6 ハーゴン(1) [DQ2下]

6 ハーゴン(1)
 ロンダルキアの祠を西へ向かった勇者の子孫たちは、日が暮れかけたころ、目的地らしき場所を発見した。
 だが、その場所は砂漠の中にわずかであるが唯一緑に囲まれた場所であり、しかもその建物には見覚えがあった。その建物に近づくにつれて、彼らは自分たちの目が信じられなくなってきた。
 建物の正面まで来たときアルスは、驚いて立ち止まるしかなかった。
 なぜなら、そこはローレシアの城下町と王城そのものだったからだ。
 王城の玄関に飛び込むと、柱や壁や天井の形や色まで同じことがわかった。さらに、大理石の玄関から奥の謁見の間まで続く長い回廊には、「勇者アルスの伝説」の壮大な絵が描かれていたのだ。ちゃんと全部で20枚になる絵で、すべての場面が描かれていた。
 だた一つ変だったのは、街の人々や城の住人が皆ハーゴンを崇めていたことである。
「こうして私たちがゆっくりデートを楽しめるのもハーゴン様のおかげですわ。なんでも世界中の人々が幸せになるために働くのがハーゴン様の夢だそうです。この国にもずいぶんたくさんの寄付をしてくださいましたのよ」
「旅の扉に入った者は、たちまち遠いところに運ばれまする。しかしそれも昔の話。今は遠いところに行く必要はありませんわい」
「正しき神は正しき者の味方なり!ハーゴン様を信じる心を忘れずにいれば、必ずや幸せになれましょうぞ!」
 いったい何があったのか。
「ムーンブルク城がハーゴンの軍団に襲われたというのはデマだったようですね。詳しいことは知りませんが、実はただの火事だったとか・・・・・・」
「デマですって!?」
 ナナは怒って思わず叫んだ。
「しかもただの火事だなんて!私はあの夜の惨状のその場にいたのよ!目の前で、愛するお父様が殺されて、多くの人々や魔法使いたちも殺されたのよ!」
 謁見の間まで行って、彼らはさらに驚いた。
 いつも通り、玉座にバウド王が座っているではないか!ただし、数人のバニーガールを侍らせて。
「バウド陛下っ!?」
 ナナは、一瞬自分の目を疑い、「どうなってるんだよ、これは・・・・・・父上!?」アルスとカインも、唖然とした。
「わっはっはっ!アルス!よくぞここまで帰ってくることができたな!さすがは、我が息子。勇者アルスの血を引きし者よ」
 バウド王は、にこやかに微笑んだ。
「でも、どうしてこんなところにっ!?」
 ナナには、まだ信じられなかった。
「さあ、わしに邪神の像を渡すがいい」
「何ですって!?」
「実はな、ナナ王女・・・・・・」
 バウド王は、鋭い目で睨むと、にやりと笑った。
「ハーゴン殿を誤解していたせいでそなたたちにはずいぶん心配をかけたな。しかし、もう安心じゃ!ハーゴン殿は実は気持ちのいい人でな。何を隠そう、わしも部下にしてもらったんだよっ」
「そんなバカなっ!?」
 思わずナナがいった。
「わっはっはっ。信じられんのもわかる。だが、今更隠しても意味はなかろう。アルス、そなたのこともよく頼んでおいたからな。もう戦おうなどと馬鹿げたことを考えるでないぞ。ローレシアはこれよりハーゴン殿に仕える!邪神を崇め、この世に暗黒の世界を建築することこそがわしの・・・・・・!」
「嘘だっ!」
 さっそくアルスが叫んだ!
「まやかしだ!父上がハーゴンの部下になるわけがないじゃないかっ!」
 すると、1人のバニーガールが彼らに近づいてきた。
「私は前の大臣閣下にかわってバウド陛下にお仕えすることになったミリエラと申します。こんな平和な世の中ですもの。王室を明るい雰囲気にするために雇われたんですわ。そうそう、私の踊りは天下一品ですのよ。難しいお小言を言う閣下よりも気に入っていただけるんじゃありません?おほほほほっ」
 アルスが、謁見の間を見渡しながら「これはきっとハーゴンの幻術だっ!」というと、カインが持ったルビスの守りを見た。以前「ハーゴンの神殿はくるものに安らぎを与えると聞くがそれは幻じゃ。だまされてはならんぞ。精霊の助けを得よ!」といったデルコンダルの国王の言葉を思い出したからだ。
「やってみるよ!」
 カインは、ルビスの守りの飾りの部分を両手で抱きそっと握りしめると、瞳を閉じて、必死に天に祈りをささげた。

 精霊神ルビスよ
 ボクらに愛の助力を

 すると、どこからともなく美しい声が聞こえる・・・・・・!
「アルスたちよ。騙されてはなりません・・・・・・。これらはすべて幻。さあ、しっかりと目を開き、自分の目で見るのです・・・・・・」
 ルビスの守りがまばゆい光を部屋いっぱいにドーム状に放つと、突然、まわりの柱や壁や絵や椅子が消え始めた・・・・・・。
 勇者の子孫たちは、恐怖に顔を強張らせながら、立ちつくしていた。
 一瞬の出来事だった。周囲の緑と、城下町と王城が消えた後に、毒の沼と堀に囲まれた神殿が現れた。ハーゴンの神殿の真の姿だった。
「ここはローレシアの王城です・・・・・・」
「ここは道具屋です。どんな御用でしょう・・・・・・」
「旅人の宿にようこそ・・・・・・」
「メラメラメラ・・・・・・」
 そして、正体を表したローレシアの住人の役だった魔物の魂らしき者たちが、今もむなしく役を演じ続けていた。
 これは、勇者の子孫たちが本物のローレシアで倒した悪魔神官が、捕まえられていた時に神殿に伝えた、ローレシアすべてを幻影にしたものだったのだ。
 アルスはあの幻のバウド王を、本能的に、敵だと見破っていた。
 久しぶりにバウド王を見てさすがに驚きはしたが、アルスは親子としてそれ以上のものを感じなかった。懐かしさがなかった。むしろ、肌の裏側がざらつくような悪寒を感じた。
 考えてみれば、ほかにもおかしいことがあった。バウド王が、自分たちが勇者アルスの血を引く者だと認識していたことである。初代ローレシア王の勇者アルスの名前を知っているのは、ローレシアの住人の中ではアルスだけのはずである。
「まったく、ふざけやがって!」
 神殿を見ながら、アルスが吐き捨てるように言った。
 神殿は、森閑として、襲ってくる魔物の群れの気配はなかった。
「上にあがる階段を探しましょう!」
 ナナがそういって、彼らは神殿の1階を調べた。
「トラマナ!」
 神殿の中は、あちこちさまざまなバリアが貼られていた。カインの呪文をたくさん使いながら、勇者の子孫たちは階段を探した。
 やがて、彼らは強力なバリアに囲まれた巨大な礼拝堂が広がっているのを発見した。大勢の人数を収容できそうな礼拝堂で、その中にもバリアが貼られていた。この礼拝堂は、不気味なレリーフが壁にいくつも施されていた。中に小さく祭壇と思われる場所があった。
 そして、彼らは、祭壇と思われる場所に向かった。
 なぜ祭壇なのかわかりづらいのかというと祭壇には、小さな邪教の像らしきものがまつられていただけだった。床には大きな十字が施してあっただけだ。十字の部分だけ半透明の青い石がしいてあった。
 結局どこを探しても階段はなかった。
「うーん。どうやったら上に行けるんだっ!」
 アルスは、悔しそうに高い天井を見つめた。
 その時、ナナは、ハッとなった。かつて「邪神の像がなければ、ロンダルキアのふもとの山々の洞窟へは入れんぞ・・・・・・。おそらくハーゴンの神殿の中心部へもな・・・・・・」といったローレシア北のお告げ所の神父の言葉を思い出したのだ。ひょっとしたら、城門でも玄関でもなく、このことを言っていたのね・・・・・・。
 ナナの考えにアルスは、腰のポーチから邪神の像を取り出して、床の十字の中心に立ち、祭壇に向かって邪神の像を高くささげてみた。すると、邪神の像の3つの目が赤く光った。
 その光に呼応するかのように、突然彼らの目の前が真っ暗になると、彼らの体がものすごい圧力にしめつけられながら、浮上したのだ。次の瞬間、『あーっ!?』彼らは声をハモらせ唖然とした。
 突然目の前の光景が変わっていた。礼拝堂ではない。どこかの通路にたっていた。
 そこがどこなのか理解するまで、彼らは少し時間が必要だった。
 しばらくして、ナナが叫んだ。
「わかったわ、上に移動したんだわ!一瞬のうちに!」
 すると多くの魔物の群れが待ち構えていた。単眼に4本足の暴走した殺人機械の魔物キラーマシンは、手にした長剣を振り回し、連続攻撃で斬りつけてきた。
 だが、そんなキラーマシンも勇者の子孫たちの前には、まったく無力だった。
「スクルト!」
 カインが防御呪文を発動し赤い魔力の光で彼らの守りを固めれば、「ルカナン!」ナナもまた呪文を唱えて青い魔力の光をキラーマシンに降らせて守備力を下げてアルスの援護をする。アルスは、瞬く間にキラーマシンを倒した。
 中央の部屋に、上にのぼる階段があった。
「さあ、ハーゴンを探すのよ!」
 ナナは、階段を駆けのぼった。
 階段を上がるとさらに魔物の群れが現れた。
「ギラ!」
 この3階では溶けかかってつぶれた銀色の小さな体の好戦的なはぐれメタルがギラを唱えて彼らに襲いかかった。
 だが、やはり稲妻の剣の前に、はぐれメタルはかなわなかった。てこずりながらもアルスははぐれメタルを倒した!
 さらに、上の階へとのぼった。
 4階の通路を道なりに進んでいくと、上にあがる階段の前に、巨大な魔物が1匹待ち構えていた。
 とてつもない巨人で彼らを見下ろしており、左肩を出した服をまとい、手には大木ほどもある巨大な棍棒を握っている。全身は黄色に輝き、巨大な頭部には一抱えはありそうな単眼が光っていて、そして、その一つ目の上には1本の鋭い角が突き出している。ハーゴンの手先で、純魔族の中でも怪力の持ち主、アトラスだった。
(続く)

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