6 ハーゴン(2) [DQ2下]

6 ハーゴン(2)


「待っておったぞ、勇者アルスの血を引く者どもよ!」
 アトラスはそういうなり、勢いよく棍棒を素早く振り下ろし、アルスはとっさに身をかわした。
「そうか、やっぱりお前はハーゴンから呼ばれたんだな!?」
 アルスは叫びながら斬りつけ、棍棒と稲妻の剣がぶつかり火花が散った。
 鈍い音にアルスは慌てて刀身に目をやった。以前、光のつるぎが折れた時のことを思い出した。
 しかし、稲妻の剣には刃こぼれはおろか、一点の曇りもなかった。
 アトラスは棍棒を握りなおすと、唾を吐いた。
「いつまでかわし続けられるかな?」
 アトラスは戦いを楽しむかのように、残忍な笑みを浮かべアルスに襲いかかった。
 カインとナナは、素早くアトラスの背後に回り、続けざまに攻撃し呪文を唱えた。ナナのほうが早い。
「ルカナン!」
 ナナのルカナンの青い魔力の光が巨体に降り注ぎ、カインの隼の剣が素早く巨体に炸裂した。
 だが、アトラスはナナの呪文やカインの攻撃を全く無視して、アルスを集中攻撃し続けた。
 カインの素早い攻撃も、いやナナのルカナンでさえ、アトラスには気休め程度の効果だった。
 ジャンプし、地面を前転し、アルスは必死で攻撃をかわし続けた。
 しかし、それが精一杯だった。相手の攻撃をかわすだけで、反撃することができない。
 アトラスはさらに棍棒を軽く素早く振り回した。
 アルスの呼吸は徐々に乱れ、ジャンプ力が低下していた。
 全身、汗まみれのアルスとは対照的に、アトラスは呼吸1つ乱れていなかった。
「とどめだーっ!」
 アトラスは一声叫ぶと、一番高く棍棒を振りかぶった。
 正面から打ち下ろされた1撃を、アルスは紋章の力で強化されたロトの盾で受け止めた。
 全身をすさまじい衝撃が駆け抜け、激痛に意識が遠のいた。だが、「グオーッ!」悲鳴を上げたのは、アトラスのほうだった。
 額の巨大な単眼に、握りの部分から折れた棍棒が、深々と刺さっていた!
 度重なる激しい衝撃で、棍棒にひびが入っていた。
 半狂乱と化したアトラスは、握りしか残っていない棍棒をむやみやたらと振り回した。
「やーっ!」
 ジャンプしたアルスは渾身の力を込めて稲妻の剣を振り下ろした。
「ぎゃああああっ!」
 断末魔の悲鳴が轟いた。胸から斬りつけられてアトラスは神殿の壁に激突した。分厚い壁が砕け散り、アトラスは地響きを立てて横転した。
 稲妻の剣の鋭い刃先は、アトラスの体を捕らえていた。
 痙攣したアトラスはそのまま硬直して動かなくなり、青白い光に包まれて消えた。
 勇者の子孫たちは、素早くその場を抜け、奥の右奥にある階段に飛び込んだ。
 そして4階から上の階へとのぼった。
 5階は西に進むと、勇者の子孫たちから見て左右に部屋があった。右の部屋に入ると、またも階段の前に敵が待っていた。冷酷な光をたたえた両眼は鬼火のように輝き、厚い毛に覆われた全身には力がみなぎっている。
 さっきのアトラスと同様のすさまじい殺気に、カインは背筋が凍るような悪寒を感じていた。
 こいつに匹敵するのは、おそらく4階で戦った純魔族ぐらいだ・・・・・・。
 アルスの読みは正しかった。
 魔物は勇者の子孫たちを見て、さも嬉しそうに笑った。魔物は、ハーゴンの手先で純魔族のバズズだった。
「アトラスの仇を、討たせてもらうぞっ!」
 稲妻の剣と強化されたロトの盾、隼の剣と力の盾、いかずちの杖をそれぞれ構えて近づいた彼らにバズズは話しかけた。
「アトラス!?」
 アルスが、聞き返した。
「そうだっ!4階で戦ったはずだっ!おとなしく邪神の像を渡せば、苦しまずに楽にあの世に送ってやろう」
 低く、静かな、それでいて殺気に満ちた声だった。
 アルスは本能的に相手のレベルを悟った。
「何者なんだ?」
「ふっ!お前ら人間どもに名乗る名など持たんわ!」
 カインの言葉にバズズは馬鹿にしたように舌打ちした。
「そうか、お前もあいつと同じようにハーゴンから呼ばれた純魔族かっ!?」
「それがどうしたっ!?我ら純魔族にとっては、負の感情こそが全てなんだ!そのために、派遣されたんだっ!愚かな人間どもがどうなろうと、我らの知ったことではないわいっ!」
 アルスの問いに答え、バズズの体が宙に舞った。
 バズズは呪文を唱えてきた!
「ザラキ!」
 勇者の子孫たちは青い魔力の光の衝撃波からとっさに身をかわした。衝撃波がアルスの肩とカインの頬をかすめた。
 アルスは、避けながら稲妻の剣を振るいバズズに斬りつけた。だが、かすりもしなかった。今までの魔物なら必ず命中したはずのアルスの攻撃は、何の苦労もなくかわされてしまった。
 アルスは、稲妻の剣を構えなおすと、相手を見た。
 そして稲妻の剣を振り下ろした。真っ向から振り降ろされた稲妻の剣をバズズはかわした。
 だが鈍い音とともに数本の毛が飛び散った。切っ先がバズズの肩をかすめていた。
「おのれ!」
 バズズは、怒りに燃えて呪文を唱え始めた。
「目障りなやつらめっ!」
 バズズは、勇者の子孫たちに向かって呪文を唱えた。
「イオナズン!」
「うわあっ!」
 光球から逃げようとしたカインは床のくぼみに足を取られて転倒し、その頭上にバズズの放った光球が迫った。
 が、バズズの光球がカインを捕らえるより早く、アルスがバズズに斬りかかった。
 バズズは、持前の素早さで体を反転させると稲妻の剣の刃先をかわした。その時、運悪くバズズの光球がカインの足をかすめていた。
「ぐっ・・・・・・!」
 カイン苦痛に呻いた。
「カイン!?」
 慌てて駆け寄ろうとしたアルスに、体制を立て直したバズズが呪文で襲いかかった。
「イオナズン!」
 アルスは光球をかわし、そのまま稲妻の剣を手に床を蹴ってジャンプした。
 バズズの頭上を越え、階段のそばに着地した。だがその近くにバズズの放った光球が炸裂した!
「うわあああああっ!」
 アルスはそのまま神殿の壁に激突した。骨がきしみ、激痛が全身を走った。
 強力な衝撃にアルスは半分気を失いかけていた。
 気力を振り絞り何とか体を起こすと、自分に向かって駆けよってくるカインとナナとそれを追うバズズの姿が見えた。
「アルス大丈夫?」
 ナナが遠くから声を掛け、カインは呪文を唱え始める。

 聖なる癒しのその御手よ
 母なる大地のその息吹
 願わくばわが前に横たわりし彼の者に
 今一度の再生を与えんことを

「ベホ・・・・・・」
「イオナズン!」
 だがバズズが駆け寄ろうとするナナやベホイミを唱えようとするカインを光球でけん制し、さらに呪文で襲いかかった。
「ザラキ!」
 アルスは必死で体を捻り青い魔力の光の衝撃波をかわした。衝撃波が空を切り床に命中した。
 バズズは戦いを楽しむように、ゆっくりと接近する。
「フハハハ!なかなか楽しませてくれるではないかっ」
 バズズは残忍な笑みを浮かべると、舌なめずりをした。
 その時、バズズの背後にまわったナナの呪文が炸裂した。
「ルカナン!」
 バズズの背中を強烈な青い魔力の光が襲った。
 しかし、バズズは不敵な笑みを浮かべてナナを一瞥しただけだった。
 ナナのルカナンもバズズにはたいした効果ではないと思われたようだ。
 アルスはあっという間に、部屋の隅に追い詰められた。
「ふっふっふ!さあとどめだっ!死ねっ!」
 バズズが、巨大な爪を大きくかざして呪文を唱えようとした時、「でやああーっ!」カインが、一か八かで、隼の剣を思いっきりバズズの背中めがけて投げつけた!
 振り向きざま、バズズは、カインの隼の剣を軽く弾き返した。その時だった。
「グオっ!」
 バズズがのけぞって、眼を見開いた。
 バズズは、苦しそうに悶えながら、恐ろしい形相でアルスを睨み付けた。
 バズズがカインの隼の剣を弾き飛ばしたとき、アルスの稲妻の剣がバズズの体を一突きにした。
 アルスは、ありったけの力を振り絞ってバズズに斬りかかった。
 たちまち、バズズの体に命中した。
 バズズは、たまらず片膝をついた。そこを、アルスが渾身の力で稲妻の剣を振り下ろした。
 だが、アルスは1撃でバズズを倒すことができなかった。
 アルスは、バズズの強靭な肉体に唖然とした。すると、「グオオオオオオーっ!」すさまじい叫びを上げながらバズズが立ちあがった!
 そして、最後の力を振り絞って10本の鋭い爪を翳した。
 だが、「ギャアアアアーっ!」バズズは、断末魔の悲鳴を上げ、全身を硬直させて激しく痙攣した。
 無念そうに宙を睨んだ両眼から、急速に精気が失せていった。バズズは、ただそのまま倒れた。
(続く)

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