第2章おてんば姫の冒険 1サントハイム(2) [DQ4-1]

第2章おてんば姫の冒険 1サントハイム(2)


 城では賑やかな食事がはじまろうとしていた。はるばる別の街からやってきた、旅の商人を持成す為に、見事な料理が出ようとしていた。みなが今日の料理を想像し、おなかを空かせ始めるころ、アリーナは謁見の間の階段を降り、足音を忍ばせて城の入り口に行こうとした。
「どちらへ行かれるのですか、姫様」
 城の入り口の廊下の端に、道を塞ぐように飾り物のように立っていた鎧の一つが囁いた。
「ちょっと散歩に」
「陛下のご命令によりここを通すわけにはいきませぬ」
「なにとぞお部屋に戻られますように」
 アリーナが言うと、2人の兵士が言った。見ればなるほど、そこかしこにさり気無く兵士や世話役などの従者らが散って、何食わぬ顔付きで周囲に目を配っている。敵対しているわけではないのに他所からやってきた商人を迎えた為だけにしては、いやに厳重な警戒だ。
 これは私に対する禁足だわ。ちぇっ。お父様も侮れないお人だわ!
 アリーナは唇を噛んだ。動きやすいいつもの服に着替え、さり気無く散歩に出て、そのまま出かけられないかと考えていたのだが、これではとてもダメだ。
 アリーナはわざと眠たそうな顔をし乍ら、堂々と寝室に戻り、女官たちに言付けて着替えを手伝わせた。絹でできたいつもの黄色の服と黒タイツに着替えて待ち兼ねたようにベッドに入り、さっさと寝言った様な息をたてると、女たちは静々と下がった。
 アリーナは目を開いた。勿論、少しも眠たくなどないのだ。暫く様子をうかがう。誰も残っていない。誰も戻ってこないようだ。
 やれやれと息をついて、アリーナは天井を向き、考え始めた。
 ずっと前から、こっそり準備しておかなきゃならなかったわね。食料やお金も用意しておいた方がよかった。
 あの入り口の兵士たちの様子では、3週間前のように、お父様からの許可はもらっているとウソついて通してもらうのも無理ね・・・・・・。
 アリーナは「もう」と寝返りを打った。
 なぜ男に生まれなかったんだろう。さもなければ、なぜ死んだお母様がそうだったというように、たおやかで控えめな性分に生まれつかなかったんだろう。
 母の顔を、アリーナは城の自分の部屋に飾られた若かりし頃の肖像画でしか知らなかったが、そのひとが絶世の傾城と呼ばれるほどのおとなっぽい美女であること、そして、自分が娘盛りの年頃に近づけば近づくほどに、はっきりとその人に似てきていることは、よく心得ていた。
 男子の跡継ぎを得られなかったにもかかわらず、父王が後添いを娶らぬことは、亡き妃に対しるその深い愛情を語っていると思われる。父は自分に母の面影を見たいと望、同時に、あまり見るのは辛いと感じてもいるだろう。そして、アリーナ自身もまた、母そのひとの生れ代りらしい娘になりたいものだと思いながら、決して同一になれぬのならば、いっそ全く違う生き方をしたいとも考えずにいられないのだった。
 じっとしていられない。
 紫の布団を跳ね除けて、アリーナは床に降り立った。音をたてぬ様に、旅支度の青いマントと、黒とオレンジのブーツ、オレンジのグローブを身に着ける。
 時がたてばたつほど、機会は失われるに違いない。よそ者の相手に、多少とも忙殺されている今日のほうが、まだ望がある。
 見ろ。女官たちは、あんな何喰わぬ顔をし乍ら、扉にも、窓にもちゃんと錠をかって行ったではないか。
 幸い、タンスの中には、羽帽子と薬草が備えてある。さっき身に着けさせられていた宝石の中から、サファイアの指輪を一つ手の中に握りこんで隠しておいた。
 どこぞで、金に替えれば安くても金貨100枚ぐらいにはなるだろう。
 問題はどうやってここを出るかだ。
 アリーナは壁を調べた!アリーナが壊した壁は、既にアリーナが謁見の間に呼ばれている間に大工が直していた。壊した東の壁の窓枠から、はっきりと頬に夜風があたった。木々で修理してあるだけなので蹴破れそうだった。突然の修理依頼だったので、今日の修理は応急処置のような状態だったのだ。
 アリーナはニッと笑った。静かに壁に向って後ろに下がって距離を取ると、助走をつけて走りだし、勢いよく壁を蹴破った。
(続く)

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