9 竜王の島(1) [DQ2上]

9 竜王の島(1)


 修復工事が始まって6時間後に海竜丸は桟橋に繋がれ、始まって9時間後に内装工事が終わり水や食料が詰まれた。その間に勇者の子孫たちは船の操縦の基本知識を船員たちから教わり、翌朝の出航の日、カインの腕は完全に回復していた。この日は良く晴れた絶好の出航日和だった。5時間前には航海の安全の祈願に北西にあるルプガナ北の祠にも行き、すべての準備が完了していた。勇者の子孫たちは老人とルシルに別れを告げ2匹の竜が三又の槍をはさんで向かい合っている旗がなびいている海竜丸に乗り込んだ。この海底王への信仰を意味する旗があれば、どこの港でも自由に出入りできる。アルスが錨をあげると、海流丸が老人とルシルが見送る桟橋をはなれ、船乗りたちが航海の安全を祈って大型船の銅鑼を鳴らしてくれた。
 昨日のグレムリンたちとの戦いで装備品がいくつかダメになってしまったので、出航の前に新しく装備を整えていた。
「ここでは何が売ってるか楽しみだワン!」
『・・・・・・ワン?』
 アルスとカインが声をハモらせ怪訝そうに見ると、「・・・・・・ハッ、犬のときの癖が出ちゃったわ」ナナは慌てて恥らった。
 勇者の子孫たちは新しく身かわしの服を買い、カインとナナは魔道士の杖を手に入れた。さらにアルスは航海のお守りとして魔除けの鈴の鈴を手に入れ、マントを失ったカインに風のマントを譲った。身かわしの服は殆ど重さを感じさせず、羽のように軽い特殊な布を素材に使った服で、服に施されたジュエルズアミュレットや縫い糸による魔法の古代文字で、相手の直接攻撃をかわす力が備わっている。つまりこの服自体が一種の結界や護符にもなっているのだ。
「よくわかんねえけど、つまりいい服なんだな」
 呪文のことには疎いアルスだったが、とにかく特殊な服であることはわかった。その軽さに気に入った。
 魔道士の杖は炎の魔力を秘めたジュエルズアミュレットを先端に埋め込んだ杖で、呪文の使い手たちに、愛用されている武器だ。そして魔除けの鈴は身に着けていれば相手のラリホーやマホトーンにかかりにくくなるお守りである。
 どうも魔道士の杖と身かわしの服は、ナナがすごく気にいったようで・・・・・・。
「キュワーン!この杖と服、私にぴったり!」
 などとナナははしゃいで喜んでいた。店員が彼女の奇声に怪訝な表情を見せているが、本人は全く気にしていない。
「なあ、あれってまさか・・・・・・」
 アルスが言い、カインと顔を見合わせた。ちょうどアルスとカインにしか聞こえない程度の声だ。
「・・・・・・やっぱり犬になってるよな」
「うん、どう見てもあれは犬だね」
 そう、これがナナの本当の自分に変わった姿だった!
 昨日の桟橋での出来事以来、ナナは無理をすることを止めた代わりに、かつての犬だった頃のくせや言葉が行動として出るようになってしまったのだ!もともとナナは犬などのどうぶつは好きなほうではあったが。
 自分の分の杖と服を購入すると、ナナはさっそく装備してうっとりしている。
「くーん、くーん(嬉しいようだ)」
「ダメだ、完全に犬だ」
 アルスがいい、「コレはもう犬姫様だね」そんな様子に、カインが勝手に命名してしまった。
 とはいえ、そのナナの姿は今までと違って明るくて、つらい出来事から吹っ切れた様子もあった。アルスとカインはそれが嬉しかった。
 冬の海は荒れていて、好天に恵まれたのは出航してから最初の1時間だけだった。荒れ狂う高波と容赦なく吹きつける横殴りの風に小さな海竜丸は木の葉のように激しく揺れだし、ルプガナの港を出航して5時間後に海竜丸はすさまじい冬の嵐に見舞われた。やっとこのひどい冬の嵐を乗りきったが、その後も海は荒れ続けルプガナの港を出航してからもうすぐ2日目になろうとしていた。
 アルスは、舵輪につかまりながら、前方の海上を見つめていた。
 頬はげっそりと落ちている。目はうつろだった。体には、毛布を巻きつけているが、それでも震えるほど寒かった。気温が1番低い夜明け前のことのため、なおさらだった。手すりをつかんでいる手の感覚は、殆ど麻痺していた。
 それでも手すりから手を離すことが出来なかった。いきなり横波を受けて、激しい衝撃と共に、船が揺れる。もし振り落とされたら、高波にのまれて、一巻の終わりだ。
 だが、帆は力強く風を受け、船は順調に東に進んでいた。
 夜は、交代で操縦と番をすることに決まっていた。
 勇者の子孫たちの交代の順番は、最初から変わっていなかった。
 冬の嵐の後遺症は、予想以上に大きかった。
 嵐を抜けて5時間経った今でも、全員が疲れ果ててぐったりしていた。
 はるか頭上からのみ込むように襲い掛かってくる高波が、横殴りのすさまじい吹雪が、途切れることなく容赦なく海竜丸に襲いかかってくる。
 まるで、地獄のような嵐だった。波を受けるたびに、船は大きくきしみながら、上下左右に激しく揺れた。
 たちまち勇者の子孫たち一行は船に酔い、最悪の状態になった。
 勇者の子孫たちは、苦しさにのたうちまわり、船の舵輪や手すり、ベッドの縁にしっかりつかまっていた。そうでもしなければ、激しい揺れに勢いよく放り投げられて、船室の壁板や床にいやというほど全身を叩きつけられてしまう。
 胃の中のものを全部吐き出すと、今度は胃は何も受け付けなくなり、勇者の子孫たちの体力はみるみるうちに消耗していった。
 特にナナはひどかった。最終的には、つかまっている体力さえも、なくなってしまった。
 しかも、高波が船室も襲い、必死に浸水を防がねばならなかった。
 勇者の子孫たちは、何度も死を覚悟した。
 嵐は7時間も続いた。小さい船とはいえかなりいい船のため、あちこち壊れながらも何とか切り抜けられたが、普通の小さい船なら2時間と持たないだろう・・・・・・。嵐を何とか切り抜けると、全員疲れきって、声を出すのもやっとという状態だった。
 この船を造ったという、船作りの名人は本当にいい船を造ってくれたようだ・・・・・・。
 海竜のように力強くて美しくて、優雅でいて速い船を・・・・・・。それが名人に残された、最後の使命だったのかもしれない・・・・・・。そして彼はいつの日か、役立つ時があると知ってたのかもしれない・・・・・・。実際、こうして勇者の子孫たちを乗せているのだから・・・・・・。
 勇者の子孫たちは、苦しそうに、何度も大きく息を吐くと、激しい睡魔に襲われた。
 彼らは、交代でまる1時間死んだように眠った。
 それでも体力は回復しなかった。空腹感はあるのに、相変わらず胃は何も受け付けようとはしなかった。口に入れてもすぐに戻してしまう。
 とにかく、今は一刻も早くアレフガルドの西の港に着きたかった。
 やっと東の空が、うっすらと白くなりかけてきた。
 アルスが目を凝らして水平線を見ていると、風のマントを毛布代わりに巻いたカインが、甲板の手すりにつかまりながら船室から出てきた。
「ねえ、代わるよ。下で休みなよ」
 カインは持ってきた望遠鏡で前方の海上を見た。
 だが、アルスはそこから動こうとしなかった。
 そろそろラダトームのある大陸が見えてきてもいい頃だからだ。
 2人は並んで、しばらく水平線を見ていた。
 聞こえてくるのは風の音と波の音ばかりだ。
 そのときだった。前方のはるか東の海に、潮に煙るアレフガルドが見えてきた。水平線いっぱいに横たわる大陸の影が見えてきた。
「あっ?」
 さっそくカインは望遠鏡で見た。そして、「アレフガルドが見えてきたよーっ!ねえナナ!アレフガルドだよーっ!」望遠鏡をアルスに放って、嬉しそうに船室に駆けおりた。
 アルスは慌てて望遠鏡を覗いた。
 雄大な大陸が見えた。その中央にかすかに港が見える。
 アレフガルドの西の港だ・・・・・・。
(続く)

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ともちん

ナナ王女の素の様子が、可愛らしいですね(^^)
船を手に入れてすぐの様子が生々しく伝わってきました。
これを乗り切ってまたひとつ勇者の子孫たちはたくましくなったのですね。
by ともちん (2012-12-02 23:54) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
いいかどうかはわかりませんが、犬姫様という性格付けが出来たと思います。
初めての船のたびということで、彼らはまだなれてないところもありますが、これで海は何があっても平気になりそうです。
by あばれスピア (2012-12-04 00:39) 

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