7 邪神 [DQ2下]

7 邪神
 再び扉の奥から、炎が飛び出した。
 次の瞬間、激しい気流の渦の中から炎を発しながら、巨大な緑の塊が飛び出してきた!
『うわあっ!?』
 勇者の子孫たちは声をハモらせ横っ飛びで逃げた。
 巨大な緑の塊は、派手に部屋中にぶち当たりながら、地響きを立ててドームの中に飛び出すと、なんとそびえていた円柱を粉々に砕き倒した!
 さらに大きな地響きと大音響が起こった。すると、巨大な緑の塊は崩れ落ちた瓦礫の山を振り払いながら、頭をもたげて勢いよく立ちあがった。
 天井に頭がぶつかるのではないかと思うほどの、とてつもない巨大な純魔族だ。
 その勢いで、ドームの中の2つのかかり火が全て消えた。勇者の子孫たちは、思わず息を呑んで後ずさりした。
 はるか頭上の闇の中で、恐ろしい真っ赤な二つの眼がじろりと勇者の子孫たちを見下ろした。
 2本の角、大きく裂けた口と牙、巨大な翼、鋼鉄のような鱗と舌を出す牙をむいた蛇のような頭のついた尻尾、手脚が全部で6本もある想像を超えた魔物だ。6本の手脚はそれぞれ3本の指を持ち、その指先は研ぎ澄まされた鋭い爪であった。さらに緑色で艶のある鱗が全身をおおい、身の毛がよだつような殺気をドームの中いっぱいに放っている。
 悪霊の神、邪神シドーだった。
 シドーは、勇者の子孫たちをじっと睨み付けてきた。
「冗談じゃねえ!お前を呼んだハーゴンならもういないぞ!俺たちが倒したんだから!」
 無駄だろうと思ったが、念のためアルスが叫んだ。
 だが、シドーは驚いた素振りも見せなかった。
「来るぞっ!」
 アルスが叫ぶと同時に、勇者の子孫たちは身構えた。
「そういうことか!」
 カインが間合いを測りながらアルスとナナに言った。
「こいつ、最初からハーゴンなんか相手にしてなかったんだ!こっちの世界に来るために利用してただけなんだ!」
 シドーはいきなり激しい炎を吐いた!
『うわあっ!』
 勇者の子孫たちは、声をハモらせ円柱の陰に隠れた。
 ものすごい火力だった。激しい炎は勢いよく燃えながら床を走り抜けた。
 シドーは、続けて呪文を唱えた。
「スクルト!」
 とたんに、シドーの周囲を赤い魔力の光がシドーの前に魔力障壁を作り出した!
 ハーゴンの呪文とは規模が違った。
 シドーの攻撃や防御に彼らはただ圧倒されていた。
「アルス!戦うんだ!」
 カインが何とか気を取り直して叫ぶ!
「グオオオオっ!」
 シドーは、ついに生の声を上げ、大きく天を仰いて咆哮すると、どうやら手としているらしい上左右の4本の手にある12個のツメの先から魔力を発した。
「ルカナン!」
 次の瞬間、青い魔力の光がドームの中を縦横無尽に走った!
『うわあっ!』
 直撃を受けた勇者の子孫たちは、声をハモらせバラバラに吹き飛ばされ、守備力が下げられた!
 勢い余った青い魔力の光は、あちこちに炸裂した。
 彼らは、吹き飛ばされた衝撃で頭が割れるように痛み、意識がもうろうとしてしばらく動けなかった。
 その時、シドーは素早く扉を振り向いた!暗黒の狭間からほかの悪霊の神々がやってくる気配を感じ取った。
 扉の奥の闇を炎が走った。
「早くしないとほかの悪霊の神々がやってくるっ!」
 カインが、やっと身を起こしながら叫んだ。
「何っ!?」
 アルスがいい、彼とナナは、驚いて必死に身を起こした。
「そうだ!カイン、ナナ!俺に力を貸してくれ!」
「アルス!」
 ナナがいかずちの杖でシドーに攻撃しながらアルスに答えた。
「俺と稲妻の剣に力を!でやあっ!」
 そう叫びながら、全身の痛みをこらえて必死に立ちあがると、シドーに向かって走り出した。
 その姿を見て、カインとナナはアルスの援護にまわった。
「うりゃああああっ」
 カインは隼の剣で素早く攻撃した!ナナも呪文を唱える!
「パルプンテ!」
 謎の呪文とされ、人間の力では制御しきれない、予測不能の効果をもたらす呪文だ。今回は勇者の子孫たちの体力が完全に回復した!
「でやあっ!だああああっ!」
「グワオオ~~っ!」
 カインの隼の剣とアルスの稲妻の剣の攻撃にシドーは悲鳴を上げて思わずのけぞった!
「いかずちの杖よ!」
 ナナはいかずちの杖を振りかざした。杖からいかずちが迸る!
「グワオオオオオ~~っ!」
 だが、いかずちが命中してもシドーはまだ倒れない!シドーは勇者の子孫たちに接近すると、鋭い爪をかざして襲いかかった。
 交互に勇者の子孫たちを攻撃した。ひとかきで5か所を鋭く攻撃した。
「こうなったら!」
 カインは、自分の受けたケガを力の盾の力で回復させると、とっさに胸の前で印を結んだ。
 なんとしてもシドーを倒そうと思った。ここで負けたら、すべてが終わりなのだ。それが、たとえ命に代えることになったとしても・・・・・・!
 呪文を唱えながら、カインは印を結んだ手に全身の力を集中させた。
 カインの全身が激しく震え出した。
 カインは、さらに渾身の力を集中させた。
 すると、鋭い魔力の光が印を結んだ手から発して、ちょうど激しい炎を吐こうとしていたシドーに炸裂した。
 矢のような稲光の魔力が、シドーの全身を走り抜けた。
「ウゴオオオオ~~っ!」
 とたんにシドーが悲鳴を上げて、全身を激しく痙攣させた。
 カインは、必死に最後に、残ったありったけの力を集中させた。そして・・・・・・唱えた!
「メガンテ!」
 シドーの全身に、再び鋭い稲光の魔力が走った。シドーの動きを止めるには十分だった。
「あっ、カイン!」
 それを見ていたアルスが、思わず叫んだ。カインは、その場に崩れ落ちた。
「ア・・・・・・ルス・・・・・・シドー・・・・・・を・・・・・・」
 呻くカインの言葉に、アルスが渾身の力で、稲妻の剣を振りかざした。剣から稲妻が迸る!
「うりゃああああっ!」
 鋭い稲妻が空を斬り裂いて、シドーの眉間に落雷した。
 すさまじい衝撃音が、神殿一帯に轟いた。
 稲妻の剣は、まばゆい光を放ち、恐るべき稲妻がシドーの全身を勢いよく駆け巡った。
 シドーは、さらに大きくのけぞり、激しく全身を痙攣させた。
 すると、再び稲妻の剣が光輝いた。
 神殿のある周囲一帯までに及ぶような強烈な光だった。
 シドーの4本の手が震えながらむなしく宙をつかんだ。
 シドーの巨体がゆっくりと傾き始めた。シドーは、彼らを見て睨み付けた。それは恐ろしい眼だった。
 だがシドーは、そのまま巨木が倒れるように真っ逆さまにゆっくりと崩れ落ちた。
「ぎゃあああ~~っ!」
 断末魔の叫びがドームの中に轟いた。
 やがて、シドーの巨体が青白い光に包まれて、ゆっくりと消えていった。
 その直後だった。扉の上の、アーチの中央の台座に施されていた邪神のレリーフが、真っ二つに割れると、突然扉が大破した。
 暗黒の扉は何もなかったかのように黒曜石の壁に変わっていた。

あとがき
シドー戦です。
実はたった今書いたばかりです。
ちょっとハプニングもありましたが、思ってたより早くかけました。
今回は、普通のゲームでは絶対やらないような攻撃を出してます。
こういったやり方も面白いんじゃないかと。
さあ次回、カインはどうなる!?

※次回は11月1日更新予定です。
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ともちん

パルプンテが良い方に作用して
とても盛り上がる場面になりましたね。
カインはどうなってしまうのか?
とっても気になります。今からドキドキしてます。
by ともちん (2013-10-03 23:50) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
都合よすぎる展開かもしれませんが、パルプンテはボス戦で起こりやすいらしい効果にしました。
大体予想はついてしまうかもしれませんが、次回の展開はお楽しみということで。
by あばれスピア (2013-10-04 23:20) 

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