8 カイン [DQ2下]

8 カイン
「・・・・・・」
 カインはうっすらと笑みを浮かべると、「やった・・・・・・」苦しそうに声を出した。
 黒曜石の壁の前の、粉々に砕け散った瓦礫の山に、カインが埋もれていた。
 駆け付けたアルスとナナは、急いで瓦礫の中からカインを引き出した。
「おいっ!?しっかりしろっ、カイン・・・・・・!」
 アルスが、抱き起した。
 カインは、精気の失せた真っ青な顔をしていた。
 カインの体がやたら重かった。全身から力が抜け、まるで人形のようにぐったりしている。
「これなら・・・・・・勇者アルスも・・・・・・喜んで・・・・・・くれるよね・・・・・・」
 アルスは、カインの顔をハンカチで綺麗に拭いてやった。
 カインは、震える手をゆっくりとかざした。
「ア・・・・・・ルス・・・・・・シドー・・・・・・は・・・・・・?」
 カインは、呻くようにつぶやいた。
「ああ、カイン!倒したぜ!」
「カイン!」
 ナナもカインに話しかけた。
「もう・・・・・・何も見えない・・・・・・」
 カインの手は、必死にアルスとナナを探していた。
 カインは目を開けていたが、視力がなくなっていた。
 えっ・・・・・・。
 カインを見て、アルスとナナは愕然とした。
「アルス・・・・・・ナナと・・・・・・平和な世界を・・・・・・」
「ありがとう・・・・・・」
 ナナは、カインの手を握りしめた。
「・・・・・・」
 カインは、ゆっくりと目を閉じた。かすかに微笑んだかに見えた。
 だが、そのまま首を垂れた。
 カインは気を失った。
「カイン!しっかりしろ!」
 アルスは、激しくゆすった。
 だが、カインは2度と答えなかった。
「アルス!?」
 泣きそうな顔で自分を見つめているナナに、アルスは無理に微笑んで見せた。
「大丈夫だ、カインは・・・・・・」
 そういうのがやっとだった。
 アルスにも、カインの状態がふつうでないことはわかっていた。
 カインは、真っ青な顔をして目をつぶったまま、何の反応も示さなかった。
「どうしたカイン!?」
 アルスは、慌ててカインを抱き起して、激しくゆすった。
 だが、やはり同じだった。
 アルスは、今にも泣きだしそうな顔で叫んだ。
「・・・・・・カイン!」
「うそでしょ・・・・・・こんな・・・・・・」
「・・・・・・っ!カイーン!・・・・・・俺は馬鹿だ」
「アルス・・・・・・」
 と、ナナは言うことしかできなかった。
「ハーゴンも、シドーも、倒した。・・・・・・だけどそれがなんだっていうんだ!・・・・・・俺たちだけ生きたってそんな世界なんてイミないじゃないか・・・・・・!」
「状態からすると・・・・・・たぶんカインは、メガンテの呪文を使ったんだわ・・・・・・」
「メガンテ?」
 アルスが怪訝な顔をすると、「ええ・・・・・・。己の命と引き換えに、敵の命をも奪ってしまうという、それは恐ろしい呪文なのよ・・・・・・」といった。
「命と引き換えに?そんな呪文まで使って・・・・・・」
 アルスは死人のように真っ青な顔で眠り続けているカインを見た。
 確かに、あの時カインの呪文で助かった・・・・・・。もし呪文を使ってくれなければ、もちろんシドーは倒せなかっただろうし、自分たちだって全滅していたかわからない・・・・・・。だが・・・・・・それにしても自分の命と引き換えにだなんて・・・・・・。
「・・・・・・あっ、この光は・・・・・・?」
 勇者の子孫たちのいるドームの中を、彼らを中心に温かな光が満ち溢れ、勇者の子孫たちを包み込んだ。ルビスの守りを手に入れたときと同じ光だった。どこからともなく美しい声が聞こえる・・・・・・。
「私のかわいい子孫たちよ・・・・・・」
「あっ、ルビス様?」
 と、ナナ。
「ルビス、さま?」
 と、アルス。
「邪悪の神シドーは滅びました。これで再び平和が訪れることでしょう。・・・・・・これからの平和は、あなたがたが築くのです」
「ルビス様・・・・・・俺にはそんな資格はありません!」
「悲しむのはおやめなさい。そして、新たなる道を歩みなさい。・・・・・・私はいつまでもあなたがたを見守っています・・・・・・。おおすべての命をつかさどる神よ!私のかわいい子孫たちに光あれ!」
 そして、勇者の子孫たちに光が降り注いだ・・・・・・。
「う・・・・・・」
 そのうめき声に気が付いて、嬉々としてナナが言った。
「カインの意識が戻ったわっ!」
「ホントかっ!?」
 アルスは、ナナと一緒にカインの顔を覗き込んだ。
 カインは、まだ顔を動かすことはできなかった。やっと目を開けて天井を見ていたが、少しだけしゃべることと意識だけはしっかりしていた。
「・・・・・・心配したぜ、カイン!」
 アルスの眼に涙が滲んできた。
「アルス・・・・・・」
 カインが言った。
「それにしても・・・・・・。奇跡としかいえないわ・・・・・・」
 ナナは、言葉をつづけた。
「よくここまで生きていられたものだわ・・・・・・」
 そういってカインに話しかけたナナが、涙ぐみながら、「たぶん、きっとルビス様が・・・・・・!」と、アルスを見た。
「ルビス様が奇跡を起こしたんだ。感謝しろよ・・・・・・」
 アルスが言った。
「お前のおかげで、シドーを倒すことができた・・・・・・。でもな・・・・・・」
 アルスはカインを激しくゆすりながら・・・・・・言った!
「あんな変な呪文2度と使うんじゃないぞ・・・・・・!約束だろ・・・・・・。一緒にハーゴンを倒すって・・・・・・」
「・・・・・・それでアルス、倒したらナナに言いたいことがあるんじゃないの?なんとなくだけど、ボク前から気が付いてたんだよ」
 ?とナナはアルスを見てクビを傾げた。
「えっ・・・・・・いつの間に?ナナ・・・・・・!実は俺は・・・・・・」
 と、なかなかアルスが恥ずかしがって言わないため、とうとうカインが言ってしまった!
「あーあ、アルスはナナが好きなんだってさー」
 アルスが慌てて動揺しているところに、「アルス、ほんとに・・・・・・?」ナナはドキドキしながらアルスからの告白を待った。
「ナナ・・・・・・俺は・・・・・・ナナのことが好きだ!」
「アルス・・・・・・!」
 アルスとナナは、この時ばかりはカインそっちのけで手を取り合っていた。
「・・・・・・何だよ見せつけちゃってさー。あーあ、ボクもルシルに会いたくなっちゃったよ」
 カインは、そういってかすかに微笑むと、そっと目を閉じた。そして、また深い眠りに落ちた・・・・・・。勇者の子孫たちは光に包まれてドームから姿を消した。ルビスの声が聞こえた。
「さあ、お行きなさい」

あとがき
勝手ながら、今回の話は時期的にちょっと書きにくかったです。
これはDQの話でフィクションの話で、奇跡が起こってハッピーな展開になりました。
絶対起こりえないのに、現実世界でも奇跡が起こって生き返ったりできたらいいのに、とか普段なら考えないこと考えながら書いてしまいました。
最後にちょっとだけカップリング展開にできてよかったです。
でもどちらかというと、友情がメインかもしれない。
あともう少しですが、話は続きます。

※次回は12月1日更新予定です。
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ともちん

もう、ドキドキで読んでいましたが
後半の展開でとてもホッとしています。

「私のかわいい子孫たちよ…」
ゲームでこの台詞を見たときは
鳥肌が立つくらい感激したことを覚えています。
その時の感激がよみがえりました。
by ともちん (2013-11-08 08:50) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
ホッとされてよかったです。
「私のかわいい子孫たちよ・・・」は私はこの小説通りルビスのセリフだと思ってるんですが、ロトだとかローラだと考える人もいるらしいんで、よくわかんなかったりするんですけどね(汗)。
by あばれスピア (2013-11-09 00:17) 

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