4章ー5 お告げ所・アッテムト(1) [DQ4-2]

4章ー5 お告げ所・アッテムト(1)



 全く。あたしを一人残して。何考えてんのよ、おっちゃん。逆らったら、ふたりを出してやらないぞってわけ?
 背中が壁にさわった。冷たい。
 マーニャは薔薇色の溜息をついた。ぼそっと一言。
「・・・・・・メラ」
 ボコッ!
 背後の大きな音に戻ってきたミネアとオーリンは、床に少し焦げて伸びた牢番を見て呆れ気味の表情になった。
「やっちゃったの?」
「しょうがないじゃんよ。とんでもないこと、しようとするんだもん」
 マーニャは、牢屋の奥に進み、いくつかの房を見回した。
「ねえミネア。ここって、なんか臭くない?流石に牢屋よね」
マーニャは言った。窶れ果てた牢屋に入れられていたひと達が、口々に無罪を訴えている。なかには、うおーんうおーん言い乍ら、牢屋越しにミネアを抱締め、無理やりキスしてきた、毛むくじゃらなイエティもいた。
「・・・・・・なんで、あんなのまで牢屋に入ってるかしら」
 マーニャが呟いた。
「おーい。この中に、お城で爆発騒ぎをやったって人はいるかい」
 オーリンが呼掛けると、牢屋の入り口に1番近い房の中から気弱そうな中年男が走ってきた。
「悪いが、ちょっと、いいか。話を聞かせてもらいたいんだ」
 小太りの囚人の男は、すっかり怯えてる様子だったが、ともかく、承知してくれた。王宮御用達のドン・ガアデ門下から独立した、建築家らしい。ドン・ガアデ門下では、みんな自分のもともとの名前に『ドン』をつけて、商売にはげむのだそうだ。つまり一種のブランドである。
 マーニャは急いで、口を開いた。
「それでね。建築家さん、あんたに聞きたかったのは、お城の内情なんだけど。作ってるっていう隠し部屋の仕掛を、教えてくれないかな?厳重な警戒をしているんでしょ。気づかれずに忍び込む手段があるかな」
「はぁ。どうでしょうねぇ。聞いてください!わたしは、なんにも悪い事は、してないんです。ただ、ちょっと間違えて、お城の大臣閣下の部屋のそばで火薬を爆発させてしまって・・・・・・。何しろ、まだ準備をしているうちにヘマを仕出かしてしまったもんで・・・・・・兎に角、あそこの工事には、設計図もなかったんですよ。いちいち、その日、閣下の指示することをやってくばかりで・・・・・・お役にたてなくてすみませんね」
 と、「お主、さっさと逃げ出して正解だったかもしれんぞ。他の大工たちは誰一人、帰ってきたって噂を聞かん。秘密の仕掛を作る時に現場にいた奴は、口塞ぎに、みんなそのまんま、壁に塗りこめられたか、人柱にされてしまったんではないかねぇ」隣の房に入れられた学者が話を聞いて言った。
「ひぃぃ」
 と、「ともかく、とことん剣呑な城みたいね。それね・・・・・・そう言えば、前の国王陛下が倒されたっていうのは本当なの?」マーニャ。
「それも、よくわかりません。ただ、どうも、今度は国王陛下がふたりいるんじゃないかって噂はありました」
「ふたり?」
 学者が「それなら聞いたぞ。ひとりの国王陛下は、魔物らしい。そうして、毎日、おやつ代わりに、若い娘をひとりずつ、食べるらしい・・・・・・裸にして、砂糖と粉の上を転がして、油に落として、ジュッて揚げているとか・・・・・・ああっ」と身を乗出す。
 自分で言って自分で気の遠くなった学者は檻に何とか捕まった。
「だが。モンバーバラから娘達が、大勢行っているようじゃぞ。前の馬車でも。今度の馬車でもな・・・・・・ああ、みんな、どうしているか」
 マーニャは「モンスターかどうかはともかく。態々秘密の部屋まで作って隠れようなんてのは、間違いなく、ロクなもんじゃないわねぇ。あたしは、前の陛下が好きだった」と頭を振った。
 と、「よく御菓子をたまわったもんね」ミネア。
「ああ、思い出すわミネア。そうだったわね。ガキだったあたし達にも、ほんとうに親切な、けっして偉ぶらないかただった。あの方は、いったい、どうなっちゃったかしら。あたしはそれも気になるわね」
 と、「ええ、ですから。わたしらも、ふたりってのは、前の陛下と、他にもう一人って意味じゃないかとも思ったんですがね。誰に聞いても、ほんとうのところはわからないんですよ。何しろ、近頃、陛下のお目にかかれるのは、かの閣下だけで。ええ、そりゃ、あの閣下はなんだって知ってますよ。爆発があった時も、閣下は真直ぐ陛下のとこに行かれたみたいですがね、おかげで、少なくとも、陛下がいないってわけじゃないってのがわかったぐらいで」建築家。
 ははぁん。陛下とやらを誘き出すには、もう一度、その腰抜け大臣閣下を脅かすしかないってことね。また、でっかい音でも立てるかなんかして。
 と、マーニャが思っていたら。
 と、「その、火薬ですけど、あなた、まだ持っていますか?」ミネア。
「えっ、火薬ですか?まさか、とっくに取り上げられましたよ」
「どこに行けば手に入るの?」
「えーと、あれは確かわたしは昔、西のアッテムトの鉱山に仕事をしに行ったので、その時手に入れたものです。が・・・・・・何をなさるおつもりなんです?」
 声をひそめる建築家には答えずに、ミネアはマーニャの方を見た。きっぱりと、唇を結んだまま。
「西のアッテムト・・・・・・。そこに何かをつかむヒントが、あるかしら・・・・・・」
 ミネアの言葉にマーニャも目を伏せてうなずく。
 アッテムト。地の果ではないか。だが、行かなければならないさだめならば、ガタガタ言ったって仕方ない。
「同じ方法で閣下を吃驚させるってのは、あたしは賛成よ。楽しそうだしね。また、遠回りってことになりそうね」
 ミネアの肩を押して、マーニャは牢屋の出入口への階段へ向かった。
 まだ倒れたまんまの牢番を牢屋の隅っこのほうに押し込んで、マーニャたちは階段を登って牢屋の建物の外に出た。勿論、道に出る前には、左右よく見回してから。
 幸い、まだ、騒ぎにはなってないみたいだが。
「やれやれ。姉さん、これで、確実に御尋ね者よ。わたし達、顔も名前も割れてるんだし」
「責めないでよっ。ほっとくわけにもいかないでしょっ」
 兵士だって言ってたではないか。誰かが、なんかやってくれるの、みんな待っているんだと。
 結局宿屋には泊まらずすぐにハバリアを抜出した。
 ハバリアを出る前に、武器屋の御主人と防具屋の御主人が、旅の役に立てればと言って、包みを届けてくれた。防具はゴージャスな毛皮のコートと鉄の鎧、鱗の盾が1つずつ入っていた。ちょうど2人の皮のドレスやミネアの皮の盾がぼろくなっていたこともあり、マーニャは毛皮のコートを、ミネアは鉄の鎧と鱗の盾を装備することにした。武器の入った包みは開けてみると、毒蛾のデザインの柄の毒蛾のナイフと蜂の針のような毒針に、ホーリーランスとか言う、銀色の槍。いかにも祝福のありそうな名前だが、この槍はもともと騎士たちが使う馬上槍の形をしている。相手を突刺したり、薙ぎ払ったりする武器だ。
(続く)

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