9 バラモス城(6) [DQ3-2]

9 バラモス城(6)

「よくぞここまで来れたな、小僧どもよ!だが、この城に侵入したからには、生かしては帰さんっ!」
「黙れっ!」
 アルスが叫んだ。
 バラモスがやってきた異空間はルビスが創造した新世界かもしれない。もしそうだとしたらその世界もバラモスに支配されていることになります。・・・・・・といった竜の女王の言葉を思い出して、アルスは先ずそのことを確かめようと思った。
「ギアガの大穴はどこへつながっている!?精霊神ルビスが創造したという世界か!?」
「いかにも!」
「なにっ!?」
「それならバラモス!ルビスが創造した世界は今どうなっているの!?」
 今度はミゼラが叫んだ。
「あの世界なら、とうの昔に暗黒と闇の世界に姿を変えておる!限りなき悲しみと絶望に満たされてな!」
 アルスたちは思わず顔を見合わせた。竜の女王の不安が適中した。
「19年も前のこと!ルビスをとらえ、2度と動けんよう呪いで異世界の北東の塔に封印したんじゃ!そして、あの世界を支配下に置いた!」
「許さないっ!そして、おまえ達の野望もこれまでだっ!」
 アルスは稲妻の剣を握り直し、間合いを取り乍ら叫んだ。
「ふっふっふ!愚か者どもよ!わしにかなうとでも思っておるか!この大魔王バラモス様に逆らおうなどと身の程をわきまえんものたちじゃな。ここに来たことを悔やむがよい。ふたたび生き返らぬようそなたらの腸を喰らいつくしてくれるわっ!」
 双眼を怪しく輝かせ、魔王はその両腕をアルスたちに向けた。
「来るぞ!」
 アルスが叫んだとき、すでにバラモスは相手の中心部に向かって魔力を集中させ、しゃがんで右手を高く振り上げ素早く呪文を唱えていた!
「イオナズン!」
 バラモスが腕を振り下ろすと空間に凄まじい速度ですでにいくつもの光の球が生成されていた。さらにバラモスはしゃがんで右手を高く振り上げた。こんなに素早く次の攻撃に転じるなど人間の動きでは考えられない素早さだった。
 エルトは間一髪光球をかわしたが、ジャンプしたミゼラの真下で光球が炸裂し、吹きあげた青白い炎にミゼラは悲鳴をあげた。そしてバラモスはミゼラに向かって腕を振り下ろして鋭い爪でつかむように攻撃した。
 肉と髪の焦げるキナ臭い匂いが鼻をついた。
「ベホマ!」
 だが、アルスが呪文を唱えると、なんとか着地したミゼラの身体に柔らかな魔力の白い強い光が流れ込み、火傷とケガが見る見るうちに回復していった!
「ありがとねアルス、死ぬかと思ったわよ」
 ミゼラはドラゴンキラーを構え直すと巨大な魔王に向き直り、一気に間合いを詰めた。
「滅びろっ!」
 必殺の気合を込めて振り下ろしたミゼラのドラゴンキラーが魔王の緑のローブに触れた。
 寸前・・・・・・バラモスの姿は忽然と消えていた。
「この程度の動きも見切れんとはのう、ようこのわしを倒そうなどと考えたもんじゃ!」
 ハッとして振向いたアルスたちの背後に魔王の巨体が浮かんでいた。
 アルスたちは素早く散開すると4方から同時に攻撃に転じた。
「ええいっ!」
 ローザが放った理力の杖の攻撃がバラモスの身体を狙い、アルスの稲妻の剣がその後を追うように顔面をとらえた。が・・・・・・バラモスはまたしても姿を消してしまったのだ。
「気を付けろ!どこから来るかわからないぞ!」
 アルスが叫び、彼らは背中合わせの密集陣形になって辺りの気配を探った。
「まだわからんか!おまえ達の力では、わしの身体に髪の毛ほどの傷をつけることもかなわんわ!」
 声はアルスたちのはるか頭上の、天井が闇に消えている辺りから聞こえてくる。
「来るぞ!」
 アルスの声に彼らはふたたび床を蹴って散開した。バラモスは両手を握りしめ頬を膨らませて激しい炎を吐いた!
 ゴーッ!轟音とともに頭上がさらに明るくなり激しい炎が落下した。爆発音にホール全体が振動し、熱風が円柱の間を吹き抜けた。
 続いてバラモスの巨体が凄まじい速度で落下してきた。右手の鋭い爪を真下に向け、頭から急降下してきた。と、床のほんの少し手前でバラモスはフワリと体を浮かせ、そのままエルトに向かって右手でつかみ掛かりながら突進した。
 体を捻り、鋭い爪を紙一重の差でかわしたエルトは魔王の肩に向かってゾンビキラーを突き出した。切っ先が、バラモスの緑のローブを切裂いた。
「おのれっ!」
 地響きをたてて着地したバラモスはそのままエルトに右手を高く振り上げて呪文を唱えて振り下ろした!
「メラゾーマ!」
 メラゾーマは一見少し大きめのベギラマのようだが、目標に命中したとたん炸裂し、凶悪な殺傷力を発揮する。生物に対する効果はもちろん、天井に穴を開けるなどの作業にも有効だ。ただし、木製の建造物には引火する可能性もあるので注意しなければならない。
 もともとメラ系の呪文は、武器による攻撃力のない魔法使いたちが対魔王用に開発していた呪文だった。そのためギラ系ほどではないが浄化する力を持つ呪文でもある。最初はメラのような小さな火炎しか生み出せなかったが、研究を重ねた結果巨大な火炎を生み出すことに成功したといわれている。だがある日魔族側がその研究を盗んだことで、魔族側にもこの呪文の使用者が誕生してしまったようだ。
 頭上から落とされる巨大な火炎をかわして右腕を狙って、エルトは矢継早にゾンビキラーで突きを何度も繰り出した。ゾンビキラーは何度も命中し、魔王の腕に傷を何度もつけた。だが、皮や肉が切裂かれてもバラモスはしつこくエルトを追跡した。
 魔王にミゼラがドラゴンキラーで斬りかかり、アルスとローザがエルトを援護しようと稲妻の剣や理力の杖で攻撃を繰り返したが、それでもなおバラモスはエルトを追い続けた。
 巨大な円柱をまわり、右に左に横っ飛びで飛びかわし、エルトは必死に逃げた。
「ヤツの作戦がわかった!一人ずつ確実に殺すつもりだ!」
 エルトと魔王のあとを追いながらアルスが叫んだ。
「1対1じゃ絶対に俺たちに勝ち目がないからな!」
 そう、魔王バラモスはこの人間たちをひとりずつなぶり殺しにする作戦だった。そして、エルトをその最初の目標にしたのは、単なる偶然に過ぎなかった。
 右にまわったローザが何とか敵の注意をエルトから逸らそうと、連続して理力の杖で攻撃した。同時にミゼラが左から魔王の足にドラゴンキラーで斬り付ける。
「ええい!ちょこまかと小賢しい!」
 魔王は苛立ち、しゃがんで右腕を高く振り上げて連続して呪文を唱えて振り下ろして来た!
「メダパニ!イオナズン!」
 相手の頭を混乱させて、誰が自分か味方か敵かわからなくしてしまう呪文を避けたローザは、イオナズンを魔法の盾でなんとか耐えようとしたが予想外の高熱に気絶しそうになった!複数の光球本体を危うく避けたミゼラは起こった大爆発の余波で跳ね飛ばされ、円柱の1つに背中から激突した!
「ミゼラッ!ローザ!しっかりしろ!」
 ミゼラとローザを抱えたアルスは安全な場所まで移動すると、懸命に回復呪文を施した。
「ベホマ!ベボマ!」
「さあ!邪魔者は片付いたぞ!今度こそ貴様があの世にいく番だ!バシルーラ!」
 ルーラを応用して突風を起こし目の前の相手を遠くへ吹き飛ばす呪文だ。しゃがんで高く掲げた右手を振り下ろして繰り出されたバラモスのバシルーラの突風が頬をかすめ、エルトは大きく横っ跳びで飛んだ。
 次の攻撃に備えて体勢を立て直すつもりだった。ところが、「うわたぁっ!」着地したとたん右足が滑りエルトの身体は横転した!最初にエルトのゾンビキラーがつけた傷から流れた魔王の体液が床にこぼれていた。
 足首に鈍い痛みが走り、エルトは必死に体を起こそうとした。
「さあ死ね!イオナズン!」
 勝誇ったバラモスの顔が目前に迫り、しゃがんで右手を振り上げると空間に生成された光の球が集まり出した!
 光の球は数えきれないくらい生成され、そして空間の中心部に集まり、それにつれて光の球自体も膨張していく。魔王が右手を振り下ろすと同時にイオナズンの光の球が一条の光を放ったかと思うと大爆発を起こした!
 避けられる距離ではなかった。そのとき、観念して目を閉じたエルトの体がふっと動いた。
 アルスのベホマで回復したローザだった。飛び出して来たローザはエルトの体を抱いて床を転がりなんとか大爆発から逃れようとしていた。たった今までエルトが倒れていた位置でイオナズンの光の球が爆発し、無数の小さな火の粉が飛び散った。
 だが、ローザが飛出すのと前後して放たれたアルスの翳した稲妻の剣から迸った稲妻がすぐにその火の粉を吹き払った。
「おのれっ!」
 怒り狂ったバラモスはローザとエルトに右手でつかみ掛かろうとした。と、「あたしを忘れてもらっちゃ困るわ!」足首に激痛を感じて振り向いた魔王の目に、やはりアルスのベホマで回復してドラゴンキラーを手にして攻撃を加えたミゼラが映った。
「貴様等!わしのイオナズンを食らい乍らまだ動けるのか!?」
 魔王は苦痛に顔を歪め、忌々しげに叫んだ。
「世の中にはなぁ回復呪文っていうものがあるんだ!たとえどれだけの傷を負わされたって俺がいる限りすぐにもと通りにしてみせる!」
 ミゼラの横にたったアルスが得意気に叫んだ!
 だが、アルスは内心、このハッタリにバラモスが騙されるかどうか危ぶんでいた。ミゼラとローザの火傷を治すため、連続して唱えたベホマでアルスの魔力は限界以上に消耗していた。もともとアルスはローザやエルトと比べて魔力が少ない。この状態ではベホイミ、いやホイミを唱えるのすら難しいだろう。
 魔王が一撃で勝負を決めようと、人間を一発で即死させようとすれば必ず隙が生じるはずだ。そこを逆手にとってみんなが攻撃してくれればまだチャンスはあると考えた。だが、この作戦はアルスにとって命懸のものだった。
「おろかものめ!まだこのバラモス様の逆らおうというのか!身の程を弁えんにもほどがあるぞ。ふむまあよいわ。何度来ようとムダなこと。このバラモス様がどれほど偉大かを思い知らせてくれるわっ!ならば望み通り一撃で冥府に送ってくれるわ!」
 アルスの挑発に乗ったバラモスは目標を変えてアルスとミゼラに向かってしゃがんで右手を振上げた。
 その巨体からは信じられない、敏速な動きだった。つかむように右手を振り下ろすと鋭い爪が空を切り、風圧で生じた真空の渦が身体を捻って逃れようとしたアルスの肩を切裂いた。と、アルスの刃の鎧の刃の1つがバラモスの体に突き刺さり、一瞬バラモスの動きが止まった。
 敵の体勢が低くなったのを機にミゼラがジャンプし、魔王の頭上を襲った。同時にエルトがゾンビキラーで突きかかった。エルトのゾンビキラーは見事に足首を斬り裂き、ミゼラのドラゴンキラーは魔王の額に突き立った!
「おのれよくもこのわしを・・・・・・」
 バラモスは凄まじい形相でアルスたちを睨み付けた。
 エルトはパンッと両手を胸の前で合わせると、ゆっくりと広げた手のひらの間に光球を生み出した!足首にそして全身に痛みが走り、疲労は吐き気を催すほどに高まっている。
「ベギラゴン!」
 ゴオッ!渾身の力を込めて光球を投げつけてぶつかった魔王の胸を中心に炎が炸裂した。創造神の力を借りて浄化の力の込められた炎に焼かれた緑の衣から煙があがる。バラモスはアルスを睨むと額に刺さったドラゴンキラーを引き抜き、高々と振り翳そうとした。
 だが、そこまでだった。ドラゴンキラーを抜いたとき、怒涛のように体液が堰を切ったように流れ出し、あっという間にバラモスの周囲に体液が流れ落ちた。
「うっ・・・・・・!」
 バラモスはさらに醜く顔を歪めた。
 と、バラモスの手からドラゴンキラーが滑り落ち、乾いた音をたてて床に転がり落ちた。アルスたちも満身創痍で立っているのさえやっとだったが、バラモスにも反撃する余力は残っていなかった。あとはとどめを刺すだけだった。
「うっ・・・・・・ぐうっ・・・・・・おのれアルス・・・・・・わしは・・・・・・あきらめ・・・ぬぞ・・・」
 ミゼラが素早くドラゴンキラーを拾うと、「そういえばあいつは!?」ローザがバラモスに向かって叫んだ。
「あの八岐大蛇に似た相手はどこなの!?いるの!?」
 ローザはバラモスと戦う前に必ずサマンオサで出現したキングヒドラが立ちはだかってくると思っていたが、いっこうに姿を見せないのを不思議に思った。
「あいつが・・・いない・・・だと?」
 とたんに驚いたバラモスが苦しそうに喘ぎ乍ら顔色を変えた。どうやらバラモスにも予想外の出来事のようだ。
 するとバラモスが何か答えようとした次の瞬間、・・・・・・部屋の空気が一気に凍えるように冷え込んだかと思うと、天井から吹雪が渦を巻きながら凄まじい勢いでバラモスの頭上に吹きかかった。
「うっ・・・・・・!?何故に・・・・・・!?なんと・・・・・・!?しかし・・・・・・!」
 氷の彫像のように凍り付いていくバラモスの表情は愕然としていた。自身に起こっている出来事が信じられないようだった。アルスたちにはそれがなぜか今は全くわからなかった。
 バラモスの顔はなんともいえぬ悲しみに満ちていた。と、「ガオオオオオッ!ぐふっ!」断末魔の叫びとともに凍り付いたバラモスの巨体が幻のように揺らぎ光始めた。
 その光に、アルスたちは思わず目をこらした。どんどん、バラモスの姿がまともに見えづらくなっていった。
 が、やがて凍り付いたバラモスの巨体がさらに揺らぐと、粉々になって、幻のように飛び散った。
 バラモスが消えると部屋の空気は熱くも冷たくもない普通の空気になっていた。あの凍えるような吹雪は一体何が?だが、アルスたちはそんな疑問はすぐに忘れてしまった。すぐに彼らに別の出来事が起こったからだ。
 暖かい光が辺りを包む・・・・・・。アルスたちの体力と魔力が回復した!どこからともなく声が聞こえる・・・。
「アルス・・・私の声が聞こえますね?」
「あなたは?」
 アルスは声の主に尋ねた。どこかで聞いたことのある声だった。アルスは必死に思い出していた。
「あなたたちはほんとうによく頑張りました。さあお帰りなさい。あなたたちを待っている人々のところへ・・・・・・」
 やっと思い出した!だがそれを言う前にアルスたちの周囲がぼやけ始めた。ミゼラやローザ、エルトは旅の扉とも違うはじめての経験で不安に辺りを見回していたが、アルスには覚えのある経験だった。やがてぼやけた景色がもとに戻り始めると、そこは彼らに見覚えのある場所だった。
「ここは・・・・・・」
「アリアハン!?」
 ミゼラやエルトが驚いていった。そう、そこはアリアハンの城下町の手前だった。ちょうど夜が明けたばかりで、太陽が昇りはじめていた。どこかアルスがミゼラやエルトとはじめてアリアハンを旅立った日の朝に似ていた。
「アルス、あの声の人が誰か知ってるの?」
「ああ、あれは・・・・・・」
 ローザの問いにアルスは知っていることを話した。アルスが16歳の誕生日を迎える日に見た夢。アルスが世界のどことも知れない美しい森の奥から見渡す巨大な滝。その夢で聞いた不思議な声はアルスたちがバラモス城で聞いた声と同じだった。その声の主はアルスに会えるのを楽しみにしているといっていた。
「ずっと夢の中の出来事だと思ってたんだ」
「でもアルスの夢に出てきたり俺たちを送ってくれたってことは敵じゃないってことだな」
 少なくとも、アルスたちの体力などを回復させた辺りを包んだ暖かい光は不思議な声の力だろう、とエルトは思った。
「さあ、アリアハンに戻ろう!」
 アルスがいってミゼラたちがうなずくと、彼らはアリアハンに向かった。
 城下町に入ると街の人々がすでにアルスたちの帰りを待っていた。
「!おおっアルスが帰ってきたぞ!」
「勇者だ!勇者がバラモスを倒して戻ってきた!」
「わーい!」
「・・・これで平和がやってくるんじゃな・・・・・・」
「お疲れ様・・・・・・そしてありがとうアルスさん!」
 街の人々に出迎えられて、アルスたちはやっとバラモスを倒した実感がわいてきた。不思議な声が以前は夢の中の出来事だったこともあって、バラモスを倒したことが実は夢だったらとちょっと不安だったのだ。
 城に行く前に、アルスはミゼラたちを連れて家に行った。
「ただいま、母さん、爺さん」
「アルスくらい立派な勇者はおらん!このじいの孫じゃ!」
「お帰りなさいアルス。母さんはうれしくて・・・・・・。今のおまえの姿を父さんに見せたかったわ。ああアルス・・・・・・」
 母と祖父が喜んでいるのを見て、アルスもうれしかった。挨拶もそこそこに、アルスたちは城に報告に行くことにした。
 だが城へ向かうアルスたちも、アリアハンの、いや世界中の人々もあることを見逃していた。バラモス城の方角からだんだん黒い雲が急速に世界中に広がってきていることに。
 城の謁見の間では、玉座への道に城の兵士たちが向かい合って列を作っていた。アルスたちが玉座の前に進み出ると、大臣と玉座にすでについていた国王が待っていた。
「おおアルスよ!よくぞバラモスを打倒した!さすがオルテガの息子!国中の者がアルスをたたえるであろう。さあみなの者!祝いの宴じゃ!」
 アルスたちは玉座の前方を振り返った。部屋の中の誰もが笑顔を浮かべていた。列を作っていた兵士たちが懐から角笛を取り出す。彼らによって国歌の角笛のファンファーレが鳴り響こうとしていた。
 だが曲が2小節半ほど演奏された次の瞬間、・・・・・・一気に空が暗闇におおわれたかと思うと、ズズズーンッ・・・・・・突然床が抜けたかと思うような地響きとともに城の床から渦を巻きながら複数の巨大な鋭い氷の刃が凄まじい勢いで兵士たちの体に突き刺さった。兵士たちが逃げる間もなく、断末魔の叫びすらあげられず凍った兵士たちの体が氷とともに四散した。
「何事じゃ」
「これは一体」
 国王と大臣は驚き慌てた。そのときだった。
「ふっふっふ・・・・・・わははははははっ!歓びのひと時に少し驚かせたようだな」
 不気味な笑い声がはるか頭上の城の天井にこだまし声の主が仮の姿を現した。
「なんだ!?」
 アルスがいい、ミゼラたちも驚いた。
「何者だ!」
「わが名は、魔族の大王、ゾーマ!」
 アルスへの答えはおどろおどろしい低い声で、ゾッと背筋が凍るような恐ろしさと威圧感があった。
「なにっ!?どういうことだ!?」
 アルスが思わず頭上の闇の仮の姿に向かって叫んだ。何が何だかすぐには理解できなかった。
「バラモスなら滅ぼしたじゃないか!?」
「わが名はゾーマ。闇の世界を支配する者。バラモスは単なるわしのしもべのひとりにすぎん。わしこそが真に現在の魔族を統率している大魔王!」
 謁見の間の生きている人間たちは一瞬自分たちの耳を疑った。大魔王というその圧倒的な強さを感じさせる肩書の響き。バラモスの背後にバラモスを操っている者がいるとはこの世界に生きる普通の人間たちなら誰も気が付いていなかったから当然だろう。
「あの時お前たちが気にしていた相手、キングヒドラならこちらの異世界に来ておる!キングヒドラはバラモスの同僚、やつらはわしの忠実なるしもべである!バラモスのことはキングヒドラから一部始終報告を受けておる!バラモスへの援軍として送り込んだが、それにしてもバラモスともあろうものが、そのような若造すら始末出来ぬとはのう!見損なった!異世界でのバラモスの働きを認め、この世界を任せたのが間違いだったようじゃな!わしとの約束が果たせん以上、最早バラモスの存在は不要!」
 アルスたちはただ呆然と聞いていた。あのオルテガを倒したというキングヒドラがバラモスと同僚だったというのもまた衝撃だった。
「若造どもよ、良くぞここまでやった!どうしても、わしを倒したくば、暗黒の闇と混沌の異空間にわたる時空の穴を抜けて、わしのもとに来るがいい!このわしがいる限りやがてこの世界も闇に閉ざされるであろう。さあ苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び。命ある者すべてをわが生贄とし絶望で世界をおおい尽してやろう。わが名はゾーマ。すべてを滅ぼす者。そなたらがわが生贄となる日を楽しみにしておるぞ。はっはっは!わははははははっ・・・・・・・・・・・・!」
 ゾーマの仮の姿が消え声が聞こえなくなると、地響きがまだ続いていた。どうやらさっきの出来事は、地響きの間に謁見の間にいた人物たちがゾーマの力で周囲と時間を切り離して体験したことのようだ。地響きがおさまると部屋の空気は以前と同じ温度を取り戻し、空ももとの天気に戻っていた。だが、当然氷の刃を受けた兵士たちの姿はもうどこにもなかった。攻撃手段は少し違うが、バラモスにとどめを刺した特技と兵士たちを攻撃したのはゾーマに違いない。
「なんとしたことじゃ・・・・・・。やっと平和が取り戻せると思ったのに・・・・・・。闇の世界が来るなど、みなにどうしていえよう・・・・・・。アルスよ、ゾーマのこと、くれぐれも秘密にな・・・・・・。もう疲れた・・・・・・。さがってよいぞ・・・・・・」
 ゾーマの登場に、国王はすっかり力をなくしてしまったようだ。一般人にはバラモスでさえ恐ろしい相手だ。その背後にいる相手を倒すことが出きるなど考えられなかった。そしてこれこそゾーマが欲する苦しみでもあった。
 アルスたちは城の外に出て空を見上げた。いつも通りの晴れた空だったが、どこか薄暗く感じる気もする。あの場にいなかった人々は、バラモスが滅んだことによる平和な日々を今も疑うことなく送っていた。そんなところにまだ大魔王がいるなどと説明して平和な時間を壊すことがアルスたちも出きるはずがなかった。たとえそれが大事な家族であったとしても。
 アルスたちがアリアハンの人々に知れずに外に出るとすでにラーミアが待っていて、アルスたちはラーミアに乗りながらすでにゾーマのいる異世界に向かう決意をしていた。バラモスの背後にゾーマがいることを知った以上ゾーマを滅ぼさなければこの地上にも異世界にも真の平和がやってこない。ゾーマがいった暗黒の闇と混沌の異空間にわたる時空の穴とはギアガの大穴のことだろう。アルスたちはバラモス城の東の島にあるギアガの大穴を目ざして飛び去るころ、すでに太陽が高くのぼっていた・・・・・・。バラモス城の東の中央の低地に巨大なギアガの大穴が暗黒の口をポッカリと開けていて、ちょうど1つの城が城郭ごとすっぽり入るぐらいの大規模なものだった。大穴の近くに竜の女王によって派遣された兵士が一人慌てふためいていた。
「大変だ!ものすごい地響きがして罅割れが走ったんだ。何か巨大な者がこの大穴を通っていったようなんだ!そして私の相棒がこの中に・・・・・・ああ!」
 ゾーマが通っていったのは間違いなく、ラーミアは大穴のそばの崖にアルス達をおろすとふたたび翼を優雅に羽搏かせながら上空に舞上った。別れの時が来て、ラーミアは上空を旋回するとやがて東の空に飛んでいった。ラーミアの美しい姿を名残惜しそうにローザが見送り、エルトもミゼラも同じ思いで見送っていた。ラーミアと行動をともにしたのはわずか3日半だったがずっと長く旅を続けてきたような親しみを感じて、アルスは不思議な気持ちにとらわれていた。昔同じような体験をどこかでしたような懐かしさがふっと記憶の片隅に蘇ったが、いつのころだか定かではない。いやそれこそ夢でも見たかもしれないが、はるか遠い昔どこかでラーミアの背に乗って飛んだりともに戦ったことがあるような気がした。また同じような別れをしたことがあるような気がして、アルスたちはラーミアに感謝しながら姿が見えなくなるまで見送ると足元の大穴を見た。
 漆黒の闇の中で不気味な気流が渦を巻いていた。アルスはローザの手を力強く握りしめるとローザと一緒に漆黒の闇に飛込みさっそくミゼラとエルトもあとを追った。アルスたちは全身が押しつぶされるような激しい重力を感じると一瞬のうちに闇に消えた・・・・・・。

あとがき
バラモス城での戦いその他です。
今回は内容の半分がバラモスとの戦いその他になってしまいました(苦笑)。
以下、バラモスとの戦い初体験の時の自分のプレイの思い出です。
僧侶を早めに賢者に転職させたため、回復呪文がベホマラーもベホマもない状態。
城を進んでいくときに偶然勇者がベホマを覚えたんですが、戦士と同じく大事な攻撃の要、あんたが回復呪文覚えても意味ないんだよ!
しかも賢者は虚弱体質でよく死ぬんで、魔法使いに世界樹の葉持たせて挑みました。
戦いが始まり、一時的にパーティが崩壊しかかりましたが、なんとかしのぐ。
でも魔法使いが先に死んでしまい、葉っぱ持たせた意味ねー!
でも3人になったおかげで、誰に回復呪文を使ったらいいかがわかりやすくなった(私がDQやるとき、よくあるんです)。
そして賢者も死んでしまいましたが、体感的にはもう少しでいけそうな気がしていました。
この1ターンで倒せなかったら全滅、というギリギリの時で倒せました。
おかげで、回復呪文がベホイミだけでも持つことが証明されました(笑)。

ところでDQ3ってゲームとしては長い方なんですかね?
はじめてプレイした人がバラモス倒したあとの体験をすると、まだあるのか・・・って思う人もいるみたいで。
私としては、思い入れのあるメンバーとまだもう少し冒険出きるというのが嬉しいんですけどね。

次回はあっちの世界での話にいきます。
そういえばサブキャラのみなさんはどうしてるんでしょうかね。
第2部、そろそろクライマックスです。
※次回は1月1日更新予定です。
nice!(4)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ゲーム

nice! 4

コメント 2

ともちん

今回はまとめ読みもできずに
自分的には悔しい思いをしました。
全部読めてホッとしています。
戦闘中のエルトの状況など
臨場感があってハラハラしながら
読ませてもらいました。
次回までに体調を整えて
しっかりと読ませてもらいますね。
by ともちん (2015-12-12 01:28) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
いつもありがとうございます。
読めたようでよかったです。
私のゲームでの実際の戦闘も、ハラハラものでした。
お大事にしてください。
by あばれスピア (2015-12-12 22:14) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

9 バラモス城(5)マリオの職業 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。