5 旅立ち(1) [DQ4-1]

5 旅立ち(1)



 宿屋のププルが戻ってきたと聞いて、村のガキ大将らしき存在の少年は早速逢いに行った。ププルは久し振りに両親に再会して喜んでいた。
 ププルは母親に会えてうれしそうに笑っていた。
 少しやつれて、酷く大人びた顔に見えた。
 ガキ大将の少年は立ちすくんだまま、両手を頭の後ろにやり、唇を尖らせて、このまま戻ろうかと考えた。どんな冒険をしたのか、好奇心がうずうずしていたが、今は親子の話を邪魔したくない。ププルが、また、学校に出て来ることが出きるぐらい元気になってから、聞けばいいや。少年は、肩を竦め、その場を立去った。
 ポケットに手を突込み、口笛を吹き乍ら歩いて行くと、ひょろ長い影が道に落ちている。少年は顔をあげた。ライアンが、やぁ、というように片手を挙げた。ライアンがイムルに来た時、女教師と一緒にププルが消えたときの話をした少年の一人なのだ。
 少年も片手を挙げて、「ああ、おじちゃん。ありがとう。ご苦労さん。おじちゃん、強いんだね!英雄になったね」通り過ぎようとしたが、思い直して足を止め、ライアンのところまで戻ると、にやりとして、肩を竦め、言った。
 ライアンは、頭を振って、少年の茶化しを聞き流した。
 長い脚をぎくしゃくと折畳むようにして、「そうだ」しゃがみこむ。少年の顔と同じ高さに、自分の顔が来るように。
「君を男と見込んで、一つ、頼みたいことがあるんだが」
「何だよ?」
「むう・・・・・・」
 ライアンは視線を落として、少し迷ったが、言った。
「古井戸の底の、空飛ぶ靴のあった場所に。・・・・・・時々でいいから、綺麗な花を手向けてやってくれないかな」
 少年の胸は「どうして?誰か・・・・・・死んだの?」とどきりとした。
 ライアンはうなずき、「ああ」困ったように笑乍ら、じっと少年を見つめた。そして、言った。
「わたしの、友達が、死んだんだ」
 その途端、ライアンの右の瞳から、とても大きな涙のつぶが一つ、ぽろりと落ちて、地面に滲み込んだ。
 ライアンは、ずっと笑ったままだった。目も、きっぱりと開いて、少年を見詰たままだった。
 だが、少年は思った。こんな悲しそうな顔は、見たことがないと。
 おとなの男が、目の前で泣いたというのに、バカにする気持ちにはならなかった。
「・・・・・・わかった」
 少年はポケットから手を出し、ズボンに擦り付けておいて、ライアンの手を取ると、がっちりと握りしめた。
「花は欠かさない。任せてくれ。約束する」
「ありがとう」
 ライアンは力強くの手を握り返すと、立上り、歩き出した。村の出口へ、去った。
 少年は、ライアンが、見えなくなるまで、黙ってそのまま、見送った。
 遠くで、教会の鐘の音がした。
(続く)

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