8 朝陽(1) [DQ3-3]

8 朝陽(1)


『あっ・・・・・・!?』
 アルスとミゼラとローザの声がハモったとき、あれからほんの1秒の間に、まわりの景色が変わっていた。
『ここは・・・・・・!?』
 アルスと女たちは声をハモらせ、一瞬自分の目を疑った。
 ゾーマの居城に突然あいた床の穴の先が、どこに通じているかわからなかったが、なんと辿り着いたそこは勇者の盾を手に入れた勇者の洞窟の最深部だったのだ。
「どういうことかしら?ゾーマの城はどうなったの?」
 ローザは間違いなく、リレミトの呪文を唱えたつもりだった。だが、ミゼラがいった。
「私達、たしか崩れた城に巻き込まれて・・・・・・間違えて実は別の呪文を唱えたんじゃないの?それとも、呪文が間に合わなかったとか」
「わからない。でも、もしかしたら・・・・・・」
「もしかしたら?」
 アルスは、ふと思った。ローザが尋ねるが、アルスは答えなかった。
 俺らの知らないところで、何か別の力が働いているんではないだろうか・・・・・・?精霊神ルビスが助けてくれて、ここまで導いたんだろうか・・・・・・?いやそれとも、ゾーマの滅びと関係している・・・・・・?そうでもなければ、ゾーマの出現とともにできたという魔王の爪痕に飛ばされるはずがない・・・・・・。
「それより・・・・・・」
 アルスは、急にグラップのことを思い出した。
「あいつはどうしたんだろう!?無事だといいんだが・・・・・・!」
「大丈夫よ、きっと。あんなことで死ぬようなやつじゃないわ」
 ミゼラも心配だったが、わざと元気づけるように笑った。
 エルトは気絶したままで、アルスやミゼラやローザは歩くのさえやっとだった。また、ローザ以外の3人の顔は、血に塗れ酷く腫上っていた。
 と、小さな地響きがした。洞窟が今にも崩れようとしている。この階はもともとほかの階に比べて、造りがそんなにしっかりしていない。この場にいては、生き埋めになるのは時間の問題だった。ミゼラがエルトを背負って、ローザとともに入り口に向って必死に走った。この洞窟はもともと呪文が封じられた洞窟である。リレミトは唱えても効果がない。アルスは走る前に、痛みを堪え乍ら魔王の爪痕の前に立つと、オルテガに報告した。
「父さん・・・・・・やったよ・・・・・・。約束通り、ゾーマを倒したよ・・・・・・」
 アルスはじっと、魔王の爪痕を見詰た。
「アルス、はやく!」
 ローザの声に、アルスはその場をあとにした。
 ようやく、アルスが先に進んでいたミゼラたちに地下2階で追いついたとき、また地震が起こった。天井が崩れ、今迄きた道を通行不能にしてしまった。もう魔王の爪痕の存在した地下3階がどうなったかは、確かめるすべはない。アルスたちは、急いで勇者の洞窟から走って脱出した。
 洞窟の外へあっという間に脱出したとき、大きな地震が起こった。地面が揺れる音だけでなく、なぜか上空からも物凄い音が聞こえた。そして・・・・・・。
 空の上のほうで、なにかが閉じたような音がした・・・・・・。
「相変わらず真暗だけど・・・・・・」
 ローザがあたりを見まわした。
 ちょうどそのとき、エルトの意識がやっと回復した!だが、起上ることは出来なかった。
「ゾーマはどうなった?」
「滅ぼしたぜ、とりあえず」
 エルトが、アルスから戦いの結果を聞くと、「やったか・・・・・・ついに・・・・・・」涙を滲ませ乍らやっと声を出して、ふたたび深い眠りに落ちた。
 そのとき、「あっ・・・・・・!?」ローザが、東の空を指差して叫んだ。
「見て!あれっ・・・・・・!」
『あーっ!?』
 アルスとミゼラの声がハモり、思わず顔を輝かせた。
 東の水平線が、いつの間にか薄らと明るくなっていた。やがて、新しい時代を告げるかのように、ゆっくりとまばゆい太陽がのぼってきた。19年ぶりに、闇の世界に朝がやってきた。
「光だ・・・・・・やった!」
 思わず、アルスが叫んだ。
「闇の世界に・・・・・・光を取戻したんだっ!朝がきたんだ!」
 真黒な海が、元の世界でよく見た美しい紺碧の海に姿を変え、陽光を浴びてキラキラ輝いている。そして、見る見るうちに、元の世界で見慣れた澄んだ青空が広がっていく。その光景を見乍ら、アルスと女たちの胸にゾーマを滅ぼした喜びが、実感としてやっと込上げてきた。晴れやかな気持ちだった。アルスたちは眼を輝かせて、空と大地と海を見ていた。
 アルスたちは、洞窟のそばの砂漠に横になった。やわらかな陽光を浴びていると、全身に快い疲労感が広がってきた。
 当然だろう。今迄戦闘の連続で、疲労が頂点に達していた・・・・・・。
 と、まばゆい陽光のなかに、精霊神ルビスが半透明の美しい姿を現した。
「ありがとう・・・・・・。アルスよ・・・・・・」
 ルビスは、やさしい声で微笑んだ。
「やっとこの大地が光を取戻、平和が訪れました・・・・・・。それもすべてあなたに『勇気の力』があったからこそ・・・・・・。あなたのお母様やゆかりのある方には、あなたのことを伝えておきましょう・・・・・・。そして、ラダトームに凱旋した後・・・・・・」
 そう告げると、ルビスは陽光のなかに姿を消した。最後の言葉は聞取ることができなかった。
「待ってくださいっ!」
 アルスが叫んだ。ゾーマの城から勇者の洞窟まで導いたのは、ルビスかどうか確かめたかった。だが、ルビスの声は、2度と聞こえなかった・・・・・・。
 いつの間にか、太陽が高くのぼり、その光が海を照らしていた。
 横には、ミゼラとローザとエルトが眠っていた・・・・・・。
(続く)

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