6 シャンパー二の塔(2) [DQ3-1]

6 シャンパー二の塔(2)


「黙れっ、カンダタッ!」
 アルス鉄の槍を振りかぶると、正面から突っ込んだ。
 だが、カンダタは両手を柄がしらに当てたまま、身じろぎもしないで立っている。アルスの、そして背後で見守っているミゼラやローザの脳裏を、不安と疑問がよぎった。
 何故・・・・・・!?動かない!?永遠とも思える1瞬が過ぎる。と、鉄と鉄がぶつかり合う澄んだ音が広間の闇にこだました。
「アルス!」
 ローザの悲鳴が響いた。アルスの身体は、カンダタの1メートル手前で見えない壁にぶつかったかのように勢いよく跳ね飛ばされ、10数メートル後方の床に叩きつけられていた。
「運がいいな、あんた」
 いつの間にか塔の床に突き刺さっていた見るからに重そうなオノを、右手で軽々と引き抜きながら、カンダタがいった。
 アルスにも、そして後ろから見ていたミゼラたちにでさえ、カンダタがいつオノを抜き放ったのか見切れなかった。
 カンダタが左手を振り上げると、それを合図に子分ABCが、それぞれ剣と盾を手にして身構えた。
「くるわよっ!」
 囁く様な、それでいて凛と澄んだ声でミゼラがいった。そして、その言葉よりわずかに遅れて立ち上がろうとしているアルスも、カンダタ率いる盗賊団から放たれる殺気に気づいた。
「ン!?くるって何が・・・・・・!?」
 のんきな声でエルトが尋ねたとき殺気の主、カンダタ子分ABCがいきなり攻撃を仕掛けてきた。
「まずは男2人とあの戦士の女からだ!」
 子分AがBCにいった。魔法使いとしてのローザの実力を知らない子分ABCは、先にアルスたちを片付ける作戦をとった。だが、事前に襲撃を察知したミゼラとやっとのことで身体を起こしたアルスは、敵の剣の切っ先をかわして反撃に出た。
 唯一、奇襲に成功したのはエルトを襲った子分Cだけだった。エルトはかろうじて敵の一撃をかわしたものの、「わっ」バランスを崩して尻もちをついてしまった。だが、そのときすでに、ローザが呪文を唱えていた!

 炎に燃ゆる精霊たちよ
 我に従い力となれ

「イオ!」
 イオは無数の光の球を生み出し、目標のそばで爆発させて炸裂させ炎をまき散らす。見た目は派手だが、殺傷能力はほとんどない。直撃しても、ちょっと火傷する程度で、こけおどしと目つぶし以外にはあまり役に立たない呪文である。
 杖を使ったローザの攻撃と早口の技術はすばやかった。子分Cは1発目の光の球の爆発を右に飛んでかわしたが、2発目の爆発は黄金色の鎧の胸当てに命中し、「ぐあっ!」子分Cは悲鳴をあげて仰け反った。
「よくもやったな!ラリホー!」
 やっとのことで立ちあがったエルトが、呪文を唱えた!子分Cに紫の魔力の泡が命中すると、相手の体は糸が切れたように床に倒れ込み、そのまま突っ伏して眠ってしまった。
「ざまあみろ。不意打ちなんてかけやがって・・・・・・」
 だが、のんきにエルトが意気揚々と振り向いたときには、すでにローザはもうアルスとミゼラの援護にまわろうとしていた。
 4対3がすぐに4対2になり、子分ABはジリジリと後退していく。
「下がれっ!うぬらが戦って勝てる相手ではねえみてえだ」
 カンダタの怒鳴り声が響き、子分ABは眠ったCを連れてそそくさと逃げ出した。先に地上へ飛び降りて退却したようだ。
「次は外さねぇぜ!やっつけてやる!」
 カンダタは不敵に笑うと、アルスめがけて片手でオノを振り上げながら突進した。その巨体からは信じられないほどの素早さだ。
「危ない!」
 さっそくミゼラが鉄のやりで斬りかかって、カンダタの動きを遮ろうとした!
「邪魔するな、小娘っ!」
 カンダタは無造作に鉄の槍をオノで何度も薙ぎ払い、ミゼラはその攻撃を必死に鱗の盾で何度も受け止めた!今まで戦ったどんな相手の一撃よりも痛烈な衝撃が、彼女の全身をとらえつづけていた。
「なんて力なの、こいつは」
 ミゼラは急いで距離をとると、肩で息をした。
「なかなかいい腕だな。女にしとくにゃ惜しいぜ」
 まるでカンダタは戦いを楽しむかのように嘯いた。と、「このやろめーっ!ラリホー!」
 正面からエルトが呪文を唱えた!だが、カンダタは笑い乍らエルトの魔力によってつくり出された睡魔をもたらす紫の泡から身をかわすと、エルトの脇腹を蹴りあげた。
「ぐへっ」
 エルトの体が無残に床に崩れ落ちて、そのまま動かなくなってしまった!激しい当身に気を失ってしまったらしい。
 そのときアルスが、カンダタの右にまわり込んでジャンプして斬りかかった!
 だがカンダタは、アルスの鉄の槍を簡単に受け止めた。渾身の力で斬り下ろした鉄の槍もあっさりと止められ、アルスは今更乍らこの盗賊の力の恐ろしさに身体が震えていた。
 アルスはもう1度低い姿勢から、カンダタを狙ってジャンプで斬りつけようとした。同時に、背後からミゼラが、カンダタを狙ってジャンプしていた。ミゼラの戦い方は、まるで悪役である。だが正々堂々1対1といっていられるような相手ではない。
「小癪なガキどもが!」
 カンダタのオノが、彼の両手によって一閃した。最初に、アルスの1撃を跳ね返したあの動きだった。
 真上から振り下ろされたミゼラの鉄のやりの切っ先を弾き飛ばすと、さらにアルスの鉄の槍を押さえ付ける。アルスの動きを完全に封じてしまった。最初と同様、痛恨の一撃だった!その時だ・・・・・・。
 同時に間合いを計っていたローザが、正面から渾身の力を込めて杖を振り下ろして呪文が完成する!
「イオ!」
 イオの無数の光の球の爆発が広間の闇を裂き、はじめて盗賊の巨体が揺らいだ!
「おのれっ!」
 慌てて体制を立て直そうとしたカンダタの右手を、ミゼラの鉄のやりによる鋭い突きがとらえた!
「しまった!」
 かなり重たい音をたてて、盗賊のオノが床に転がり落ちた。
 同時にアルスは手にした鉄の槍の切っ先を、カンダタの喉元に付き付けていた!
「待ってくれ!」
「ふん、命乞い!?大盗賊カンダタとあろうものが!?」
 ミゼラはカンダタにいった。エルトがやっと気が付いて、上半身を起こした。
 アルスはロマリアで国王に頼まれた金の冠の話をすると、「さあ、金の冠を返せ!」鉄の槍の刃先をさらに近づけてカンダタに命じた。
「参った!金の冠をかえすから許してくれよ!な!」
 カンダタはアルスたちに命乞いしてきた!
「ふん、誰が許すもんか!」
「そんな冷てぇこと言わないでくれよ!な!」
 アルスは大事な物を次々と盗んだ悪人を許したくなかったが、カンダタは必死に哀願してきた。しつこい命乞いにアルスはため息をつくと、「ホントにもう悪いことはしないんだな」鉄のやりを付き付けながら確認した。カンダタは何度もうなずいた。
「ミゼラ、カンダタの動きを見張っててくれ。もしなんか変な動きをしたら教えてくれ」
 アルスはミゼラにいうと、カンダタの喉元から鉄のやりの切っ先をはなした。
 カンダタはうつろな眼で大きく息をつくと、近くの床に無造作に置かれていた自分の荷物の中から、塔から持ち逃げしようとしていたお宝を次々と出し始めた。
「すごい!」
 アルスがいい、彼らは思わず目を見張った。
 珍しい細かい彫刻が施してある無数の宝石をちりばめた光輝く美しい青銅の盾、大量の金貨、傷物も含めた宝石やアクセサリー、美術品エトセトラエトセトラ・・・・・・さまざまなお宝が荷物の袋から出てきた。
 今までカンダタが盗んできた品は、いずれも高価で名のあるものばかりだった。そして、ここに入っていたものは、それらのなかでも特にカンダタが気に入ったものばかりだった。どれも、闇商人を通じて金に替えれば、一般人ならば思いっきり贅沢な暮らしができるだろう。
 そのとき、ローザが声をあげた。
「あった!これだわ!」
 ローザは、美しいルビーのペンダントを手にして眼を輝かせていた!なんの変哲もないただのペンダントだったが、ローザの両親をつなぐ大事なものだ。
「金の冠もあるぞ!」
 エルトの指差した先に、純金製の王冠が光輝いていた!アルスたちは金の冠を手に入れた!
「オレのことを許してくれてありがてえ!あんたのことは忘れないよ」
 カンダタはそういうと、1瞬の隙をついて勢いよくミゼラの鉄の槍を弾いた。ミゼラが気付いたときには、鉄の槍は弧を描いて大きく宙に舞っていた。
「じゃあな!」
 さっそくカンダタはお宝を置いて、塔から飛び降りて逃げだした!
『待てっ!』
 アルスとミゼラとエルトの声がハモり、3人は慌てて追おうとした。
 だが、広間にはすでにカンダタの姿はなかった。そのとき窓の外から、遠ざかる複数の足音が聞こえてきた。3人は窓に駆寄ったが、もうどこにも盗賊団の姿はなかった。やがて、足音は眼下の広大な日が暮れた夜の闇の中に消えてしまった。
「なんで許したのよっ!ロマリア王の前に引き立ててやろうと思ったのに!」
 くやしそうにミゼラはアルスにいって、舌打ちをした。
 3人の背後で、ローザは何も言わずにペンダントを大事に両手で握りしめていた。ローザの眸から、涙が零れて頬を伝った。その涙はやっとルビーのペンダントを手にした嬉しさなのか、それとも見知らぬ両親へ思いを慕っているのか、3人にはわからなかった・・・・・・。
 シャンパー二の塔から飛び降りて脱出したアルスたちは、ロマリアへ帰ることにした。アルスとローザがそれぞれミゼラとエルトの移動を担当し、呪文を唱えた。
『ルーラ!』
 アルスとローザの呪文でその夜、彼らはカンダタが置いていったほかの盗品も一緒に、ロマリアに持ち帰った。
「おお!アルスよ!よくぞ金の冠を取り戻してきてくれた!」
 金の冠を見た国王は、涙を流して喜んだ。またほかの盗品は被害届と照らし合わせながら元の持ち主に返すと約束してくれた。
「アルスよ。大事な話がある。近う寄れ・・・・・・」
 国王はアルスを耳元に呼ぶと、こう囁いた。
「そなたこそ真の勇者、一国の国王としても相応しい人物じゃ!というわけでどうじゃ?わしに代わってこの国を治めてみるつもりはないか?そなたが望むならば、すぐにでも王位を譲ろうぞ!」
 アルスは驚いて国王を見た。以前ロマリアに来た時、こういわれたことがある。この国の王様はものすごくお調子者だから気を付けろ。
「そんな滅相もない!」
「冗談じゃよ・・・・・・。それよりな・・・・・・」
 国王は笑っていったが、辺りの側近たちの顔色をうかがうと、ふたたび囁いた。
「宿屋の大通りを挟んで向かい側、城下町の南西に武具屋と道具屋の看板のかかった店がある。深夜にそこの入り口の前で待っておれ・・・・・・」
 意味がわからず、アルスはきょとんとした。
 店の場所は、以前装備を整えるために来たことがあるためすぐにわかった。深夜、アルスたち4人は約束の店の前に行くと、いきなり貴族風の中年男に馴れ馴れしく声をかけられた。アルスたちが戸惑っていると、その男は、「わしじゃよ」と、笑った。彼らは驚いた。よく見ると、なんと国王が変装していた。だがその恰好は、世間一般の感覚だとちょっとずれてる変な恰好でもあった。
「ついて参れ。人間誰でも、たまには息抜きが必要じゃよ」
 国王はそういってさっさと店の中に入ってしまい、アルスたちは意味も分からぬまま後をついていった。
 国王が連れていったのは、店の地下の格闘場だった。かつての闘牛場だが、今では金を賭けて魔物を戦わせている。
 この夜、国王は賭けに参加した10試合すべてを的中させ大量の金貨を手に入れた。
 国王は、金貨の入った革袋をアルスに渡した。
「これは餞別じゃ」
 アルスたちは唖然として、笑いながら入り口に向かう国王の後姿を見ていた。

あとがき
カンダタ戦です。
今回は兎に角カンダタの強さが少しでも伝われば、と思います。
最初は金の冠を取り戻したその後は次回にしようと思っていたんですが、私の妄想力不足でどうしても分量が足らず、少しだけ入れてみました。
この後をちゃんと書くのかは次回の分量しだい(省略気味でも書く予定ですが)。
次回はノアニールやアッサラーム。
どちらかというとアッサラームの方がメインです。
あとアッサラームと言えば、あれもやる予定です。
ぱふぱ・・・(以下略)。
※次回は10月1日更新予定です。
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ともちん

カンダタ強いですよね。
ここを乗り越えることで
以降の旅への力をつける
…のかもしれません。

いよいよアレが…
楽しみにしています!
by ともちん (2014-09-08 15:14) 

あばれスピア

ともちんさん
ゲームでやると、いつもカンダタ戦は緊張します。
痛恨来ないでー!
みたいな。
アッサラームは大したことないとは思いますが。
「アレ」やります(笑)。
by あばれスピア (2014-09-09 00:12) 

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