4章ー5 お告げ所・アッテムト(2) [DQ4-2]
4章ー5 お告げ所・アッテムト(2)
マーニャが槍を渡すと、「あ~ら、これって、あんたにピッタンコ。ナイフや針ってのは、攻撃呪文が得意な人が接近戦用に持つもんよね。違う?」ミネアは何か言いたそうだったが。
少なくとも、今までさんざん使って使えなくなった鎖鎌よりは、まだその槍のホーリーランスの方が、いいとは思ったらしい。
まともに星も見えない夜だった。地上も空も不吉な風が吹荒れていて、それが、牢番の災難に気付いたらすぐに追ってくるだろう兵士達のことを思わせ、マーニャたちは誰からともなく急ぎ足になった。
陰気な薄闇に閉された野草の丘を、海岸線に沿って進んでゆくと、小さな岬に出た。振返れば、三角波のたった海の面に、ギラギラ金色の粉を塗した様な真紅の帯が、真直ぐ一筋伸びてゆく。あたりが明るくなり始めている。
ミネアが「林の奥に祠があるわ。あそこで休みましょうよ。もうヘトヘト。眠くてたまらない」と指差した。
言い掛けて、「なによ、だらしな・・・・・・ふぁ~あ」マーニャまで欠伸をしてしまった。結局、ハバリアで泊まらず、夜通し歩いてきたから。もう限界だった。
祠と、ミネアは言ったが、マーニャに言わせればそれは、単なる神殿だった。それも、うんと小さいやつだ。
入口など、手足を順番に出したり引込めたりしなければ通れないくらい狭かった。岩棚が、階段のように急激に下に落ちてゆく中に3人そろって休むことの出きる場所があるのかどうか、知れたもんじゃないとマーニャは思った。何しろ、図体でかいのがひとりいるし。
なのに、ミネアときたら、まるでよく知ってる遊び場に来たこどもみたいに、するする奥に行ってしまうのだ。マーニャと比べれば、でっぱりが少ない子だから。
ともかく、マーニャも、両手を突っ張らかって、精々玉の肌を岩で擦ったりしないように気を付け乍ら、降りて行った。
そしたら。マーニャは驚いた。行き成りミネアが立止ってる。恍惚として、方針して。ミネアは呟いた。
「なんだか、ここって不思議ね。大きな炎を取り囲む小さな7つの炎・・・・・・」
そこでは、天井も壁も、広くなってた。床も含めて、人工的な手が入った整備されたものだった。
ミネアの言う大きな炎と7つの炎はオレンジ色を上げていて、その奥は礼拝所だろう。礼拝所に・・・・・・青いローブを纏った小さなシスターがいた。
「・・・・・・ここは御告げ所・・・・・・」
シスターの唇は動かなかった。声も、ほんとうに、したのかどうかわからない。
そのことばは、キラキラ光り輝くあの古代のルーンの形になって、マーニャの頭の中に自動的に浮んだのだ。そんなもの、ロクに読めないはずなのに、マーニャはそれを理解した。
そして、ミネアとオーリンにも、同じことが起こってるってことも、ちゃんとわかっていたのだ。
「・・・・・・神の御告げが下る、聖なる祠・・・・・・」
ミネアは、操り人形の糸が切れたみたいに、かくんと脱力して、両膝をついた。マーニャもオーリンも急いで真似をする。
「占い師ミネアよ。あなたには、すでに見えるでしょう。・・・・・・あなた方が、仇と狙う男は、巨大な暗黒の力によって守られています。しかし案ずることはありません。わたしには見えるのです。あなた方もまた光り輝く力によって守られているのが・・・・・・」
燭台がまぶし過ぎて、炎があんまりキラキラ揺れて、シスターの顔が光に滲んで、ちゃんと見えない。マーニャは殆、まともに目を開けてることも出来なかった。なんだか、頭の芯も、ぼーっとしてくる。いけないと思ってるのに、まぶたが閉じてしまう。
「・・・・・・今はか細く小さな光ですが、いくつも導かれ、やがて大きな力となるでしょう。焦ってはいけません。あなた方が絶望その時こそ・・・・・・あなた方の真の旅が始まるのです・・・・・・」
「えっ?見えてるって何が?ミネアあんた何が見えるの?絶望の道に迷ったその時こそ?冗談じゃないわよ。あたしを誰だと思ってるのよ。なんで、絶望なんてしなきゃならないってのよ?」
マーニャは大声で、ミネアやシスターに喰って掛った。だが、それから先のことは、殆覚えていない。
シスターが微笑むのが、ほんとうに、見たのか見ないのか・・・・・・。
マーニャが気が付いた時には、3人とも、祠の床に横たわっていた。
1人起上ろうとしたら、腹がグウッとなった。イヤーな予感がして、なかば手探りに岩棚の階段を上り、おもての空気に顔を突出してみると、(ほらっ、思ったとおりだ!)夕暮れ時だった。
マーニャは思わず知ってる限りの罵り言葉を呟いた。
神様の御告げだかなんだか知らないけど、実際役立つような情報なんかロクになくってさ。殆ただ、励ましてくれただけ。むしろ、不安材料、増やすよーなこと言って。おまけに、ひとにいいかどうかも尋ねずに、行き成り安らかに眠込ませてくれちゃうなんて。あんまりじゃない!
シスターを、ふんづかまえて、山ほど文句を言ってやりたいような気分だったが、気が付いてみると、腕も足もやけに軽いのだ。空腹を別にすれば、なんだか、全身に、気力と体力が満ちてるみたいだ。
マーニャは、急に思いついて、貰ったばかりの毒蛾のナイフを取出してみた。昨日は、こんなものデザインがどこか毒々しくて、有難迷惑だ、いつかどこかで高く売れたら売ってしまおう、なんて考えたものなのに。なんだってこんなに軽くなってしまったのだろう?いや、マーニャの力が急に強くなったのか。
今は、片手でひらひら降りまわせてしまう。普通のナイフより、もっと鋭く。
呆気に取られた拍子に、頭の中で、今まで理解出来なかった呪文の意味が浮んだ。意味を正しく理解出来ていれば、理論に従って言葉を組み立てて使うことが出きる。マーニャは舌で唇を湿しておいて、簡単なもので使ってみた。
途端に、マーニャの周囲に風がまき起こって、からだが少し浮いた。これを本格的に使うとなると、飛行して移動を補助する呪文ルーラや浮遊して脱出を補助する呪文リレミトになるのだ。
シスター。やってくれるじゃないの。・・・・・・いいとこあるよ、あんたってば!
マーニャは口笛を吹き乍ら、戻っていって、ミネアとオーリンを起こした。
祠を出発して夜が更けて朝になり、いよいよアッテムトに近づくとなると、今度は空気が、はっきりと重く澱んできた。絶間ない油煙と悪臭が立ちのぼっているのが、他でもない目的の街だとわかった時、さすがのマーニャたちも思わず引き返そうかと、相談してしまった。
だが。ここまで来て、街を見もしないで帰るっていうのもあんまり情けないし。ハバリアに戻ったって、どうせ、天下の御尋ね者である。
マーニャのモンバーバラなじみの女の子達も心配。バルザックも、どうも城にいるらしい。
ここはなんとしても、その肝っ玉の小さい大臣閣下を行天させてやるだけの火薬を手に入れて、はやくキングレオに戻ってみたいじゃないか。
(続く)
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