4章ー3 コーミズ(5) [DQ4-2]

4章ー3 コーミズ(5)


 マーニャは「・・・・・・酷いわね。1番過激なぱふぱふ館だって、滅多にここまで乱れやしないわよ」と呻いた。
 ミネアが髪で鼻を覆い乍ら、「この匂い。たぶん、禁じられた魔法の薬だわ。どんなしっかりものでも、まともな考えがどっか行ってしまう薬よ。ほら、あそこに香炉がある」顔を顰めた。
 オーリンは泣出しそうに「ああ、頽廃だ・・・・・・堕落だ・・・・・・。・・・・・・このお城は、いったいどうなってしまったんだろう?」と顔を歪めた。
「たぶん悪魔に魅入られたんだろうね」
 マーニャは入って行って、部屋を使っているらしい女に話を聞いた。
 なんだ。凄い化粧が段だらになってるが、まだほんの娘じゃないか。
娘はひとことごとに、「やーん。知らないよう。ね。それより。いーことしよ」くねくねからだをよじる。
「バカ。変なとこに触らないで。ちゃんと見て。あたしゃ女よッ」
「わかってるわよう。えー、あんたのそこ、ヘンなのお?わー、かあいそー」
「あのねーっ」
 キャッキャふざけてつかみ掛かる女の手を必死で押返す。
 ・・・・・・この世も末だ。
 だんだん頭が痛くなってきた。なんだか手足が重い。そのよくない薬の影響かもしれない。こんなところは、はやく出た方がいい。
「あーん。いかないでぇ、ダーリン。御願。助けて」
 娘が悶えた。もぎはなそうとして、マーニャは気付いた。せつなげな、美しい瞳に、はっきりと理性の火が灯ってる。
「助けて?何のこと」
 こくんと、「あのね。このお城では、恐ろしいことが起ってるの。なんでも、王子殿下が、悪魔の。ねー。ここでは、どんな贅沢も許されるのよう。あたし、幸せっ♡」自分の言葉に合わせて。少し遅れて1つはっきりとうなずいた拍子に、瞳がまた、どんよりと曇る。
 ダメだ。またぶっ飛んでしまった。
「美味しい御馳走にお酒。飲んで眠って遊んで・・・・・・。ここは天国のようなところねー」
「ふーん。そんなに、いいお城なら、あたしも、ここにいようかしら」
「姉さんっ!仇討ちは、どうするのよ!ホントにもうっ!」
 娘の話にマーニャは思わず呟くとすぐにミネアが突っ込んだ。そしてミネアは呪文を唱えた。
「ラリホー!」
 ミネアの魔力の泡が娘に命中すると、泡が弾けて娘はすぐに眠ってしまった。ミネアは「悪いとは思ったんだけど、いくら言っても、離してくれそうにないから、ラリホー使っちゃった」と済まなそうに言う。
「そりゃあいいわね。ぐっすり眠っちゃえば、この破廉恥騒ぎも御流れでしょうよ」
「このひと、悪い夢、見なきゃいいけど」
涎を流しながらニタニタ笑いながら眠る哀れな女の、なかば肌蹴かかった胸元をせめてきっちりかき合わせてやって、マーニャたちは、部屋を抜出した。
 マーニャたちは城で他にひとを探した。マーニャは詰所にいる、しっかりしていそうな、兵士らしい男を見つけて、顔をのぞき込んだ。
「もしもし。ちょっと聞きたいんだけど」
「何だ?」
「陛下はどうしたか知らない?部屋は、どこなの?」
「国王陛下の部屋は、どこかって?さあ知らないね。新しい陛下は用心深く、いつも秘密の王室にいるという話なら聞いたことが、あるんだがな」
 兵士は、やはり、ぶっきらぼうに言った。自分の働いている城なのに国王の部屋の場所を知らないのだろうか。それともいかにもあやしい人物たちだと判断して秘密を隠しているのだろうか。また城の中を歩いていて、城で働いているらしい普通の男に会った。
「国王陛下の部屋は、どこかは大臣閣下しか、わからないと思うよ。閣下のあとをつければ、わかるだろうけど後が怖いしね」
「どうしたら国王陛下の部屋に行けるかしら・・・・・・姉さんも少しは考えてよ」
「・・・・・・なによー。あんた何を根拠に、あたしが何も考えてないって言うのよっ!」
「こーいう根拠」
 ミネアはジト目でマーニャを見て言った。そして城の物見やぐらから全体を見回している兵士に話を聞くことが出来た。この城の大臣は、とても神経質なひとで、この前も大きな音をさせて大臣を吃驚させた男が港町の牢屋に入れられたらしい。港町はキングレオから北に行った海辺にある。
「ここから北の港町って言ったら確かハバリアね。そこに行ったら何か、わかるかしら」
 マーニャが言った。
 大陸の北に向けて、はるばる低い山々を越えてゆくと、やがてキラキラ光る海面が見えてくる。北の大内海・・・・・・南西大陸と北大陸、それにいくつかの島々で丸く囲い込まれた海だ。波のかなたには、遠く、エンドールだのって、北大陸の街がある。ここからでは全く見えないが。
 このあたりは、内陸の山間部とは違って、まだ春の終わりぐらい。ちょうどよいあたたかさで、厳しい暑さではない。山々を、日の出の方角に、どんどん行くと、鈍い藍色の海面の端っこに、唐突に、頑丈そうな石造りの建物がぎっしり並んでるのが見えてくる。商売に使っているだろう館も倉庫も、潮風や嵐にもやられないように、たっぷり金をかけて作ってある。
 海岸線の東の外れ、ハバリアだ。
 港町としては新しく、そう大きな街じゃない。ちょうどキングレオの城がすっぽり収まりそうな、程度の土地が、周りをぐるりと水に囲まれてる。狭いところに大勢がひしめきやすくて、ここは、いつだって、実際よりも余計に、活気があるように見える。
 船は便利だ。たくさんの荷物と、たくさんのひとを、いっぺんに運べる。時間もかからず、徒歩より楽なのは言うまでもないし、馬車を頼んでキャラバンを組んで旅行するより、ずっと安くあがることが多い。そして勿論、海の向うに行くなら、船に乗るしかないからである。
 船の街がはやるのは、まったくもって凄く当然のことだ。
 マーニャたちの故郷コーミズにとって恵でもある、あの北から西に流れる大河が、もう少し大人しい性分でさえいてくれたなら・・・・・・いつでも真夏と同じくらい水量があってくれたなら・・・・・・きっと、宿場の街として、もっと栄えただろうに。残念なことだ。
 さて、そのハバリアに、辿りついたのはキングレオの城を出て途中で野宿し翌日の午後。
 昼食がまだだったので、マーニャたちは、街に入ってすぐの水路べりの食堂を兼ねている酒場に入った。
 ただっぴろい中に、船家具を流用したらしいどっしり重そうな丸い石のテーブルが4ばかり、燭台も船で使うやつ。広さの割に、天井は低く、すっかり穴蔵めいている。
 勿論、水音に、鳥の声。どうです、港町っぽいでしょうって、凝った趣向だ。
 食事時にはよほど混むのかもしれないが、さすがに、こんな半端な時間には、客は誰もいない。
 席についたマーニャたちは、『本日の料理』を書いたメニュー表を見た。書いてある字はたいそう気取ってる。それはともかく。
「何これ?聞いたことのない名前の料理ばっかり」
「冷たいスープとか温野菜とか何かの盛り合わせはわかるけど・・・・・・ちんぷんかんぷんねぇ。エキゾチック系の料理には違いないけど」
「おーい。ちょっと」
 オーリンが手をあげて、あたりを見回すと、カウンターの奥から、亭主らしいバーテンの男が現れた。
「はい、何にいたしましょう」
「何ったって、これでわかるもんかよ。涼し気な夏のさっぱり系なもの、ない?それと、とりあえず、ワイン」
「はい。さっぱり系で御座いましたら、こちらのサラダがおすすめで御座いますよ。茹でたニンジンと鶏のレバーとヨーグルトを混ぜて、36種類の秘伝のスパイスを効かせたソースをかけまして。また、この卵焼きは香草を混ぜて焼いたものです。香草の緑色が鮮やかでトマトと相性抜群でして・・・・・・」
「ああ。レシピッピはいいから、2,3個作って、さっさと持ってきてよ。おなかペコペコなんだから」
 マーニャは言った。暫く待っていると酒場の踊り子らしい癖のある亜麻色の髪の娘が料理を運んでくる。
「あたしはジル。こんな早くから会いに来てくれて有難う」
 その髪をざっと纏めた赤い髪飾り、真赤なパーティードレス。ドレスの胴から、かたちのいいへそが信じられないほど高い位置にのぞけてる。胸も腰も、薄い布を持上げて、危険そうに盛り上がってる。
 ちょっとマーニャとミネアのようなジプシーに似たところがあるが、肌の色はごく普通の健康的な色。眼は、くっきりと漆黒だ。
「でも酒場は夜からなの。ごめんね」
 ジルというらしい女は、この酒場で働く踊り子で、店の看板娘らしくかなりの人気者らしい。その踊りで多くの男を虜にしているが、本人に結婚願望はないらしい。
「うちの大事な店の中じゃあ、厄介ごとを起こさないでね。絶対よ。いいわね」
ジルはなぜかやたらに忠告するのだった。

あとがき
やっとコーミズ・・・というか西の洞窟の話です。
ついでにその後の展開もやってます。
おかげで6割ぐらいキングレオの話になってしまった。
遣り過ぎた?
次回はハバリア関連の話の予定。
最後までは無理かもしれないですが、書いていきます。
※次回は12月1日更新予定です。
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