4章ー3 コーミズ(1) [DQ4-2]

4章ー3 コーミズ(1)

 出発前にマーニャ達は装備を整えた。マーニャたちの給料にマーニャの衣裳の踊り子の服を売った金額をあわせると、結構な大金になった。ミネアは護身用の銅の剣を売り、2人でクロスボウと皮のドレスを買った。ヘアバンドも装備した。
 そう。マーニャたちは、ふたりだけで行かなければならない。
 今度も。これからも。
 父エドガンはいない。マーニャたちは、この世にたったふたりぼっちになってしまった。モンバーバラを旅立ってコーミズ村に到着したのは夕方だった。コーミズでは村の人々が温かく歓迎してくれた。墓参りをしたあと、マーニャ達はエドガンのもう一人の弟子のオーリンを探しに行った。彼はエドガンの一番弟子で、昔からマーニャ達のこともよく気にかけてくれていた。あの事件の時、オーリンも凄いケガをしていたというが、あれ以来西の洞窟で身を潜めているらしい。きっと西の洞窟の研究所にいるのだろうと、マーニャは思った。オーリンがいればきっとマーニャたちの力になってくれるだろう。宿屋の主人のご厚意でタダで泊めてもらうと、翌朝マーニャ達は再び西の洞窟に向うことにした。洞窟に行く前に2人とも、ヘアバンドよりも可愛らしい羽帽子に装備を変えた。またミネアは武器を鎖鎌に変えた。そして村の人から貰った皮の盾はミネアが使うことにした。
 マーニャが小さいころ、父親は、英雄のように見えた。
 知らないことなんて何1つない。出来ないことなんて、ただの1つもない。いつも落ち着いている。静かに笑っている。
 マーニャやミネアが、おもてであった面白いことなどを、先を争って喋ることになると、父はいつもの椅子に座って、パイプの煙を燻らせ乍ら、いつまででも聞いてくれた。時々、ひとことふたこと、物凄く役に立つこと、教えてくれ乍ら。
 マーニャにとってこの世で1番好きな人。頼りになる人である。
 だから、当然、父の研究所のあるコーミズ西の洞窟の仕掛けなども、父が作ったものだろうと思ってたのだが。
 いつか、「わたしではないよ。これは今はもう忘れられてしまったある王族の遺産だと言われているんだ。わたしはただ、興味を持って、徹底的に中を調べて、迷わずに歩けるようになっただけだ・・・・・・ひとが知らない、地下深くまでね」父は言った。
 洞窟の中には、仕掛がある。不思議な模様の特別の部分に乗ると、それが合図になって、床が上下するのだ。洞窟には階段がないのでそれがわからないと、父のところには絶対に辿りつけない。
 子どもだったころは、その面倒くささがかえって、素敵な謎みたいに思えて、マーニャたちは夢中になって、探検して歩いた。時には村の近所の何も知らない子を連れてきて、わざと置去りにして悪ふざけした。いくら走り回ってもマーニャたちが見つからないと、弱虫はすぐにぴーぴー泣出した。そんな目にあわせてやるのは、たいがい、可愛い女の子だと思うと髪の毛引張ったり、玩具を取ったりしていじめる、からだの大きいガキ大将だったが、そういうやつに限って呆れるぐらい簡単に泣くのだ。
 マーニャたちも、時には道に迷った。空腹になって、座込んでるうちに眠ってしまって、通りすがったオーリンに苦笑まじりに手をひかれて(ミネアはおんぶしてもらって)、父のところまで連れてってもらったこともあった。
 だが、あの事件以来、長いこと、来た事がなかった。
 はしゃいだ探検ゴッコをやめにしたのは、ここで、マーニャたちを見ると、父が困ったような顔をするのに気が付いたから。ここは父の大事な仕事の場所。秘密の研究の場所。時には危ないこともある。だから、マーニャたちは、家で大人しくしてたほうがいいのだ。ジプシーの少女たちらしく、自分達のヒマの潰し方を知っておかなきゃならないのだ。そう思った。
 それにしても。
 長いこと来た事がなかったにしても。
 ここはなんだか、雰囲気が変わってしまってる。
 比較的、きれいに、計算された様に積まれた石壁は、昔のままだったが。空気が悪い。気配が。
 でこぼこの少ない岩の大きな入り口を潜った。
「こんな所に人がいるなんて、ちょっと信じられないけど・・・・・・。特にずっとなんて」
「あー、やだやだ。あたしってば洞窟って場所が無条件にきらいなのよね」
 ここは、仮にもひとが殺された場所。死んだ父の魂が今もさまよっていてくれるのだとしたら、それはちっとも怖くはないが、惑う者を迎えに来た悪霊の類でもうろついてるのだとしたら、ちょっと気味悪い。
 マーニャたちは足音を潜めて進んだ。まず真直ぐ。それから、左だ。長いこと来なかった場所だが、見れば、おぼろげに思い出す、正しい道。
 ・・・・・・と。いきなりの違和感。
 さらに左に曲がる突当りの壁に、巨大なキノコが3つ、並んでる。いかにも毒を持ってそうな、赤地に、緑の斑点の傘。
 ミネアに向って、「ねぇ。あんなもん、あったっけ」呟いた途端だった。
 マーニャは目を疑った。お化けキノコが、動き出したのだ。見かけによらず、素早い動きで。回転し乍ら、マーニャたちに迫ってくる。壁に追詰められそうになって、マーニャは、とっさにからだを翻し乍ら、距離を取って、敵のひとりの短い足を狙ってクロスボウを放った。やつはどてっと尻餅をついて倒れた。転んだ拍子に頭の傘から、毒の胞子が飛散った。それはいいが、胞子を吸ったらこっちも毒に侵されそうだ。おまけに、やつは、また立上るじゃないか。足に矢が、刺さったままで。大きな口から、長い舌を出した、植物の顔で。どっと汗が出た。
 ミネアは鎖鎌をひゅんひゅん言わせ乍ら、「モンスターよ!姉さん。洞窟の中にまで入り込んで来たんだわ!!」他のやつらを押返している。
 マーニャは「へぇ、そう。薄々そうじゃないかとは思ってたのよ」とお化けキノコの目を見乍ら答えた。いかにも邪悪な魔力を受けたような目だ。
 ミネアは怪鳥のような声で何かを叫び、器用に鎖を振回し、敵にぶつけた。お化けキノコの手がもげ、胴が千切れ、傘が飛んだ。
 武器の使い方もう慣れてるよ。おっかない子。今度姉妹喧嘩になったら気を付けよう。
 うっかり注意をそらした隙に、矢をくらったやつが回転して迫って来た。マーニャはクロスボウをキノコの顔に向って放った。真正面から放つと、敵は動きを止め、青白い光に包まれて消えた。ミネアが拍手をしてくれた。
 マーニャたち、また魔物をやっつけてしまった。
 そして、それで終わりってわけじゃなかった。マーニャたちはまず、父の亡くなった地下4階の研究所の近くに行ってみることにした。
 地下4階の地底湖に着き、歩廊を渡ったミネアが言葉を呑込んだ。
 オーリンだった。研究所の入り口で、マーニャ達からは背を向けていた。
 マーニャは「ねえ!オーリンよね・・・・・・あの時、バルザックとここで何があったの?」と言った。
 オーリンは振向き、「ややっ!マーニャさまにミネアさま!バルザックが来た?」マーニャたちがやってきたのに驚いた。
 マーニャたちは再会を喜ぶと、オーリンはマーニャたちの話を聞き、辛そうな表情の下、憑かれたように喋った。
「なんですって!?御2人だけで仇討ちの旅を?おお・・・・・・なんということだ!ならば、わたしも御嬢様がたと願いは同じ!わたしもエドガンさまの仇討ちだけを胸に、ここで傷の回復を待っていたんです!わたしは遅かった。噂ではバルザックめ、悪魔に魂を売り強力な力を身に着けたそうです。エドガンさまは、錬金術の実験の最中に、恐ろしい発見をしてしまった。バルザックはそれを、盗もうとして・・・・・・エドガンさまを」
「父さんを?」
 オーリンは「すみません。ああ。わたしがもう少し気を付けていれば」と泣いた。厳つい顔に、止まらない涙、流して。
「マーニャさま」
 オーリンが手を伸ばして、「エドガンさまは、強力な力で攻撃され、背後から首を絞められ、何度も、ナイフで刺されて・・・・・・」マーニャの手を取った。
 ミネアがふらっとよろめいた。マーニャは慌てて、ミネアを支えた。
「やつの力も忌まわしいが、エドガンさまの発見したあれは、もっと酷い、恐ろしいものです。わたしたちは、そんなこととは露知らず、研究を進めてしまった。バルザックは近頃、エドガンさまのお使いで、何度もひとりで、キングレオのお城に行きました。あれについても、報告してしまっているでしょう。たぶん、たんまりの報酬と引きかえに。だが、あれは・・・・・・進化の秘法は、決して、人間の手に負えるものではないんだ!」
 マーニャは「バカ言うんじゃないわよ。国王陛下はそんな人じゃないわ。父さんを殺して、何か奪うなんて、そんなことするお方じゃないわ!」と言った。
 ミネアが「モンスターだわ。バルザックの後ろに、あの時、何か影のようなものが見えた様な気がしたの。きっと、モンスターが後ろで手を引いているんだわ!!」と呟いた。
 オーリンが目を閉じ、「あり得ることです。ああ・・・・・・エドガンさま!」また、両手で顔を覆った。
 バルザックがエドガンを殺したとき、その場にいたオーリンも攻撃を受け、その傷は重かった。
 元々体力はある方だったが、暫くは満足に起上ることも出来なかった。ほんとうのところ、死ななかったのが不思議。研究所であれからずっと、いったいどうやって回復したのか。
 純情で忠実なオーリン。あのバルザックを追おうと・・・・・・あいつが、何も知らないマーニャたちをも手にかけるんじゃないかと、ずっと心配していたのだ。
「しかし静寂の玉さえあれば、やつの力を封じられるはず!兎に角このわたしも、おともをさせて、いただきます!さあ急いで参りましょう!」
 オーリンが仲間に加わった!
 ミネアは「静寂の玉の話は聞いたことがあるわ。相当に強い魔法使いでも、その玉の光を浴びたら、呪文が封印されてしまうはずなの」と囁いた。どうやら、かなり珍しい道具らしく洞窟の地下1階でモンバーバラからやってきた道具屋の主人が、わざわざ店の営業をサボってまで探しに来ていたのをマーニャたちは見ている。尤も道具屋の主人に知恵と勇気がないせいか、やっぱり洞窟の仕掛床には気付いてないようだったが。力も体力もあるオーリンが加わってマーニャたちの旅は、より心強くなった。オーリンの案内でマーニャたちは静寂の玉のある場所へ向かった。
道の果、廊下の果、水際の、狭くて滑りやすい、擦り減った石の通路を抜けて、マーニャたちは、とうとうそこに辿りついた。
 研究所のある場所から地底湖の水を隔てた、広い空間。ただがらんと、石の2つの柱の先に祭壇のある場所。昔なにに使われてたかはわからないが、昔のマーニャとミネアは『どんづまり』とか『袋小路』とかって呼んでいた。兎に角、この洞窟の中でも、1番複雑な手順を踏まないと来ることが出来ない場所だ。
 祭壇に少し豪華な古びた宝箱が置かれていた。止める間もなかった。ミネアは駆寄りざま、すぐに両手で宝箱を開けたのだ!
「!・・・・・・あった!」
 ミネアが子どもみたいに笑った。埃塗れの真白になった指が、何かを探り当てたらしい。取出したものを、ミネアは、両手で擦って、きれいにした。
 紫色の拳ぐらいの大きさの玉だ。首から下げるのに、ちょうどよさそうな大きさだった。
 のぞき込むと、中心に、込められた魔力らしい冷たく尊い光が、静かに脈動しているのが見えた。
呆気に取られるマーニャに、ミネアは、宝箱を指差してみせた。
(続く)

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