければ、あなた方にその船をお貸しようぞ。孫娘を助けて下さったお礼にこのじいにできるのはそれくらいじゃ。どうか自由に乗ってくだされ。ただ、しばらく放ってあるので、かなり手を入れなければならないだろうが。さっそく行って見ましょうぞ」と、立ち上がった。
「そうだ、カイン」
 館の外へ向かう途中、アルスはカインに言った。周囲にいた勇者の子孫たちにしか聞こえない程度の声だ。
「もうよほどのことがない限り、自分から正体明かしたらダメだぞ。あんな風にさ。敵はどんな形で進入してるかわかんないんだから」
「ごめん。でもなんか・・・・・・あの子と友達になれそうな気がして・・・・・・」
 さすがに反省しながら、カインは言った。
「ルシルって自然でのびのびとした感じの子だよね。素朴な子だよね。ああいうのを和やかな感じっていうんだろうな」
「和やか?」
 ナナが尋ねる。
「品のいいところとかさ」
 カインの言うとおり、確かにルシルには小粋なところがある、とアルスも思った。
「船の名は海竜丸というんじゃ」
 館の外に出ると、老人が言った。
「海竜・・・・・・?」
 思わずナナが聞くと、「そうじゃ。昔、このルプガナの遥か南にある街に、船を造らせたら右に出るものはいないといわれた船造りの名人がおったそうじゃ・・・・・・」と、老人が言って話し始めた。
 およそ3年ほど前のことだ・・・・・・。
 老人の友人のルプガナの貿易商人が、もうすぐ90に手が届こうとしていたこの船造りの名人に、素晴らしい船を造って欲しいと依頼した。それまでに、名人は何隻も貿易商売用の船を造っていたからだ。
 だが、としなのでもう船は造りたくない、とそっけなく名人に断られてしまった。
 あきらめきれない貿易商人は、何度も足を運ぶと、とうとう名人は、好きなように造らせてくれるなら、と答えた。貿易商人は、喜んで承知した。
 貿易商人は、当然のように、素晴らしい大型船が完成すると頭に描いていた。
 ところが、貿易商人の意に反して、名人は小さな船を造っていた。
 驚いた貿易商人は、こんなに小さくては商売の荷物や財宝が積めないではないか、大型船を造りなおせ、と命令した。
 だが、名人は、がんとして受け入れなかった。何度説得しても、首を縦に振ろうとしなかった。
 貿易商人は、しぶしぶ帰るしかなかった。
 こうして、5ヶ月の歳月をかけてやっと船は完成した。
 船首には力強い海竜の像が飾られていた。
 完成してすぐのこと。若い弟子の1人が、完成したばかりの船の甲板に横たわっている名人を発見して悲鳴を上げた。名人はすでに息を引き取っていた。
 その顔は穏やかで、微笑んでいるように見えたという・・・・・・。
「それで、その船は海竜丸と呼ばれるようになったんだそうじゃ。ところが・・・・・・」
 老人は、一息入れて、さらに言葉を続けた。
「それから半年後。嵐の夜。財宝を積んだ友人の船が航海中に沈んで、大損害をこうむったんじゃ。友人はたまたま近くを通った船に助けられたが、財宝は海の中に・・・・・・。金に困った友人は、このじいにあの船を買ってくれないかと持ちかけてきたんじゃ。そこでこのじいが特別に高い金で買い取って、持ってきたんじゃ。しかし、やはりあの船は小さすぎて商売には使えんので、そのままドックに入れておいたんじゃ・・・・・・」
 老人の話が終わると、ちょうど一行は港に出た。
 港には大型帆船が幾隻も波止場に停泊していた。
「すごいっ!」
 ナナは、その壮観さに、目を見張った。
 アルスとカインも、ただ驚いて目を丸くしていた。
 甲板やマストに登って作業していた船乗りたちが一行に気づくと、慌てて老人に会釈を送った。この港に停泊している船の半分は老人のものだとルシルが言った。
 その中で、1番大きな帆船があった。
「これもおじい様の船ですわ。すごく立派ですの。ほら、あの船首飾りを見て。素敵でしょ?」
 ルシルが、船首の剣を構えた女の戦士像を指した。
「大昔、盗賊団からこの街を守るために、先頭に立って戦った勇敢な女の像ですわ」
「春になると、毎年船の一団を率いて海に出るんじゃ。孫娘のルシルも一緒に」
 そういって、老人は笑った。
 ルシルは、2歳のときに船の遭難で父を、4歳のときに母を病気で失った。
 それ以来、ずっと老人が育ててきたのだという。
 また、老人の扱う物資は多岐に渡っていた。小麦などの穀物、食用油、お茶、香辛料、衣料、燃料などの生活物資から、金銀の貴金属類、美術品や骨董品、必要とあれば旅に役立つ道具までも扱う。それらの物資を売買しながら航海を続け、秋に帰るのだという。
 やがて一行は、巨大なドックの前へやってきた。
 ドックの中では、たくさんの船大工たちが2隻の大型帆船を修理していた。
 その奥に、埃をかぶった金色の海竜丸がつながれていた。
 だが、その姿の力強さは、埃をかぶっていても変わらなかった。
「かぁっくいい!」
 思わずアルスが叫んだ。
 見事な船首飾りの海竜の像。海竜の体を想像させる美しい優雅な船体。
 2本マストで、長さは30メートルほど、最大幅も7,8メートルの小さな船だが、横から見るとまるで海を泳いでいる海竜の姿そのものだ。
 今にも海に入って泳いでいきそうだ。
 老人は、一通り船体に目を通すと、「思っていたより遥かにしっかりしている。これなら、殿下の腕が治るだろう明日には何とか格好がつくじゃろう」といった。
「だけど・・・・・・」
 アルスが急に不安な顔をして、ナナに言った。
「俺たちだけでどうやって動かすんだ?3人じゃ、ここから出すことだってできないぜ」
「心配要らん。操作は簡単じゃ」
 老人が答えた。
「ここですごすうちに、その方法を船乗りたちから教えましょうぞ」
(続く)

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ともちん

船や街のエピソードが丁寧に書かれていますね。
ようやく船が手に入って、続きがさらに楽しみになります♪
by ともちん (2012-10-09 02:28) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
いつもありがとうございます。
船の話が考えるの1番大変でしたね(苦笑)。
by あばれスピア (2012-10-09 22:57) 

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