6 ハーゴン(3) [DQ2下]
6 ハーゴン(3)
「・・・・・・終わったか・・・・・・」アルスが深いため息をつき・・・・・・「・・・・・・どうやら何とか切り抜けたみたいだね」カインは、部屋の奥に倒れるバズズに目をやり・・・・・・その時、ナナの頭にふと閃くものがあった。
「ふせてっ!」
ナナの叫びに全員が、ほぼ反射的に身をふせる。
その瞬間。
ゴグオッ!
部屋の中に倒れたバズズの体が爆発、四散した。今度こそバズズは青白い光に包まれて消えた。
「何だっ!?」
「無事かい?」
アルスやカインの声に答えるように彼らは何とか身を起こす。どうやら全員ケガもないようである。
バズズが、倒れたとき、ナナはおやっ、と思ったのだ。
アルスに倒されたバズズはどう見ても、あの時まだ死んでなかった。にも関わらず、なぜ倒れたふりをしたのか?
倒された、というのがもしも見せかけだとするならば、本当の目的は、倒れたときに何か細工をすること。
そこまで考えた時、部屋でバズズが光球を爆発させたりするイオナズンを使っていたこととあいまって、ナナの頭に『爆弾=自爆=メガンテ』の文字が閃いたのだ。
もしも勇者の子孫たちの誰かが、死体の確認にのこのこと近づけば、一緒にドカン、というつもりだったのだろう。
勇者の子孫たちは上の階にのぼった。
6階を道なりに進むと、階段の前に立ちはだかる魔物を目にした。
頭には2本の角が生え、背中には蝙蝠のような不気味な大きな翼が付いている。全身は金色に煌く鱗におおわれ、がっしりとしたピンクのグローブをはめた両手には三又の矛が握られていた。
だが、その魔物からは何の気配も伝わってこなかった。今までの魔物が放った強烈な殺気も、戦いを前にした緊張感も。いやそればかりではなく、呼吸による大気の動きさえ感じられなかった。
魔物はハーゴン軍団の司令官、デーモン属の最高位にある純魔族のベリアルだった。
「気を付けろ・・・・・・」
アルスはベリアルを見ながらカインとナナにいった。
「今までの相手とはわけが違う・・・・・・」
その言葉は半分自分に向けたものでもあった。
そしてカインもナナも無言でうなずいた。アルスと同じことを考えていた。
ベリアルは彼らを見ると笑った。
「待っておったぞ。さあ、邪神の像を渡すがいい」
アルスは、ベリアルの言葉に油断なく身構えた。
その途端、ベリアルは音もなく前に出て、いきなり火炎の息を吐いた!巨大な体から信じられないほど素早く滑かな動きだった。
燃え盛る火炎を浴びせられたアルスは、横っ飛びして身をかわした。
だが、ベリアルはアルスに逃げる余裕を与えなかった。すぐに二発目の火炎の息を吐き出していた。強化されたロトの盾で必死に燃え盛る火炎を防ぐアルスの全身を、強烈な熱気が包み込んだ。
カインとナナは、アルスを援護しようと即座に呪文を唱えた。
「スクルト!」
カインの赤い魔力の光が勇者の子孫たちの前に魔力障壁を作り出す。
聖なる癒しのその御手よ
母なる大地のその息吹
願わくばわが前に横たわりし彼の者に
今一度の復元を与えんことを
「べホマ!」
ナナが唱えた回復呪文ホイミ系の最上位の呪文べホマがアルスの全身を回復させる。しかし、ベリアルは全く動じていなかった。
「小賢しいっ!わが仲間たちの恨み、晴らさせてもらうぞっ!」
ベリアルは右手を振りかざして振り下ろすと、「イオナズン!」光の球が生成されて彼らの近く炸裂した!カインとナナの体が爆発の衝撃で床に叩きつけられた。
その間にナナのべホマで体制を立て直したアルスは、一気に間合いを詰めると、ベリアルに攻撃した。
稲妻の剣が一閃し、ベリアルの体に斬りつけた。が、それでもベリアルは全く動じる様子がなかった。
「フフフフっ」
不気味に笑う魔物は右手をかざして呪文を唱えた。
聖なる癒しのその御手よ
母なる大地のその息吹
願わくば我に
今一度の復元を与えんことを
「べホマ!」
すると見る間に体の傷が癒えてしまった!ベリアルもまたべホマが使えるのだ。愕然とする彼らに、ベリアルは続けざまに呪文を唱えた。
「イオナズン!」
爆発音が轟き、爆風で彼らは部屋の反対側まで弾き飛ばされた!
「これで世界は我ら魔族の物となるのだっ!」
ベリアルは叫ぶなり彼らに呪文を唱えて浴びせた。
「イオナズン!」
その光球の炸裂した爆炎に、床が粉砕され、床の破片が飛び散った。
倒れた彼らが立ちあがる間もなく、ベリアルは続けざまに火炎の息を吐いた。
燃え盛る火炎となって、勇者の子孫たちに降り注いだ!
「うわーっ!」
燃え盛る火炎をまともに浴びたカインが悲鳴を上げた。
「カイン、大丈夫か?」
アルスは懸命にカインに近寄った。
だが、燃え盛る火炎を直接受けたにも関わらずカインは死んでいなかった。だが瀕死状態であった。ナナが呪文を唱える。
聖なる癒しのその御手よ
母なる大地のその息吹
我らが前に横たわる
傷つき倒れし彼の者に
我らすべての力持て
再び強き力を与えんことを
「ザオリク!」
ザオリクは周囲に存在する生命から、少しづつ気を分けてもらい、それをエネルギー源にして怪我を治す呪文だ。瀕死の状態の者にホイミ系の呪文を使うと逆に死んでしまうこともあるが、この呪文なら大丈夫。
わかりやすく世間では復活の呪文とされているが、強力な回復呪文というだけで死者を生きかえらせることはできない。死はあくまでも死なのだ。
このザオリク程度になると、使用者によってはちぎれた腕や足などを再生することもできるという。要するにこの呪文を使われているということは、それだけ危険な状態にあるということである。
「死ななかったのは水の羽衣のおかげだよ・・・・・・」
カインは、自分が装備していた水の羽衣の胸の部分をつまんで笑った。
「運のいいやつめ。だがもはやこれまでっ!」
ベリアルはアルスとカインを追い詰めた。
ナナは何とかアルスやカインを助けようと慣れない回復呪文を使っていたが、うまくいかず無駄だった。相手の攻撃に回復が間に合わなくなってくる。
カインを助け起こしながら、アルスはベリアルに近づく方法を考えていた。
だが、このままでは近づくことは出来そうにもなかった。その時だ。
「お前の相手は私よ!」
アルスの考えを察したナナがベリアルの前に進み出た。
「よかろう!お前から先に片づけてやる!」
ベリアルは、ナナのほうに向き直ると矛を構えて襲いかかった。
アルスがその隙を見逃すはずはなかった。背後の殺気にベリアルが振り向いたとき、すでにアルスは床を蹴ってジャンプしていた。
稲妻の剣がまばゆい閃光を放ち、二本の角を根元から断ち切った!うなり声をあげてのた打ち回るベリアルに、左右からカインとナナが攻撃をしかけた。隼の剣による素早い攻撃が金色の鱗を切り裂き、いかずちの杖の攻撃で相手を殴った。
ベリアルは、眼を見開いて大きく口を開けた。火炎の息を吐き出そうとしていた。だが、それより早くアルスが攻撃を仕掛けていた。
稲妻の剣が一閃し、三又の矛が渇いた音を立てて床に落ちた。そして矛に覆いかぶさるようにベリアルの巨体が倒れた。金色のベリアルの体は、青白い光に包まれてゆっくりと消えていった。
「急ぐぞ!邪神が降臨したらこの世は終わりだ!」
アルスはそういうと、勇者の子孫たちは最上階へ駆け出していた。
(続く)
※次回は
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