ロトの大地から竜神の海原へ [DQ2下]

ロトの大地から竜神の海原へ



 帆は、春風を大きくはらんでいた。
 その上空を、夕方の日差しを浴びて、5匹の海鳥が舞っている。
 勇者の子孫たちがシドーを滅ぼして、1週間が経過していた。彼らはムーンブルクのあとにムーンペタ、ローラの門、リリザ、サマルトリアと寄り道し、シドーを滅ぼしてから4日後にローレシアに到着すると、戴冠式が開かれた。
 翌日の夕方サマルトリアに帰還したカインは、アルスと同様王位を譲られることになったが、カインはそれを断った。確かに自分は勇者アルスの子孫のサマルトリアの王子だが、何も王位を継ぐことが勇者の家系を守ることではないだろうと考えた。そのころ、サマルトリアにはカイン宛てに、ルプガナのルシルから手紙が来ていた。そういえば、ルシルはルプガナに来てほしいと言っていた。そして翌日、1日かけてローラの門に着くと、そこの旅の扉からベラヌール北のほこら、炎のほこら、ルプガナ北のほこらの旅の扉を通って、1泊した後午後にルプガナに到着したのだ。
 ルプガナに着くと、ルプガナの老人とルシルが迎えてくれた。平和になった海に出てみたいと思ったカインは、老人に頼んで何人かの船乗りたちとルシルと一緒にすぐに海竜丸に乗った。海竜丸は、ベラヌールの船乗りたちのおかげですでにルプガナに戻ってきていた。1日半かけてゆっくりとルプガナの島を軽く1周することにした。その間、カインとルシルは、2度目にルプガナを旅立ってからのことをお互いに話した。
 島を1周してルプガナ北のほこら、ドラゴンの角の北の塔を過ぎてルプガナの港に近づくと、急に海鳥の姿が増えてきた。
 海竜丸は、ルプガナのある島を左に見ながら、順調に進んでいた。
 カインが船首の甲板に残って、風に吹かれながら海を見ていると、ルシルがやってきて、「もう少しでルプガナの港が見えてくるんですって・・・・・・」と、涼しげな瞳でにっこりほほ笑むと、カインの横に並んで海を見た。
 海竜丸で旅をするようになって以来、カインは船での旅が好きになった。ときには怖い時も見せるが、海が見せる様々な表情が楽しかった。この船、海竜丸も好きだった。いつかもっと大きな船を率いて、さまざまな海を旅してみたい。カインはそう思うようになっていたのだ。
 カインは、ルシルの横顔をまぶしそうに見た。およそ1か月前の春の初めにルプガナで再会したときは、さほど感じなかったが、今、横にいるルシルは少女のあどけなさは残っているものの、美しい娘に成長していた。
「ありがとう・・・・・・。海竜丸を貸してくれたおかげでこの世界は平和になれたよ・・・・・・」
 カインは、改めて礼を言った。
 勇者の子孫たちがルプガナに滞在していると、ルシルは親切にしてくれた。いくら感謝しても、しきれないほどだった。
「あの・・・・・・これさ・・・・・・」
 カインは、腰のポケットから、美しい魔除けの鈴を取り出した。
「どうして、僕にくれたの?」
 ハッとなってルシルが微笑むと、「まさか、ずっと持っていてくれたなんて、うれしいですわ・・・・・・。ほら・・・・・・」と、腰の白いベルトから下がったポケットに隠れているものを出して、いたずらっぽく笑った。
 何と、同じ魔除けの鈴で作ったお守りだった。
 カインが2度目にルプガナを出航してから、腰に下げて肌身離さず持っていた。
「その鈴は・・・・・・。私が生まれた時、亡き父が残してくれたんです・・・・・・」
「そんな大事なものを・・・・・・」
 カインは驚いてルシルを見ていた。
 2度目にルプガナを出航するとき、「お守りだと思って大事にしてください・・・・・・」と言ってルシルが顔を真っ赤にしてうつむいた。その時から、カインは、ルシルが自分に片思いしているのを知っていた。また、今回再会した時にも感じていた。もちろん、カインには、そんなルシルの気持ちが嬉しかった。
 だが、大事な形見をくれるほど、想ってくれているとは。
「迷惑だったかもしれませんが・・・・・・」
「迷惑だなんて。この鈴のおかげで命が助かったかもしれないんだ・・・・・・」
「そうですね。それで十分ですよね・・・・・・」
 ルシルは、悲しそうに微笑むと、「だってカイン様には・・・・・・別の好きな人がいるんですもの・・・・・・」そう言って、憂いに満ちた瞳で遠くを見つめた。
「ルシル・・・・・・」
 カインは、少し戸惑った。
 強い風が吹き抜け、ルシルの長い髪がさらに大きくなびいた。
 そう、カインは、ナナに片思いしていたのだ。小さい頃サマルトリアでその存在を聞かされた時から、ずっと。だから、初めてであった頃、ナナに対して優しく親切に接していた。沈みがちなナナを何とか励まそうと、わざと明るく振舞っていた。だが、何度元気づけようとしてもナナの悲しみが回復することはなかった。そして、ナナが少しずつだがだんだん明るくなっていくのは、いつもアルスのおかげだということを、カインは悔しいが知っていた。
 ナナのことを知っていて、それでもなお好意を寄せてくれていたのか・・・・・・そう思うと、カインは急にルシルがいじらしくなった。
「ナナのことなら、もういいんだよ・・・・・・」
 ルシルが、怪訝そうに見た。
「ホントだよ。確かに、ナナは好きだ。いや正直言うと今でも好きだ・・・・・・。でも、いくら逆立ちしてもアルスにはかないっこないし・・・・・・。それに僕は・・・・・・あのアルスなら、僕が大好きなナナをきっともっと幸せにしてくれると思うから・・・・・・」
 カインは、そういって笑うと、「それよりさ、ルシル・・・・・・。ルプガナに戻ったら、買い物につき合ってよ」といった。
「えっ?」
「僕も、この魔除けの鈴、ちゃんとしたお守りにしたい・・・・・・」
 カインは照れ臭そうに言った。
「ホント?」
「ああ。ルシルだと思って、ずっと大事にするよ。ルプガナに着いたら、君のおじいさんの家に行った後で・・・・・・。実は前から考えてたことがあったんだ」
 カインは、ルシルに言った。
「もし許してくれるなら、僕は勇者アルスの子孫の一人として海の平和を守りたいと思うんだ。この船を1つの城のような大きな船にして、君と一緒に、海を旅したい・・・・・・」
「うれしい!」
 ルシルは、綺麗な白い歯を見せて笑顔で笑った。
「約束ねっ!」
 左手の小指を差し出してカインを見つめた。
「うん・・・・・・」
 カインとルシルは、指切りをした。
 だが、指切りをすると、離れかけた2人の小指が止まった。
「ルシル・・・・・・」
 カインとルシルは、じっと見つめあった。
 その時だった。マストにのぼって帆の点検をしていた船乗りの一人が、嬉しさのあまり大きな声で叫んだ。
「おーい!ルプガナが見えてきたぞーっ!」
 カインとルシルは、思わず前方を見た。
 その声を聴いて、他の船乗りたちが一緒に船室から甲板に飛び出してきた。
 左前方に、ルプガナの港が見え、さらにその少し遠くの後方の岩山の上に、昨日も見た海底王がまつられる春の夕方の日差しを浴びた真っ赤なルプガナ北の祠が見えた・・・・・・。
 ルプガナに戻ると、そこでカインとルシルの婚約が発表され、その場にいたみんなの温かい祝福を受けたという。
 その夜、カインは3時間ほどかけて、ルシルとの買い物の約束を果たした。
ルシルと一緒に買い物をしていると、カインの心が妙に弾んだ。だからカインは、ルシルに遅れがちだった。買い物が始まるとほかにほしい物がないかどうか気になって、ついよそ見をしてしまう。寄り道が大好きなカインらしい行動である。
この時、およそ5000年後に海の王にえらばれた、竜神にまつわる、天使を巻き込んだ新たな戦いが始まろうとは、まだ誰も知る由もなかった・・・・・・。

あとがき
2のその後の話です。
サマルのカップリングの話です。
なかなか思いつかない中、頑張って書いてみました。
ゲームのロト編は3→1→2で終了しますが、この後のDQシリーズを暗示させる展開にしてみました。
世界観について、いろいろな想像ができるのも楽しみの1つだと思ってます。
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ともちん

訪問が遅くなって申し訳ありません。
本年もどうかよろしくお願いいたします。
ドラクエが好きで、とてもしっかりと
ご自分のドラクエ感をお持ちなので
楽しく拝見させていただきました。
今回のカップリングもステキでした。
by ともちん (2014-01-13 04:04) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
ことしもよろしくお願いします。
ドラクエ感、なかなか近い人って身近にいないんですよね。
素敵なカップリングという感想、ありがとうございます。
by あばれスピア (2014-01-13 23:20) 

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