10 闇の世界(2) [DQ3-2]

10 闇の世界(2)


 アルスたちが穴に落ちた先はどこかの小さな漁村で、祠よりも小規模な集落だった。そこに住んでいた少年からここはラダトームからはるか西にある島だと知らされると、父親が使っていた古い漁船を提供してくれたのだ・・・・・・。アルスたちはまずラダトームに行ってみることにした。船で出発してからラダトームへは朝から出発したとすると夕方に到着したことになる。だがその間夜が明けることはなく、この大地はずっと夜の闇に閉ざされていることを知った。
 城壁に囲まれたラダトームの街は、ほんとは夕方だということもあるが人通りが少なかった。宿屋や食料品店、道具屋、武具屋などの様々な店が軒を並べていたが、どの店も最低限必要な明かりしかともしていなかった。これで光が取り戻されて発展すれば、やがてアリアハンの城下町のような立派な城下町になりそうだが。
 武具屋の向かい側の古い宿屋に泊まることに決めて宿屋に入ると、「旅人の宿屋へようこそ。どこからきなすったんですかね、お客さんらは?」40代半ばの主人がアルスたちの出で立ちを眺め乍ら怪訝な顔で尋ねた。滅多に客が来ないし、武装した客はなお更珍しいのだ。
「西の島からよ」
 ミゼラは最初に辿り着いた島のことをいった。ほんとうのことをいってもよかったが、一般人に説明するのは時間がかかり過ぎて面倒だった。
「じゃあ船できなすったんですね。よくまあ、魔物のいる海を・・・・・・」
 主人は感心してアルスたちを見た。
 たしかに航海中に魔物に襲われた。相手はキングマーマンという元の世界ではみ掛けない魔物だった。敵は攻撃力、守備力、素早さがバランスよく備わっていた。
「ベギラゴン!」
「イオラ!」
 ローザが、エルトがそれぞれ呪文を唱えて相手の動きを止める。
「ヒャダルコ!」
 キングマーマンが呪文を唱えたが、アルスが稲妻の剣をかざすと剣から稲妻が迸り相手の氷の刃をことごとく粉砕し、ミゼラがドラゴンキラーで倒した。今までの経験を生かせば、アルスたちの敵ではなかった。
 荷物を預けたアルスたちは宿屋を出ると、城の見える方角に向かった。ラダトームに着いたらすぐにラダトーム城を訪れることに決めていたからだ。国王との謁見が許可されるかどうかわからなかったが、ゾーマの情報を得るには直接国王から聞くのが手っ取り早いと思った。
 ラダトーム城は、街から徒歩ですぐの、小高い丘の上に聳えていた。城に辿りつき、要塞のような城門の細い頑丈な鉄柵の扉が開いたのは、アルスたちが名乗って用件を告げてからすぐだった。
 城の中を進んでいくと、ちょうど多くの城の住人と擦違った。アルスたちは最初は気にもとめなかったが、その中の何人かの人物は思わず足を止め、弾かれたようにアルスを見た。
「なんかわたし達、じろじろ見られてない?」
「ああ、確かにな」
 自分たちが見られているのに気が付いて、ローザやエルトは思わず警戒した。
 城の廊下を進んでいき、城のバリアの役目をしている中心部を抜けると荘重な階段があり、それをのぼると荘厳華麗な宮殿があった。この城の謁見の間で、城の住人たちを従えた国王が玉座について待っていた。国王はやせ細っており、長年の心労のせいか高齢のせいかはわからないが、血色の悪い顔をしていた。また謁見の間にいた城の人々の何人かもアルスの顔を弾かれたように見ていた。国王も同様だったが、すぐにもとの表情に戻ってしまった。アリアハンの国王がもしゾーマの苦しみに長いこと取り付かれてしまったら、こんな表情になってしまうだろう。今までどうやってもゾーマを倒すことは出来なかったため、アルスたちへの期待は殆ないようだった。
「うん?見ん顔じゃな」
 アルスたちが丁重に挨拶をすると、国王は待ち兼ねた様に尋ねた。
「はて?アリアハンとはどこかで聞いたような聞かんような国名じゃが?」
「実は・・・・・・わたし達は、精霊神ルビスがこの世界を創造する前にいた別の世界からやってきたんです・・・・・・」
 国王は驚きのあまり一瞬言葉を失った。ほかの人々も唖然としていた。
「信じられないのも当然です・・・・・・わたし達は・・・・・・」
 アルスが自分たちの世界のこと、バラモスを倒すために旅に出たこと、この世界にきた理由などを話すと、国王は深い溜息をついた。
「そうか、そなたらもまた上の世界から来たと申すか。そなたらの世界にもゾーマの手が伸びておったか。わしがこの国の王ラルスじゃ。わしのところに来るまでに人々の話からおおよそのことは聞及んでいるであろう」
 ラルス1世は語った。どこかその話し方はアルスがアリアハンでバラモスの討伐を命じられた時に似ていた。ギアガの大穴で穴を警備していた兵士の1人が穴に落ちてしまったが、彼はこの城で助けられていたようだ。
「わしは国王に在位してから、ずっとこの世界が平和で豊かな国であることを願ってきた。また、そのために努力もしてきた。ところが、19年前の、夏の夜のことじゃった。突如、この世界全土を大地震が襲ったんじゃよ。地震は5時間も続き、この世界は壊滅状態になった。だが、地震が鎮まると、この城と海をはさんで向こうに見える精霊神ルビスさまを祀った神殿が、魔物の手によって、異形の城に姿を変えられていたんじゃ。やがて暗雲に声が轟き、こう宣言しおった。『わしは魔界に君臨する大魔王ゾーマ!今このときよりこの地はわしのものとなった!すでに精霊神ルビスは封印した!いたずらに救いを求めるのはやめ、わしの言葉に従うがいい・・・・・・!』」
 バラモスがはじめてアルスたちのいた世界に侵攻したときに似ていた。いや実際はバラモスがゾーマのやり方を真似していたかもしれない。
「わしはすぐさま討伐軍を編成し、軍船を派遣した。だが、ことごとく荒波にのまれ、海の底に沈んでしまった。波穏かだった海は、いつの間にか激しい潮流と、恐ろしい大渦に姿を変えておって、島に近づくことすら出来なかったんじゃ。さらに、魔物の群れが、次々に街や村を襲撃し、破壊と殺戮を繰り返したんじゃ。わしはすぐに、ほかの街に援軍を頼もうとしたが、魔物の群れに邪魔されて、其れすら出来なかった。大地や森には、魔物の叫びが溢れ、そして・・・・・・2度とこの世界に朝はやってこなかった。見ての通りの、暗黒の闇に閉ざされてしまったんじゃよ。もはやこの国には絶望しか存在せん・・・・・・。しかしもしそなたらが希望を齎してくれるというなら待つことにしよう。今となっては、わしも高齢で思うにまかせん。だが、せめてわしの目が黒いうちに、再びこの世界に太陽の光を取戻したい。今は、それだけが望みじゃ。その日が来るのを見届けなければ、死んでも死にきれん」
 いい終えたラルスの目に涙が光っていた。アルスが尋ねた。
「今でもゾーマの城のある島にはわたることが出来ないんですか?」
「不可能じゃ。もっとも、太陽の石と雨雲の杖を手に入れることが出きれば別じゃがな」
「太陽の石と雨雲の杖・・・・・・?」
「そうじゃ。雨と太陽が合さるとき虹の橋が出きる古い言伝えじゃ。昔からアレフガルドに言い伝えられておるんじゃが。太陽の石と雨雲の杖があれば、自然と虹のしずくを手に入れることが出きるそうじゃ。そして、虹の橋をかけて島へわたることが出きるとな。だが、太陽の石も雨雲の杖も、どこにあるのかわからん。太陽の石はわがラダトーム王家に伝わっておるという噂があるんじゃが、わしはそれを見たことがない」
 ちょっと話が途切れたところで、アルスが少し話題を変えた。
「あの・・・・・・この世界の北東に塔があるって本当ですか?バラモスがいってたんです。『ルビスをとらえ、2度と動けんよう呪いで異世界の北東の塔に封印したんじゃ!』」
「なんと?それは初耳じゃが。誰か?」
 ラルスが驚いてほかの人々に聞いたが、彼らはそろって首を横に振った。
「どこに精霊神ルビス様が封じられておるのか誰も知らんこと。が、その塔なら、19年前に魔物の群れが進行の前線基地として建てたものじゃ。あのあたりはいつでも雨が降っている地域で魔物らもわしらも勝手に雨の塔と呼んでいるんじゃ」
 と、末席に控えて居た1人の兵士と50代後半の初老の男がラルスの許可を取ると、それぞれ1歩前に出て次の様なことを述べた。
「この国は精霊神ルビス様がつくったと聞きます。しかしそのルビス様さえ魔王の呪いによって封じ込まれたそうです」
「ただ、精霊神ルビス様を封印から解く方法が1つあるんじゃ。実は、某はゾーマが出現するまで湯治場として栄えて居たマイラの村出身なんじゃが・・・・・・、噂では、マイラの村に妖精の笛があるそうじゃ。村の温泉を管理している家に、昔から妖精の笛が伝わっておって、その昔、妖精の笛を吹いて精霊神ルビス様を封印から解いたという言伝えを聞いた記憶があるんじゃ。そして、その笛を鳴らせる者は、精霊神ルビス様に選ばれし者のみ・・・・・・」
「精霊神ルビスに選ばれし者のみ・・・・・・!?」
 ロマリアで再会したあの老人の顔を思い浮かべ乍らアルスが聞返した。
「そうじゃ。勿論、いまだかつてその笛を鳴らした者はないそうじゃ」
 アルスたちは思わず顔を見合せ、そして互にうなずいた。
 無言のまま目的地をマイラに決めた。
「ここから東の小さな大陸にマイラの村があるそうです」
 別の兵士が教えてくれた。
 その後、ラルスが一緒に夕食でもどうかと誘い、さらに宿を引払って城で旅の疲れを癒す様にと勧めてくれたが、アルスたちは丁重に辞退した。そして、アレフガルドの地図が1枚欲しいと告と、ラルスは妖精の地図と旅費に相当するアレフガルド金貨をすぐに持ってくるよう城の神父に命じた。
「この地図があれば少しは役にたちましょう」
 神父はそういってアルスたちに妖精の地図などをわたした。
(続く)

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ともちん

新年から小説が読めて嬉しいです。
続きを楽しみにしています。
少し遅くなりましたが、
本年もよろしくお願い致します。
by ともちん (2016-01-02 04:31) 

あばれスピア

ともちんさん
こんばんは。
今年は投稿の都合上新年からです。
今回はあと少しです。
こちらこそ今年もよろしくお願いします。
by あばれスピア (2016-01-02 23:03) 

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