6 王者の剣(1) [DQ3-3]

6 王者の剣(1)


『トラマナ!』
 ローザとエルトの声がハモった。広間を脱出したアルスたちは、トラマナの魔力に守られて、バリアに囲まれた謁見の間に入った。しかしそこには、中央に敷かれた真赤な絨毯の上に玉座が二つあるだけで、一見ほかには何もなさそうに見える。アルスは、以前リムルダールで聞いた話を、深く思い出した。
「大魔王の城の、玉座のうしろには、秘密の入口があるらしいぜ。まっ、どうせおれの話など、誰も信じちゃくれないがな」
 嘘ばかりついて、とらえられたという、囚人の話だ。それを信じて、アルスたちはくまなく、周辺を調べてみた。なんと、バリアのなかに、本当に隠し階段が見つかった!アルスたちは、その階段を下りて、地下をどんどん進んだ。城が、不気味な造りになっているのは、さすがゾーマの城。この世界の、闇の中心地にふさわしかった。迷路のような地下通路を通り、いくつもの階段をおりていった。地下2階には、ルビスがとらえられていた塔でも見かけた回転床が、大量に仕掛けられていた。
「なんだ、こりゃあ!」
 回転床を見て、アルスは思わず声をあげた。進むとき間違って、近くにあいたいくつもの穴に何度も落ちたりした。しかし、アルスたちはさらに下へ続く階段のある部屋に、やっと進んだ。
 それだけでなく、ここまでの道のりは、なかなかスピードが上がらなかった。エルトがグラップが大丈夫か心配して、時々、後ろを振り返ったりするからだ。その証拠に、ホールを抜けてからここまで、アルスたちは1匹の魔物とも遭遇せずに、ずっと進んできた。つまり、グラップがいうところの雑魚キャラは、みんなあのホールに固まっていたということだ。エルトを、ミゼラが励ましつつ、彼らは先を急いだ。
 それにしても、オルテガは、どこにいるのか。ここまで、何の手がかりも、つかめなかった。オルテガは、この城に行く方法を知らなかったというが、本当に海の藻屑となったというのか。確かに、この城のある島まで、リムルダール地方から泳いで渡ろうとしたなら、普通の人間にはまず不可能だろう。ここまで全然会えないと、アルスたちもだんだん、不安になった。
 だが、オルテガは生きていた。世界に光を取り戻すために、どうしても、死ぬわけにはいかなかった。実は、アルスたちが推測したよりもはるかに速いスピードで、オルテガは先に進んでいたのである。
「きっと、オルテガさんは、城のうんと奥だ!」
 エルトが、いった。アルスたちは、オルテガに会えることを信じて、奥へ向かって急いだ。今頃どこかで、戦っているかもしれない。オルテガが、この城で、生きているかもしれない・・・・・・そう思うだけで、アルスは勇気が湧いてきた。そのせいで、自然と足が早まった。途中、わずかな休憩を取るだけで、ずっと歩き続けた。とにかく、一刻も早く、オルテガに追いつきたかった。
「ねえ、待ってアルス!早すぎるわ!」
「気持ちはわかるけども、俺たちの足のことも考えろよ!」
 よく、ローザとエルトが、遅れがちで、ついていけなくなることもあった。しかし、時が時だけに、彼らは必死に、アルスとミゼラのあとを追った。最初は、ローザの歩調に合わせていた。だが、気持ちが急いてつい足が早まってしまう。
 彼らは、走った。城の地下へ、さらに深くへと。その結果、アルスたちは、確実にオルテガとの距離を縮めていた。
 最終的に、アルスたちの疲労は、極限に達していた。しかし、オルテガに会えるかもしれないと思うと、全員心は踊っていた。そして城の奥深くに踏み込んでいき、地下4階を進んでいくと、やっとオルテガに追いついた。しかし・・・・・・!
 地下4階は、目の前に地底の湖が広がっていた。そこは、地底の大空洞になっていた。地下4階といっても、今迄よりも、5倍は長い階段だった。ごく普通の階数にして、地下7階ほどの深さを進んでいるともいえる。アルスたちは、扉を開いて先に進み、休憩するのに適当な場所を探していた。すると、だれかが武器で、戦闘している音が聞こえてきた。戦いの振動に合わせて、地底湖の水面が、激しく揺れていた。音の聞こえた、大きな長い石造りの橋の先の、大きな神殿らしい建物に入ろうとしたところで、アルスたちは思わぬ光景に出くわした。
「これは・・・・・・!」
「あれは、まさか!」
 ミゼラが、エルトがいった。なんと!ひとりの男が、怪物と戦っている!
 男と怪物が、睨み合っている!男が、斧で相手に、ジャンプ斬りで直接攻撃した!怪物の繰出した攻撃を、男は、いとも簡単にかわした!

 空と大地を渡りしものよ
 永久を吹き行き過行く風よ
 盟約の言葉に拠りて
 我に従い力となれ

「バギクロス!」
 バギクロスは風の力を高め、一気に解放する呪文だ。高圧力の強風が、術者の前方に向て吹き荒れ、敵味方を問わず吹き飛ばす。その威力は、巨大な丸太をも吹き飛ばすほど。直接ダメージを与える呪文ではないが、その威力は絶大である。
 男が呪文を唱えると、猛烈な真空の渦が、岩を飛ばしながら怪物を襲った!真空の渦を受けた怪物は、激しい炎を吐いた!!暗闇に隠れて、相手が誰だかわからないが、床に立った巨大な怪物が、1度に複数もの激しい炎を、斧を装備した男に吐き付け、激しく燃やそうとしていた!!
「べホマ!」
 男の傷が、見る見るうちに、すべて回復した!そして、怪物の繰出した直接攻撃を、ジャンプでぎりぎりのところでかわした!
「ライデイン!」
 ライデインは創造神の力を借りて使用するごく初歩の雷の呪文だ。そのまま対象に命中させても、一時的にマヒさせる程度の力しかない。そのためか、この呪文は武器を媒介にして、その刃から相手の体内に直接叩き込むことが多い。慣れてくると突き出した手のひらから一条の雷を放ち、単体の目標を攻撃する呪文になる。強化版となり、これを食らったらまず生きてはいられない、殺傷能力の高い呪文。威力が高ければ、命中した目標が発火することもある。
 男が、呪文を唱えた!動きを止めた怪物の目に、床にうごめく自分の影が映り、風もないのに、地底湖の水面がゆらゆら揺らいでいるのに気が付いた。神殿の天井に、墨を流したような黒雲が渦巻き、黒雲のなかに、稲妻が光るのを見た。凄まじい稲妻が、鋭く闇を切裂いて、怪物を直撃した。ライデインの電光が、神殿のなかを真昼のように照らすと、稲妻は怪物の全身を駆巡り、怪物の体が焼けるキナ臭いにおいが神殿に充満した。
「ギャォォォォッ!」
 デイン系の呪文を正しく使うことができるのは、選ばれし勇者の一族のみといわれていて、勇者の存在を示すためか使いても少ない。人間が使える中で、1番簡単なライデインでも、ダメージだけならごく普通のメラミ並みの威力がある。そして攻撃呪文のなかに含まれる魔族に効果のある成分も非常に高く、一種の浄化効果もある。どうも魔族らしい怪物は、その攻撃に声をあげた。それでも、怪物は男に直接攻撃し、男は、それを横っ跳びでかわした!だが、その隙に束になった灼熱が、男の首や腕や手首や足に吐きかけられて、男は倒れ今にも体が焼焦げそうだった!!
「ベホマ・・・・・・」
 男は、倒れたまま、呪文を唱えようとした!しかし、魔力が足りない!ここにたどり着くまでに、とうとう最後の魔力を、使果してしまったらしい。男は、必死に立上り、よろめきながら相手と向き合おうとしたところに、怪物は燃え盛る火炎を吐いた!火炎の息を受けて、再び倒れ血の気の失せた男の顔は、死人のそれのように、すでにどす黒い土色に変色していた!!だが、どれほどの時間を戦っていたか、怪物も男の直接攻撃やさまざまな呪文によって、すでに無数の傷を負っていた。全身を無残に斬り裂かれたり、焼焦げたり、かなり弱った状態だった。
 アルスたちは、すぐにその男が誰だか、予想がついた。もうだいぶ前の出来事だが、ミゼラは、相手の顔に見覚えがあって、確信していた。
 怪物は、トドメの火の息を吐いた!怪物が、必死に全身を震わせながら、不気味な奇声を発すると、吐き出された火の息がいちだんと強くなり、「ぎゃああああっつ」男の体は衝撃で跳ね飛ばされさらに苦しみ悶えた。男は、仰向けになって、蹲った。
「父さーん!!」
 アルスが叫んで、彼らは慌てて駆けつけると、男つまりオルテガと戦っていた怪物の姿が、闇からはっきりと見えるようになった。
『アーッ!?』
 その姿に、アルスたちは声をハモらせ、一瞬自分たちの目を疑った。
 特に、ローザの衝撃が、大きかった。青褪めたまま、唇を震わせていた。明らかに狼狽え、動揺していた。こんなところで出会うとは、思いもしなかったからだ。相手は、あのキングヒドラだった。
 キングヒドラは、恐ろしい眼で、アルスたちを睨み付けた。その眼には、怒りと、あともう少しのところで邪魔された無念さが、滲んでいた。
 キングヒドラは、最初はごく普通の魔族だったが、生まれながらにして強力な力を持っていたため、ゾーマによって優秀な魔族となるよう育てられた。その後、成長したキングヒドラは、バラモスの部下の1人だったスカイドラゴンに認められ、それをゾーマも認めて彼の部下として行動するようになった。それ以来、バラモスと手がらを争ってきた。キングヒドラは、恩あるスカイドラゴンはともかく、八岐大蛇やボストロールのことは、ずっと見下してきた。2匹のいさかいを、内心楽しんでもいた。キングヒドラは、彼らが滅ぼされたことに、何の悲しみも同情もなかった。特に、八岐大蛇が嫌いだった。彼女の発言には、なぜか反発ばかりして、特にあの声を聞くたびに、いらだつことが多かった。
 5か月前・・・・・・自分の力を認めてくれた、恩あるスカイドラゴンが、オルテガに滅ぼされた。キングヒドラは、仇討ちのために、ネクロゴンド地方の火山で、オルテガと戦った。激しい死闘の最中、オルテガが、火山の火口に転げ落ちた。だから、キングヒドラは、てっきりオルテガを滅ぼしたと思った。そして、バラモスとゾーマに、オルテガの死を報告した。
 ゾーマの、キングヒドラに対する評価と信頼は、さらにあがった。キングヒドラはオルテガが、偶然ギアガの大穴につながる闇に落ち、闇の世界で生延びていたとは、夢にも思わなかった。ところが、1か月前、ちょうどアルスたちが、ラーミアに乗ってバラモス城に向っているころ、突然ゾーマに呼出された。
「この3か月の間に、闇の世界に光を取り戻すために、記憶喪失となっても体力を回復させて、わしに挑戦しようとしている者が現れた。お前が、1番よく知っている相手だ。それがだれかは、お前が直接確かめるんだな」
 それ以来、キングヒドラは、ずっとオルテガを追っていた。ゾーマの信頼を、取り戻すために、必死だった。なんとしても、オルテガを滅ぼすつもりでいた。そして、オルテガが、ゾーマの城に侵入してきたと知った。やっと、この神殿の入り口で待構え、とどめを刺したところに、アルスたちが駆け付けてきた・・・・・・。
 だが、今度こそ、キングヒドラは確信していた。いかに、強靭な肉体を持つ不死身のオルテガであろうと、もはや、死は時間の問題だと・・・・・・。また、今のキングヒドラには、アルスたちを相手に、戦う力が残っていなかった。オルテガとの戦いで、すべての力を使果し、自分もまた、瀕死の状態にあったからだ。今、立っているのさえ、やっとだった。
「ふっ・・・・・・」
 キングヒドラは、不気味な笑いを浮かべた。そして、そのまま、闇のなかに、姿を消した。
「あっ、逃げるな!」
 アルスは、叫んだが、遅かった。
「アルス!はやく、オルテガさまを!」
 ミゼラが、いった。
(続く)

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